表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リハビリ ラブ  作者: 黒田 容子
リハビリ ラブ  -タカノリside
13/24

たまたま 性別が女、なだけだ。

クマ吉が本社へ行き、俺は 現場に残った。


当時、会社の方針が大きく転換した。

簡単に言えば、関連会社がいろいろと合併した。

俺がいた建物もまた、こまごまとした関連会社の物流部隊を吸収。

何かとせわしない毎日だ。

ここで今クマ吉を、本社に獲られたのは痛手だった。

仕事的にも、個人的にも。


昔は、気兼ねなく「今日、どう?」誘えた。

が、今は勤務地がまったく違う。

遊び相手でもあった奴が いないのは 何かと苦しい。




そんな頃だった。

店へ ちょっといい感じな取引先の女の子を連れていった


「いい感じ」というのは、「タイプ」「好み」とかの「気になる子」の類じゃない。

いいな、と思ったのは、全てにソツがなく、賢い子だから。

地味だけど 自然体で全てがさりげない

精神的にも 落ち着いてるいい子だ、と思う。


クマ吉と似てるようで、すこし タイプが違う。

だが、俺が 仕事抜きで会話してもいいな、とおもった貴重な人間だ。

話しているうちに、もしかしたら?と 軽い気持ちで誘ってみた。



それから数日後。連れていった後日に、俺自身が一人で店へ行ったときだ。

マスターが 聞いてきた。


「大林くん、あの子 どういう繋がりなの?」

何って… 仕事上の「業者」だよ

「いい子じゃん」

だろ?


一言でいうなら「気が利く」

常に こちらを読んで 先回りの会話をしてくれる

差し出がましくない程度なのが、なお いい

俺が言いたい「賢い」、とは このことだ

会話に華はないが、その匙加減が分かっている

元から 平均的に能力が 高いのだろう

辛辣だか、あそこの会社の営業担当より使える。



俺は あくまで 「デキた人間」を店と引き合わせて、「顧客」を増やしてあげただけのつもりだったが。

マスターは 含み笑いを絶さない


「嬉しいなあ、大林くんが 女の子と一緒にくるなんて」

俺だって まったく女に興味がないわけじゃない。

ただ、その先のお話は 誰とも沸かないだけだ。


正直なところ、連れてくるのは、男でも別に良かった。

所詮、ビリヤードの対戦相手だろ?

たまたま、相手の性別が女だっただけだ。

そもそも、俺自身が「女」を求めてない。

あの子も「女」を匂わせない雰囲気がある

だから、俺には 付き合いやすくて、連れて行った



なのに、今夜は マスターの調子がおかしい

「大林くん、あの子の事 絶対もっと好きになるよ」

ご信託めいた断言に、さあ どうだろうな と首をかしめるだけの返事をし 俺は 手元の飲み物を飲んだ




「『あの』って…」

そういえば、名前を教えていなかった。

牧瀬詩織とかいて、まきせ しおり

勤めているところは知っているし、仕事も知ってる…俺の勤め先の業者だからな。

ただ、知っているのは そこまでだ。

年も、連絡先も、知らない。


牧瀬さんとは、発注依頼をだしているのがきっかけで 世間話も するようになった。

会話の中で「職場関係の人と オシャレなお店で 仕事帰りに飲んでいく」ライフスタイルに 憧れると言っていた。

確かに、この業界にいると、帰りがけに一杯という習慣がない

飲酒で免停は、一番笑えない

憧れる気持ちも分かる。だから、連れてきただけだ。



「この前 一人で飲みにきたよ」

ふうん

「紹介した甲斐があるよ、良かった」

会話は返したのに マスターは まだ何か言いたげだ


「一人で練習してた。」

へえ、それは 面白いな

グラスを揺らして、音を楽しみながら また 喉を潤す

それをみた マスターは、やれやれ という渋く笑う顔を隠さない。


「気に ならないんだ?」

何が?

「彼氏がいるのかとか、一人にして悪いなとか」

「生憎ね」

彼氏がいるなら、彼氏と練習すればいい。

一人でくるなら 居ないのだろう

俺が誘って、それで来たというのは 定まった男が居ないのか、気にしない男が相手か。


ああそうか、彼氏いないかもな

居てもおかしくないが 思うところがある部分に 一人納得をする俺


一人、合点していると マスターの視線が、また刺さった。

言いたいことは分かる。

だが、ご期待に添えなく残念だが「誰かとどうこうなりたい」とか 俺が望んでいない

それに、牧瀬さん自身もまた 望んでないだろう。

お互い、そういう気がないから あの日が成り立った



マスターは 先ほどからの含み笑いを続けながら言った

「基礎だけでも 教えてあげて。

きちんと教えてあげれば 後は 自分で上達するだろうから」

大林くん、連れてくるだけ連れてきて 放置ってのは 冷たいよ。


なじるマスターの視線が 真綿で絞められるように痛かった。

それも一理あるかもしれない。


…分かった、と 呟いて 今日何度目かの飲み方… その場を誤魔化すように ドリンクを口元へ流し込んだ。

何が分かったかは、とても 言えたものじゃなかったが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