ただいま リハビリ中
タカノリは、いつも唐突。
二人で晩酌の金曜日
ふと、タカノリが切り出した
「パソコン詳しい奴が、自作PCを安く作ってくれるって。どっかの日曜日で、家に呼ぶから、宜しく」
その時は、軽く「そうなの?」聞き流したんだけどね
びっくりしたわ、その 当日。
話の通りのその日曜日、「自作中古のPC」は やってきた。
待ち合わせの駐車場に現れたのは、すっごいイケメン。
タカノリが「リュウイチ、悪いな」出会い頭に言う。リュウイチ、と呼ばれた男の人は 軽く笑った
「別に大丈夫だ」笑った顔は、威力がありすぎた…
タカノリも まあ『イケメン』ではあるけど、目の前の『リュウイチ』さんは ケタが違う。
この人、こちらが緊張するくらい… イイ男。 彫りの深い目鼻立ちに モデルのように生活感のない白く綺麗な肌。目が合うと僅かに 口許が緩んだ。
冷ややかに見えるのに、今の表情をみれただけで 何か 嬉しいって思っちゃう。
ねえねえ、タカノリ、どういうお知り合いの方なの?芸能人っても 信じてしまうわ
どうにも 目の前に立っているだけでドキドキしてしまう。
家にはいってもらい、取り急ぎ 寛いで貰ってから。台所でお湯が沸くのを待ちながら 思った。
これって、浮気心の始まりになるのかしら?
いや、やましいことに踏みきった訳じゃないし 間違いも起こしてないんだけど。
ただ、恋人を前に 違う男の人にみとれしまったのが…バツが悪いというか…
ヤカンから立ち上る かぼそい湯気を見ながら ぼーっと物思いは つづく
そんなことより私、どうしちゃったんだろう?
どんな「イケメン」と呼ばれる人が来ても、何とも思わなかった。
のに、あの「リュウイチ」さんを見たときは 目も合わせられなかった
リュウイチさんが 絶世にイケメン過ぎるのか、それとも 私が…おかしいの?
しばらくしたかもしれない
「詩織、ごめん ちょっと来れる?」
タカノリが呼びに来た
「あ、待って。飲み物も 御出し出来てないのに…」
「平気じゃね? リュウイチだし」
だから…その…、リュウイチさんって御方に 緊張してしまうの
「シオリ? 」
無言を貫いて、拒絶を示す私を タカノリが「そういうことね」と、一人納得した
「リュウイチに 見とれちゃった?」
うっ その通り。
「腰が抜けて動けない?」
いや、う 動くけど。
「へぇ、俺より リュウイチ?」
タカノリが イジワルな顔して 私を見てる。
「ベタに お仕置きとか されたいワケ?」
嫉妬というより むしろ、楽しそうに「結構 いい理由だよね」と 私を抱きよせる
「タカノリ、今は ダメだって」
タカノリは 聞こえないフリを続けて そのまま首元に顔を埋めてきた。
あっ、キスマークは 止めて… ビクッとしたら、耳元に届いたのは、派手なリップ音。「(聞こえちゃう)」ビクッともう一度構えたら、甘く優しく囁かれた。
「リュウイチの事だから。俺が呼びに言ったあたりで 全部 気が付いてるよ?」
…いや、だったら、ますます いいワケないわよ
でも、その言葉は 言う前に塞がれた。
タカノリが フッと 唇を落とす…何度となく交わしてきたキスだったけれど、今までで一番さりげなかった。
絶妙な力加減で、唇同士が重なって、互いの柔らかさが心地いいと思った。
そこから、軽く啄まれて…みるみる力が抜けていく。
タカノリの身体って、細身の筋肉質で、顔だって無駄な肉を削ぎ落としてスッキリしてるのに。
唇は、力が適度に抜けて柔らかい…男の人の唇って、あんなに優しく出来ていたのね。
何もいえない私へ タカノリは、ゆっくり続けた。
「いきなり現れた奴に よそ見されて、ヤキモキしながら 振り向かせ直したり。
キスした彼女が 案外可愛くて、隣に人がいるのに、止められなくなりそうになったり。
…それって、全部 相手がいないと 出来ない。」
タカノリが 私の顔をのぞくように言う
「シオリと付き合って良かった。恋愛が 楽しく思えてきた」
ニヤリともスクリともしないけど、私をオトスには 十分だった
「先、戻ってる」
タカノリは、今度は、頬へ颯爽とフレンチキスだけして 戻っていった
…ひとりまた残された台所。
さっきとは 違うドキドキが 腕とか胸とか 頬とかに残ってる
タカノリといると、いろんな気持ちが出入りしたり、とどまったりするわ。
でも、不快じゃない。
ぐちゃぐちゃには なるけど、恋愛って そういえば こういう気持ちだった。
タカノリ、私も 貴方と恋愛出来て 嬉しい…
ほんとうよ?
オトコのひとに興味が無くなってたけど、ちょっとカッコいい人にドキドキしたり、気恥ずかしくなったり。
でもやっぱり、いつも一緒の貴方が一番って気付いたり。
そんな気持ちって、全部 貴方がいないと味わえなかった。
ありがとう、タカノリ。
戻った頃には、パソコンは、無事作動していた。インターネットだけでなくテレビも映るし、デジカメ・スキャナ・プリンターにも一通り繋がって、いうことなしの状態になっていた。
リュウイチさんは、「何かあったら、連絡くれ」早くも帰り支度を始めている。
え?何もお出ししてないのに?
「これから嫁と出掛ける」
「あっそ」
タカノリは、ヒョウヒョウと答える
「…お邪魔しました。」
リュウイチさんは、手荷物をまとめるとすたすたと玄関へ行き、「じゃあ」見送りも待たずにさっぱりと帰って行ってしまった。
「お茶もお出ししてないのに…」
呟けば、タカノリは、意地悪く笑う
男同士なんて、そんなもんなのかしら?
「俺が飲む。でもって、俺をもてなしてよ」
何かを伝えようとする目、笑い方。
手を引かれるままに座ったソファに、そのままタカノリに引き寄せられて。
気づいた頃には、タカノリに覆い被さるように寝転んでいた。
「なかなかイイ眺め。」
タカノリが笑う
「このまま、俺を煽ってみてよ?」
そんなイジワルを相変わらずいう日曜日の午後。
タカノリの一言は、いつだって唐突だけど 甘い経験に導いてくれる。
タカノリに誘われて、私はそっとキスした。
彼のほっそりした指が、ゆるゆると伸びてくるのをこっそり期待しながら