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リハビリ ラブ  作者: 黒田 容子
リハビリ ラブ  -タカノリside
17/24

一人の夜に思うこと

静かで 穏やかな 夜のことだった

カラカラ…自宅のベランダの戸を開けた

途端、空気の塊が ゆるやかに部屋へ 運ばれてくる

嗚呼、今夜も いい風が吹いている…

湯上がりの肌を風にさらし、柱へもたれた


風呂上がりに ベランダで涼むのが 昔から好きだった

けれど、女家族たちは 何かと嫌がっていたのを 思い出す。近所の目とか、目に毒とか。好きに言われたのを思い出して ふと 忍び笑いが込み上げた


あれから 両親は 「余生は田舎で」と 帰っていき、姉と借りて住む今のアパートは 切り出した姉自身が 転勤だとかで 出ていった



部屋からは何の物音もしない

いつもの夜、静かすぎる夜


プシュ

プルトップを押すと 空気が切り出したいい音が響く

「(…今日ぐらい いいだろ…)」

酒は強いが、強すぎるので なかなか酔えない

なので あまり普段から飲まないようにしているが、今日は なんとなく飲みたかった


「(牧瀬さんって、酒、強いのかな)」

どこともなく 思考が始まる

そういえば 一緒に飲んだ事がない

「(ほろ酔いになって、緩んだ顔とか みたい…)」

いつの間にか、自分の顔が 緩んでは 優しい気持ちになっていた



告白しようと思った夜に悪酔いして 逆に 介抱された男を知っている

言おう言おうとして 逆に 先手打たれてしまった男も知っている


二人ともいいヤツだけど…ああは なりたくないよな…

当時の状況を話す当事者たちの苦笑いがよぎった

二人とも その恋は実り、一人は結婚。もう一人も 順調なスタートを切ったという。

それぞれの顔が浮かび いつしか 俺にも 伝染している



煽られた覚えはないが「一緒にいたい」素朴にそう思える相手が 俺にも出来た

少し 久しぶりすぎて 驚いたけど。

「(俺は きちんと 自分の言葉で伝えたい。)」



若干 多目に喉へ送り込んだビールが 一気に下りていく

吐き出した息が 暗闇へ溶けていった



向こうは… 牧瀬さんは まだ「無自覚」だろう

「男」として 意識されてるのか…から、疑わしい、正直。

でも、好きか嫌いか聞かれたら、好きの部類と答えるだろう とは 思ってる。

ぼちぼち 動いても いい気はする。



吐く息に任せて、空を見上げると その先には 雲一つない

「星が綺麗だ」

腰掛けて 見上げたまま、壁に持たれた



幸い この微妙な間柄を察しているのは マスターぐらいなものだろう

互いの職場の聡い人間なら 察してるかもしれない

俺の職場は 何がどうとは 言ってこないが…

「(むしろ 丁度いい)」

ふと 独り言が浮かんだ



これは 昔の記憶だ。

気に入った子が出来たり、逆に 誰かに気に入られたりした時。

これが 何かと 面倒だった。

要らぬ外野 野次馬 に 妙な膳立てをされるのが 好かない。


毎回、女の子が 引くに引けない顔で俺の前にたつのを見てきた。

それが 一番 嫌だった。

背後に、友人一同とかが見え隠れしている

追いたてられられる様に、けしかける様に、人をそそのかし、その実 経過と結果だけを 楽しんでいる

その他人事の様が 気に入らない


相手の女の子にも 正直 同情はした。

自分に気持ちがないだけに、口には出せなかったが。


今回は それがない

静かに ひっそりと 気持ちを味わえるのがいい



もし、このまま。

俺のタイミングで 俺の言葉で 俺の意思を伝えたら、どんな顔をされるだろう


本当の正念場は そこからだけれど 時間はたくさんある

つまらぬ 外野はいない。


彼女とは 徐々に 様子見と軌道修正をすれば いいだけだ

よく転んでも 悪く転んでも お互い大人だ。

最悪は転ばまい



少し、うとうと したようだった。いつの間にか 髪が乾いていた。

どのくらい 寝てしまったのか… 幸せな気分で目が覚めたものの、何だか 物足りない。


遠くで 充電中のケータイが 瞬いている

鳴ったのも 気が付かなかった。

いつもは 職場か家族出ない限りは、翌朝にするが 今日は 開いた


「急ぎでもないんだけどな…」

メールが一通

店のマスターからだった



とっておきのチョコレートが手に入った

なかなかのモノだから、近いうちにおいで



ふっ と笑う自分がいる

「了解」

その返信を打ち、いい音をさせて ケータイを閉じた


夜に 人恋しいと思うのも、久しぶりな気がする

何がきっかけで 自分が変わってしまったのかすら 覚えていないが、人としては これが 正常なのだろう



素直に思う、一緒にいたい。と

好きだから 一緒に過ごしたい


ひどく 俺自身が 変わってしまった気がするが、今は 自然な事に思えるのだから 仕方ない。



物思いも経て また見上げた空は、星座の位置が 少し 変わっていた


いい加減…寝るか…


戸を締め、カーテンを引きながら 念じた

「おやすみ」という 言葉とともに 自分がおもう相手と 例のチョコレートを 口に含む日が 訪れる事を…


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