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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
第三回女子会

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経営者の金言

「普通にラーメン、お寿司、お肉だと思いますけどね。甘い物はあれば食べるけど、しょっぱい物のほうが好きな印象です。こってりよりはあっさり派ですね。あと、山芋とかオクラ、納豆とか、ヌルヌル系も好きです。たまに胡瓜の丸かじりもしますね」


「河童……」


 尊さんがボソッと呟き、恵はじっとりとした目で彼を見る。


「そっかー。じゃあ、とっておきの胡瓜を常備しておかないとね」


「こんだけ聞いておきながら、どうして胡瓜だけピックアップするんですか」


 恵は次に運ばれてきたキムチ三種を食べつつ言う。


 そのあとナムル二種が出され、ユッケのタルタル仕立てが出された。


 白い器の中心には、セルクルを使って綺麗な円状に整えた黒毛和牛のユッケがあり、その下には小さな角切りになった山芋が敷かれ、上には卵黄がのっている。


 卵黄を潰す時にちょっとした背徳感を感じながら、私はとろけるユッケをモリモリ食べた。


「そういえば、例の三人組の処分、うまくいったの?」


 恵に尋ねられ、私はモグモグしながら「んン」と頷く。


「どちらにせよ、辞める事になるみたい」


「うし」


 恵は小さく呟いて拳を握る。


「……でも何か、後味悪いな。嫌な事をされたし、綾子さんの事も悪く言ってて、中には退職に追い込んだ人も複数いるみたいだけど、今回懲戒解雇になったのは私がきっかけって思うと、全部私のせいみたいに思える」


 溜め息混じりに言うと、ユッケを食べ終えた尊さんが椅子の背もたれにもたれ掛かって言う。


「そう思うのは分かるけど、あまり気負いすぎるな。すべてのものには原因と結果がある。勿論、過程もあり、結末を迎える時は些細なきっかけが理由の時が多い。積み重ねた言動がその人を作ると言うが、似たような事をずっと続けていたら、いつかこういう結果にはなっていたんだよ。朱里はただのきっかけにすぎなくて、お前がいなかったら別の誰かがターゲットになり、その人が原因になって解雇になっていたかもしれない」


「……そうなんですけどね」


 私はグレープフルーツサワーを飲んで頷く。


「朱里は自分を悪く言った奴らにまで、気を遣い過ぎなんだよ。ざまーみろって思っておけばいいの」


 恵は私の肩をトントンと叩き、「ね?」と相槌を求める。


 と、涼さんが口を開いた。


「事情は今の話の流れでしか知らないけど、社員同士の足の引っ張り合いで、社内の空気が悪くなるなら、どんどん人事異動してもらって、あまりにも酷い場合は辞めてもらうのは当然と思ってるよ。こちらは社員に働いてもらって、給料をあげて福利厚生やらで色々と守る立場だけど、特定の誰かの肩を持つつもりはない。全員同じ条件で見て、『この人がいたらみんなの指揮が下がる』と判断した時は、相応の措置をとる。それって当たり前の事なんだ」


 私は三日月グループの御曹司の話を、まじめに聞く。


「『勤続何年だから』『功労賞をとったから』とか、肩を持ちたくなる事柄はあるかもしれない。でもそのプラスをマイナスにするほどの過ちを犯して、何度も注意しても改善されないようなら、会社側に雇い続けるメリットはない。……うちの会社の話じゃないけど、社外で因縁を付けられた社員に嫌がらせのメールや電話がくるようになったから、その社員を子会社に異動させたって話も聞いた。その社員が悪い事をしていなくても、通常業務がスムーズに行えなくなるなら切り離すしかない。……冷たいようだけど、上層部はそうやって考えるしかないんだ」


 確かに話だけ聞くと血も涙もないけど、一番大切にするのは〝会社の利益〟と考えれば、個人に対する思い入れは二の次になるんだろう。


「まして、今聞いた話では同じ社員同士なのに、何年にもわたって嫌がらせをしてたんだろ? 男女問わず、嫉妬心からそういう事をする人はいるけど、まじめで勤勉な社員ほど、少しの嫌がらせで心を病みやすい。一見、地味で目立たないけど、その人がいたから部署がまわっていたっていう社員はいる。そういう人をくだらない理由で失うぐらいなら、腐った蜜柑を捨てるほうが賢いやり方だと俺は思うよ」


 涼さんは淀みなく言ってからシャンパンの残りを呷り、「次はワインを飲もうかな」と呟く。


 そのあと、尊さんがまとめるように言う。


「組織にとって個人の事情は加味されない。ルールに反したり、通常業務を妨害されるぐらいなら、原因となるものを切り捨てる。冷たいと思うかもしれないし、社長、副社長と個人で見れば感情のある人間だけど、経営者や役員には会社を支えていく責任がある。時には冷酷と言われる判断をしてでも、経営が厳しくなったらリストラしてでも会社を守っていかないとならないんだ。……だから、これは会社の判断であり、朱里が気にする事じゃない」


「ん……、分かりました」


 私は溜め息をつき、名残惜しくユッケの最後の一口を食べる。


 ユッケを食べ終えたあと、いよいよ個室に専門の焼き師さんがきて、まずは牛タンの薄切りを焼き始めてくれた。


 自分で焼いていると、どうしてもおしゃべりと焼きと食べるのとが同時進行できず、気がついたらお肉を少し焦がしている事がよくある。


 だからお肉を焼いてくれる人がいるお店って、本当に贅沢だなぁ……と感じた。

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