ハッピーライフ確定!異世界転移、成功したと思ったんだけど
◇◇◇
森の中で目を覚ました。
鳥さん、緑の葉っぱさん、おはようございます。
すごくいい夢を見ていた気がする、美人とお話する夢だ。もう一度寝たら会えるかな。ベッドの中に潜り込もうとするがベッドがない。
「ここは森?なんで僕外で寝てるんだろう。」
足元にはリスのような生き物がいる、と思ったらリスじゃない!角がついてる!
「すっげー!新種の生き物かな!?売ったらゲーム何本買えるかな?!」
逃がしてたまるかと手を伸ばすがひょいと躱される。こなくそ!と追いかけるが追いつけず不注意で木に頭をぶつけ、はらはらと葉っぱが舞い散る。
「いってー!…ん?何この葉っぱの形、初めて見る。雪の結晶みたいで綺麗だな、誰かが切り取ったのかな?」
葉っぱをまじまじと観察するがハサミの跡などは見受けられない。
「これも新種かな!?あ!あっちにバカでかいキノコがある!」
遠くに見えたバカでかいキノコの元へ一直線に駆け寄る。
でかい!2メートルはあるぞ!
「これだけでかいならベッドにできそうだな!」
試しに乗ってみるとトランポリンより跳ねる!すごい!僕の身長より跳ねたぞ!
ぽよんぽよんと跳ねる音に紛れて、どこからか子どもの声のようなものが聞こえてきた。
子どもが泣いてるような・・・泣いているなら大変だ!迷子かもしれない!
僕は巨大キノコから飛び降り耳を頼りに子どもを探す。
こちらから声をかけると驚いてしまうかもしれないから声を出さずに声の主を探す。
徐々に泣き声がはっきりしてきて、一つの穴ぐらにたどり着いた。
穴ぐらを見つけた瞬間クマが出てこないか心配したが子どもの姿を見つけてほっとする。
一息つく。
できるだけ子どもを怖がらせないよう、優しい声を意識して近寄る。
「どうしたの?お兄さんに話してごらん?」
僕の努力は空しく子どもは明らかに怯えた顔してこちらを見ている。どうしよう、子どものあやし方わかんない。
手をぶんぶんと振りながら考える、どうしたら子どもを泣き止ませられる?
「さっきあっちに角の生えたリスさんがいたよ!あとトランポリンみたいに跳ねるキノコが生えてた!これみてみて!変わった形の葉っぱ!珍しいでしょ?あげるよ!」
子どもは目を丸くして手元の葉っぱを見つめる、が、ため息を一つ。
「別に珍しくないよ。それにリスとかトランポリンって何?」
目を細めさらに怪しそうにこちらを見てくる子ども。どうやら僕は間違えたようだ。何を間違えた?
それにしてもリスもトランポリンも知らない子どもなんて珍しいな。
僕は子どもの頃、トランポリンが好きすぎて壊れるまで跳ねて遊んでいたのに。
「お兄ちゃん、跳ね茸みたことないの?」
「あのでかいキノコ跳ね茸って言うんだ、食べたら美味しいの?」
「美味しくはないかな…毒はないってママが言ってたよ」
ママ、と単語を出した直後顔をうつ向かせ再び目に涙が溜まる。
「ママ…」
「わー!泣かないで泣かないで!ママとはぐれちゃったのかな?お兄ちゃんと一緒に探しにいこっか!」
「けどママがここで良い子で待ってなさいって…昨日言われたのにまだ来ないの」
「え!こんなところで一晩待ってたの!?君はすごくエライんだね!」
「そう、かな…?」
エヘヘと笑う子どもにつられて頬が緩む。
「お兄さんの名前は天野湊っていうんだ。ミナトお兄さんって呼んでね。」
「うん、わかった!ミナト!」
「あれ?お兄さんは…?まあいいや。」
「俺はビート!お兄さんを村まで案内してあげるよ!森は危ないから一人で歩いちゃダメだよ。」
「あれ?僕が迷子扱い?おかしいな?」
ビート君は僕の手を掴むと意気揚々と歩みを進める。
先ほどまで泣いていた子どもとは思えない。元気が出たみたいで何よりだ。
僕はこのまま迷子ということにしておいた方が良いだろう。
「そういえばミナトはどこから来たの?おうちの場所きちんと言える?」
やはりここらで訂正しておいた方が無難だろう。
「ビート君、ボクは迷子じゃないよ。埼玉の大宮から来たんだ。」
「さいたま?おおみや?初めて聞いた。」
「え?」
「俺が住んでるのはリトルリバーって村だよ。で、今いる森は結晶の森。ミナトの持っていた葉っぱが結晶っぽいでしょ?」
ビート君は僕の持っている葉を指さす。
レアリティ低いのか、じゃあ売れないな。
そんなことよりも…。
「リトルリバーとか結晶の森とか聞いたことないな、近所にそんな洒落た地名があれば覚えていそうだし。」
「僕この前アスティア大陸のお勉強したんだけど、さいたまおおみやなんて地名なかった気がするよ。」
埼玉も大宮もそんなに知名度低かったかな…いや、そんなはずない。確かに子ども向けの施設はないけれど…
いやそんなことよりも今なんて言った?アスティア大陸?
