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リハビリ ラブ  作者: 黒田 容子
リハビリ ラブ  -シオリside
4/24

風邪をひいた心は

この頃 正直 忙しくて 嫌な感じ。

理由は 大林くんの会社が 繁忙期に入ったから

仕事がある、オーダーがあるのは 確かに有難いお話だけどね。

さすがに、連日 残業ってのも 結構 堪えるのよね


「もーいやっ!」

背伸びしてる中 FAXが受信する音が聞こえた

相手は またもや 大林くんの会社

嫌と思ったそばから また 依頼かあ…

何度目かの「もーいやっ!」を 呟いた



後輩は 一通り帰した

…っていうか

面倒になると 人に投げて逃げてるチャッカリちゃんだから どうせ 戦力にならない

本人も 自分のキャラクターを分かっているのか 見え透いた演技で帰っていった。

定時前後になると ケータイ持って トイレ行くのは どうせ 誰かと用があるんでしょ?

繁忙期の最中くらい 空気読んで 仕事してよ、と思うけど 口を訊くのも面倒で 黙って見送った


先輩…というか 営業たちは シレッと直帰

取ってきた仕事の経過なんて 興味なくて 手配の結果と入金額しか気にしてない


事務所は 残念ながら 私一人。

…残念ながら?

本当にそうかしら。 面倒くさいのがいなくなった分 少しだけ 気が楽になったかも




「では、先程の 千代田区の件で 本日は 打ち止めですね?」

とっぷりといい時間になった夜の事務所。

「すみませんね、あれで最終だから」

大林くんから 謝り電話が掛かってきた

ああ、と返事が返される

やった、終わりだ! 喜んだ側で

「帰り、遅くして いつも悪いなとは 思ってはいる」神妙な言い方された


「…まあ… お互いさまですから…」

当たり障りのない言葉で 当たり障りのない話し方で 返す

仕方ない、とは 頭では思ってるし、ね

謝って貰ってるから 正直 もう割り切るしかないんだけどね。

でも やっぱり ちょっと 恨み言の一つも浮かんでくるものなのよ

無言の空気が ちょっとだけ 重たく黒くなる。

それを悟ってくれたのか「牧瀬さんって 家、近いの?」

帰宅を 遅くして 申し訳ないと 言いたげな雰囲気


「まあ…はい」

プライベートに踏み込んだ質問に 答える必要もないけどね、本当は。

「独り暮らしですよ、近場で。」

気持ちが ひび割れカサカサな感じだったから 今は 無性に 話し相手が欲しかった




ウチの職場に、入社五年目の男の子(営業)がいる。

いつも、ケータイいじりながら 何をするでもなく 居残ってる

帰ればいいのに。 最初のころは そう思ってたけど、

あ、帰らないのは 近くの会社につとめるカノジョさんの仕事上がり待ちかしら そう気付いてからは 「居ないもの」と思うようになった


それでも、フロアに一人も いなくなると。

やっぱり 気持ちががらんどうになって なんだか風邪を引きそうになる

今もやっぱりそんな感じ。



客先の担当者:大林くん と 受注の実務担当者:わたし。

お互い 電話で仕事とは無縁の世間話をしながら、自分の残務をしている。

電話のむこうで、キーボードを叩く音が聞こえるし、私が電卓を叩いている音も もしかしたら聞こえているかもしれない。


「毎年 繁忙期が誕生日なんです。

 祝って欲しい歳じゃないけど、この会社入ったときに 諦めました 」

アタシ、なんでこんなことを お客さんの担当者へ話しちゃってるんだろう。


そうは 思っても、言わずにはいられなかったんだよね。

毎日 会社⇔職場の往復 だけの生活に、寂しくなってた。

だって、連日 残業よ?

しかも、当の電話の相手のカイシャで。


観たいテレビだって、全然 見れていない。

寄りたい定食屋にも 行けず。

息が抜けてない、からんからんの心に、誰か… 構ってくれる大人が居て欲しかったんだもん。



「ふぅん 」

電話の向こうから 優しいため息が聞こえる

疲れて 一安心したときに、ついつい漏らしちゃう 深い息

「そうなんだ」

クスっと笑う声の向こうに、キーボードを叩く連打音が聞こえる。

きっと エンターキーを打って、テキストボックスを渡り歩いているのかしら。


「職場から 何か貰ったりするの?」

笑う 柔らかい声に促されて 「残念ながら この時期にそういう催しはないんです」と答える。


「実はね、会社員になったとき、憧れてたんです。

 ちょっとオシャレな居酒屋でサプライズパーティとかバーで乾杯とか」

でも 現実は 甘くなくて。

自分の誕生日の時期は 繁忙期だし コレっていう 先輩も後輩もいないし

極めつけは、

「そもそも、もともとが ウチの会社 車通勤多いから 飲みにいかないんですよね」


就職してから 我に帰って気がついたんだけど。

物流会社は、「人の便」よりも「物的流通の便」がいいところに 社屋を構える。

だから、正直、電車とバスの便がいいところには 営業所がないことが多い


失敗した、と思ったけど 

無駄に華やかで、息苦しいケバケバしさと縁が切れると思えば、自分を慰めることはできた。

一番面倒だと思ったのは、「ランチメイト」という名の「昼休みを一緒に過ごすだけの友たち」

それが居なくて済むだけ、今の職場は 居心地がいいと思う

女同士の見栄の張り合いとか、リアルに煩わしい。

無くてよかった。


「へぇ、誕生日になったら、欲しいのは 物 じゃないんだ」

んー 別になんでも?

なくてもいいし。


この年になると、ある程度 買い揃ってるから、すごく欲しいとかも無いんだよね。

キャラクターグッツとか 遊園地とかも卒業してるし

流行とか興味ないから、映画とかドラマも見ないし。

部屋に荷物増やしたくないから、雑貨とか アクセサリーも 気に入らないと買わない。


「あ、それ わかる気がする」

大林君が ふふふ〜っと笑う。無邪気に聞こえる声が なんかいい。



「じゃあ、繁忙期 終わったら 打ち上げやろうか? ビリヤード、やる?」

「ビリヤードですか」

あんまり。っていうか、学生時代 やってる人がいたというレベルで。


「ハマるかどうか は分からないけど、教えてあげるよ。

 俺、今 トリッキーに散らしてくれる練習相手が欲しくてね。」


練習相手? んんん?

「それって、ど素人の未経験者だと、ミラクル的な展開起こしてくれるからって意味ですよね?」

なんか、体よく誘われてる気もするけど 軽く「遊ぼうよ」と誘ってくれるのは なんか 純粋に嬉しいかも。

社交辞令だとしてもね


「じゃあ、決まり。

 俺がよく行くところは、バーが 併設されてるから、飲みながらでもできる。

 ノンアルコールカクテルも たくさんあるから、そこそこ 楽しめると思うよ」


あ。

決まっちゃった。

私、なんか、遊び相手もいない 寂しい女と思われたかな?


ま、いっか。

大林くんだって どうせ そんなもんでしょ?


あたしは所詮、業者の担当者…しかも 一回しか会ったことがない程度の「電話とメールだけの間柄」を 自分の趣味の練習相手に誘うんだもん


そんな褪めた私は「男の人と 夜に二人で会う」のが 久しぶりなのにも関わらず イマイチ 盛り上りを感じていなかった

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