直球を突きつけられ
ちょっとお下品な話が混じっています。微量にはしましたが… 嫌な思いさせたら済みません
ふと 目が覚めた時、どこかで 集まる子どもの声がした。
ラジオニュースが終わり、国民的な有名曲が流れた
「子供は 夏休みか…」
不意に 起こして貰えたのは 有り難かった。
が、いい寝起きとは 言えない朝だった
フワフワとする身体、その癖、意識は 過敏に鋭くて。
裸眼ではぼやける視界へ 枕元の眼鏡で 輪郭を捉える
(…うっ!)
腰が抜けたように 力が入らない
体調不良ではない。むしろ 男としては 極めて正常。
下腹部の更に下が… 変に熱い
「(…妙な夢だった…)」
出社には まだ十分に時間がある
歩きながら、Tシャツを脱ぎ捨て、風呂場へ向かった
「(寝具ともども 今日は 洗濯だな…)」
まずは 凛と冷えた水を 真っ向から浴びた。
身体の中で淀んでいたまどろみが 洗い流され、感覚は ようやく戻った
髪をタオルで拭いつつ、身体の水滴を払う。
「今日の1便は、朝礼直後か…」
記憶をたぐり 仕事のスケジュールを確かめた
時間的に のんびりした出社は出来ない。
乱暴に 洗濯物を 機械へ放り込むと すぐに スイッチを押した
「リン兄、おはよう!」
うちの上司は 朝が強い。しかも、声が大きい。
毎朝 「おっはよ~!」と 色んな人へ声を掛けて歩いている
その声で いま どこにいるのか、場所すら特定できるぐらいだ。
「リン兄、どうした?」
いや…
「気のせいなら いいけど」
そして 時おり とんでもなく 勘が鋭い。
自分自身への視線にはニブくて、行き当たりばったりで、ドジも踏むし、騒ぎも起こす
だが、たまに 人に対しては、ギクリとするような事を 直球で言い当てる
動物の勘に近い。よく見ている
「リン兄、昨日 ちゃんと眠れた?」
今回も図星の一言なのは、女の勘か…? 思わず 手が延びる
「いっ、いったー!」
チョップを見舞ってやった。安心しろ、爪はたててない
組織図上は 上司
だが、彼女の入社以来 センターの基本を教えたのは 俺だ
二人になると、「蕃昌」と呼び捨てをしている
蕃昌は、今は結婚して「柏木」だが、「呼びづらい」と言ったら「旧姓のままでいい」と笑ってくれた
周りで パートたちが 口許を隠しながら笑っている
今日も センターは いつも通りのスタートを切った
「リン兄、朝から悪いんだけど 急いで、TSTへ行ってきてくれる?
担当は、牧瀬さん。事務の女の子よ」
朝の夢の相手の名が、いとも簡単に出る。何も知るよしもない目の前の蕃昌。
「本社物流部に、経理監査が入った。業者の契約管理台帳に、TSTが載ってないが分かってね」
眉間を いった…い と摩りながら、口ごもる声でいう。
契約書・見積書原本を 急いで回収してきてほしい。 昨日の時点で、連絡はしてあるから。それが用件だった
本音を言うと、今日の今日は、会いづらい。
ただ、私情をこんなところでいう訳にいかない。
胸元がざわざわと 騒がしく感じるまま、わかった。と返事をした。
一瞬、脳裏の奥で 今朝の夢が掠めないでもないが、頭から追い払わなければ、なし崩しになってしまう
「リン兄?」
残念ながら、蕃昌の警戒センサーに触れてしまったらしい
「大丈夫だ、行ってくる」
牧瀬さんの会社に着いたのは、昼も意識する、午前中も遅めの時間帯だった。
すぐさま 応接室に通され、担当の営業が書類を持ってきた。
牧瀬さんが出てこなかった。まずは、安堵しつつ「悪かったな。手間掛けて」と目の前の営業へ詫びた。
いえ、そんな! と、無駄に恐縮する男を無視して話を続けた。
「ウチから連絡が行っているかとは思うけど、内容を確認させてもらうよ?」
基本契約書、見積書一式。
頼んではいなかった物も同封されていた。
規約同意書と作業仕様書が添付されていたのは、手際が良かった
これは、ペナルティ時の損害賠償額を決める場合、ひとつの指針になる。
「気が利くね」素直に褒めると、あ、はい。と生返事が帰ってきた。
「牧瀬さんによろしく伝えておいて」
どうせ、作ったのは 彼女だろう。
出されたアイスコーヒーも、営業はミルクと砂糖がそれぞれ出されていたが、俺の方は、砂糖が2本のみ。
彼女は、俺が甘党なのを知っている。
用事は済んだが、荷主としては、実際に配送で使われるTSTの常駐車両を見ておきたいのもあった。
「時間的に、出払ってると思うけど 同系車両を見せてくれる?」
職場のドンが言っていた。「車が小汚ねぇ運送屋は いい仕事出来ねぇ」と。
これは、指示を守った抜き打ちチェックみたいなものだ。
相手の男が、意図を図りかねるのか、相変わらず怯えたままの顔に、ふっと笑っただが。
「今、早朝便が帰ってきてる頃なので、ホームへ行けば 見れると思います」
だが。
運行中の現役車両が着く場所は、他の荷主との規約上、関係者以外入館できないフロアだという。
「マスターカードがあれば、通るだけは出来るんですが」
あいにく、営業には渡されていないそうだ。
「取ってきていいですか?」と聞かれたので、「俺も 一本電話させてもらうよ」と 二人とも面談ブースを出た。
電波の強いところを求めて、知らぬ会社をさまよう。
牧瀬さんに 会いたいような、会いたくないような…。ビミョウな心境のまま、たどり着いたのは トイレと併設された給湯室の前だった。
給湯室の電気が消えているのに、足元に人がいるのでハッとした。
女子事務員が、床を拭いていた。雑巾で、丁寧に。
こ洒落たかんざしで留められた長い髪、後れ毛が色っぽい
胸元が覗けて、色まで見えた。そして、スカートからの脚も。
男としては ラッキーと思ったが… 相手が顔を上げる前に 目があってしまっては、気まずい。顔だけ一瞬みて 静かに、立ち去ろうとしたが。
(嘘だろ)
ゆっくり 首をそむけた。相手は… 今朝の夢の張本人。
また静かに熱帯びた身体を意識した。
ゆっくりとその場を後にしようと思った矢先、無邪気な声で 我に返った。
「…いたいた、大林さん!!」
このバカ野郎。そんな大声で俺を呼ぶな。
俺が ここにいるのを、知られるわけにはいかない。
だが、こちらの心の罵りを知るわけもなく、疑うことをしらぬ表情のまま「どうしたんですか?」と聞かれた
「あぁ、悪い悪い」
男の矜持として本当に悟られる訳にはいかない。まだ用を足せてない旨を伝えて 営業と一旦離れた
「参った」
おかしい。
やはり今日は、朝から どこかおかしい。
こうもあっさりと 中高生のような状態に追い込まれるなど、普段では考えられない
一瞬しか見ていないだけに、鮮やかに記憶から呼び出せる。
記憶が自分を惹きつけてやまない。たまらない。
こうも いきなり自分が変わってしまった
いや、もう どこかで少しづつ変わっていたのを、無意識に 押さえ込んでいただけだ
素直だったのは、身体で、遂に 訴え出てきた
仕方ないが 腹を括るとしよう…
俺は どうやら 牧瀬さんが好きらしい。
夢にまで現れ、シたいと思うほど。