勉強ができない僕でもアスティア大陸がないと言い切れる、多分。
「ビート君、もうちょっとアスティア大陸について教えてくれないかな?」
「えー?ミナト僕よりもお兄さんなんだからちゃんと勉強しないとだめだよ。」
言いたいことをぐっと飲みこむ。プライドよりも情報が優先だ。
「だからバカみたいな顔してるんだよ。」
「人の顔をバカにしちゃいけないってママに習わなかったのか!?」
飲み込めなかった。
◇◇◇
「女神さまが見守る世界『アステミナ』。
女神さまの名前もアステミナなんだって。
その世界にあるのがアスティア大陸。
その中のオリジア王国にあるリトルリバーに住んでるのが俺ビート。」
ビート君が言ったことを何度も頭で繰り返す。聞いたことない地名が並び、僕は一つの結論にたどり着いた。
僕は見知らぬ森で目を覚ました。
見たことのない植物たち。
聞いたことのない地名。
そして、ゲームでしか聞いたことのない言葉。
間違いない。僕は、
「異世界に来たんだー!やったー!」
僕はその場で飛び跳ねる。
ラノベとかでよく見る異世界転生!この場合は異世界転移かな?
美少女に召喚されたのかな?国を救えって王様に命令されて仲間たちと魔王を倒して英雄になっちゃう?
「僕の未来はバラ色だー!」
「変なミナト。」
「ビート君。」
「何?変なミナト。」
「この世界の魔王ってどんなやつなの?どのぐらい強い?僕でも倒せる?」
きょとんとした顔で僕を見る。首をひねりながらビート君は答えた。
「魔王って何さ、魔女はいるけど魔王はいないよ。それよりも…」
ビート君はうつむく。子ども特有の長いまつ毛がフルフルと震えている。
「俺は瘴気を何とかしてほしい。瘴気さえなければパパは…」
そこから言葉は出なかった。
「しょうき?何それ?」
「ミナトって何も知らないんだね。どうやって生き残ってきたの?」
子どもには似合わない毒を吐きながら、茂みから一本の枝を拾ってくる。
「これ見て、先の方が黒いでしょ。これが瘴気。基本は黒い霧だから近づいちゃだめだよ。」
向けられた枝の半分は不自然に黒い。
黒くなっている部分から、煤のような黒い霧がゆらゆらと漂っている。
枝なのに、まるで息をしているみたいだ。
指で触れようとするとビート君が大きな声で制する。
「触らないで!ちょっとなら大丈夫だけどたくさん触ると病気になっちゃうよ!」
「ごめん、ありがとう…」
「最近瘴気が増えてきて…瘴気人も出るようになっちゃったの…」
「しょうきびと?」
「俺も見たことないけどさ。瘴気が人の形になるんだって。向かいのジーちゃんが襲われて、いなくなっちゃった。」
「そんなに恐ろしいものなの!?」
「だから、もし瘴気人に会っても全力で逃げろよ。」
「うん、わかったよ。教えてくれてありがとうね。」
瘴気か、それって僕にどうにかできるのかな。
瘴気人なら人って言うぐらいだし倒せるのかも!
待てよ…。僕は異世界から召喚された存在。
恐らく瘴気をどうにかできる存在のはずだ。
「ビート君!もしかしてさ、瘴気って人間が浄化できるんじゃない?」
「う、うん…そうだよ。聖女様が浄化できるんだ。けど普通の人間には無理だよ。」
「任せてよ、僕ならできる!」
僕は黒い枝に手をかざして力を込める。
「はあああああああ!浄化あああああああ!」
「すごい気迫…!もしかして本当に浄化できるの?!」
「見てて!僕が勇者だってところ見せてあげる!」
「ゆうしゃ?ってすごいんだね!」
◇◇◇
10分経った。
そこにはミナトとビートと黒い枝のみが存在している。
「ぜぇ…ぜぇ…一センチぐらいは浄化できたんじゃないか…」
「ミナト、言いにくいんだけど全くできてないよ。」
ビート君は困ったように笑いながら枝を茂みに投げ捨てた。
「ミナトって変だけど優しいね。」
「そ、そうかな?」
「俺ミナトのこと結構好きだよ!」
自分が子供に好かれやすい。よくなつかれている。
けど毎回嬉しく思うんだ。




