これまでの子羊
「手袋、ご苦労だったわ。あなたはそちらへ座って……そうそう。ご馳走……とまではいかないけれど、腕によりをかけて作ってみたわ。どうぞ召し上がれ」
テーブルには大きな皿に入った温かなスープに、サラダとパンが添えられて、食べられるのをいまかいまかと待っていた。私は席に着くとたまらず、勢いよく食べ始めてしまった。
――気持ちのよい食べっぷりでいいわ――
ワタシはそう思いながら、目の前の「迷える子羊」を見つめていた。ここに辿り着いたということは、こころに何か抱えているのだろうな……。そう思いつつ、ふぅふぅしながら熱いスープと格闘しているその子羊に、ワタシは意識を集中させた。
――色褪せた風景がワタシの中で踊り始めた。頁をめくるように、この子羊の記憶が再現されていく――
彼女の名は■■。ごくありふれた農村のごくありふれた夫婦の長女として生まれた。年の離れた兄に年子の妹と手のかかる幼い弟がいる。けして貧しい家ではなかったが、両親や周りの大人からも、働き者の兄やしっかり者の妹と比べられる毎日で、彼女には居場所が無かった。
近年、作物が不作だったことも重なり、口減らしのため、彼女は家を追い出されてしまった、と。
なるほどなるほど、経緯はわかりました。しかし、それだけでは「この家」まで辿り着くことは出来ません。人避けの結界を抜けてくるだけの何らかの覚悟が、彼女、■■にはあるのでしょう。




