リハビリラブ
33過ぎたときに 恋愛なんて諦めた。
もうないと思ってた
でも、貴方に出会って、恋を思い出した。
男の人って 確かに そういう生き物存在してた。
私って、女の人っていう生き物だった。
貴方に出会って それを思い出した。
恋愛なんて、って 軽蔑してたあのころの自分を否定するつもりはないし
それもまた 私の一部で、あの頃の私の中に 今こうやって 恋を謳歌したいと願ってしまう別な私がいる
人生って、自分って、変化って、すっごく不思議。
昼下がりの日曜日。
買い物して帰ってきた時 タカノリが 爪を切っていた
背が高くて 手足も長い スラリとしたタカノリ
床に座り込んでも 大きいんだな、と ほほえましくみる
タカノリの職場は 機械部品の保管倉庫らしい
この前 言ってた
こういう仕事してると 爪が伸びるのが速いんだよね
って
私よりも 大きな爪が 小気味良くパチンパチンと切り落とされていく
「どうしたの? 見てて楽しい?」
となりに座った私を 覗き混むようにみるタカノリ
隙がないほど 顔立ちに仕草が整った顔が 不意に 無邪気になる瞬間に 私は結構弱い
いつも ドキッとしてしまう
キュンとして しばらく 物思いに囚われてしまう
あのね、その手が いろんなこと…
マウスをトントンと 軽く落とす動きがきれいとか
紙を丸めたゴミを放る様が 思いきりがいいとか
バーで飲む時のグラスの持ち方が 優雅とか
その…
ベッドで私の奥に触れるのも 同じ指なのかなあって
溜めた息が 素肌の弱いところへ かかった時の感覚を ふと思い出して。
あ…一瞬 見られたら恥ずかしい顔になってしまった、かも。
爪切りは まだ 何事もなかったように続いている
長い指が 足の甲を包んで 手際よく進んでいく
「ねえ 何考えてた さっき」
フフフ、と笑う顔。絶対 気付いてる。
「ナイショ」
「ふうん」
知られたくない。知られてもいいけど、恥ずかしいもん。
…指みてて 悶々としかけたなんて。
おもむろに タカノリの顔があがって 目が合う
長い指が 上がってきて、お互いの顔の間で止まった
これでしばらくは 大丈夫。
独り言のような ちいさな声がして、ね?と 返事と確認を促された
なぜ?
表情で返事した
クスクスと笑うような 緩い表情…
魅入ってたらおもむろに 私の唇に ふわりと 指が押し当てられて 一言
痛くないでしょ?
リップクリームを 拭う仕草に
キス、してくれるのかな
一瞬の期待が沸く
抱きよせるの?それとも 来てくれるの?
構えていたのに。
ズキーイイイン
耳を塞ぎたくなるくらい キツい音が 頭の中に響いて
いったーい、悲鳴とともに デコピンが飛んできたのだと気が付いた
ハハハハハ と タカノリの高笑いが響く
「ウチの職場の人も 毎回 引っ掛かってたよ」
酷い! 雰囲気台無し!
猛抗議を背中で受け流しながら 切り終えた爪を 捨てにいくタカノリ
デコピンだから まだ 痛くないと思ったんだけど。
戻ってきて 悪びれずに言う
「タカノリ 性格悪い! 職場でもやってるの?」
「もう やってないよ」
じっと私をみる
ホント? うん
「職場の上司が 新婚でね」
戻ってきたタカノリが 私の隣に座る。ふふふ、と笑う顔が かわいい。
「俺より年下なんだけど、いつも『リン兄』って呼ぶんだ」
大林の林を『リン』と読んで リン兄
「タカノリ、『リン兄』なんだ。」
私の職場で評されるタカノリは、超然としていて 淡々と話を進める「読めない切れ者担当者」だけど。
その電話のむこうでは、イタズラもするし、兄として慕われ?てもいる。
そして、みんなが居ない 本当のプライベートでは、ぼーっとした顔が似合いながらも、ベッドへ昼寝では済まなそうな昼寝を 誘う健全なメンズだったりする
あなたがもっと知りたくて、言葉が続かないほど たまらなくなる。
そして、変わっていく私を もっと知って欲しくて 誘われた手を重ねたくなる
こんな私じゃなかったのに。
どこかで冷えきって 成長が止まってしまった私なのに
でも、溶けて柔らかくなって 広がっていく私がまた 不思議にいとおしかったりする。
恋をして 気持ちの中が すっごくピュアになってる今が 実は 気に入っていたりする
在り来たりだけど、これが 世間でいう「イイ恋してる瞬間」かも。
やっと 気持ちが 追いついてきた。
あなたが 追いつかせてくれた
「どうした?」「なんでもない」「そっか」
ふたりで 照れくさく笑うのすら 幸せ。
これは そんな私のリハビリラブ
これで 一旦、一段落ですが~
次回からは、タカノリ視点のストーリーになります。
スミマセン…
まだ続くんですよ~