合コンみたい
「……拙者、厠へ」
「いつから武士になったの」
涼さんは真顔で突っ込み、恵を壁ドンする。
「女子会って言ったよねぇ? どうして尊がいるのかなぁ? いや、こいつならいいんだけど、男がいるのといないのとでは大きな差があるよ?」
追い詰められた恵は、助けを求めるように必死な顔でこちらを向いている。
「ミトコは女子よ」
そこで尊さんがいきなりミトコをぶっ込んできたので、私は噴き出してしまった。
「マジか……、俺も涼子になるかな……」
彼はそう言ったあと、壁ドンから恵を解放し、尊さんに「混ざってもいい?」と尋ねる。
「別にいいけど、連れがいるんだろ?」
「友達だから大丈夫。ちょっと挨拶してくる」
涼さんはそう言って、軽い足取りで案内されていた個室に向かった。
「ま、入ろうぜ」
尊さんはスタッフに「すみませんね」と謝ってから、個室に入った。
個室の中も重厚感溢れる雰囲気で、ダークカラーの壁は上から間接照明で照らされ、床の間的な所に花が生けられてある。
ライトウッドの長テーブルは、一見普通のテーブルに見えるけれど、焼き肉店なので無煙ロースターが内臓されてあるんだろう。
椅子の色は室内の雰囲気に合わせたチョコレートブラウンだ。
「……どう座りますか?」
涼さんも来るなら、席順を考えたほうがいいのかもしれない。
「男女向かい合わせでいいんじゃないか? 俺は朱里の顔を見て食いたいし」
「私の顔はおつまみですか」
私が突っ込んだあと、恵がさらに突っ込む。
「……合コンみたい……」
「女子は向かい合わせになってもいいかもしれないけど、俺は涼の顔を見ながら肉食うのやだよ……」
尊さんが変な事を気にしているのがツボに入り、私はクスクス笑う。
とりあえず私は尊さんと向かい合わせに座り、隣には恵が腰かけた。
ほどなくして涼さんが「お待たせ!」とルンルン顔で入室し、恵の向かいに座ってニッコリ笑う。
先に飲み物をオーダーする事になり、尊さんは車なのでペリエ、私はグレープフルーツサワー、恵はビール、涼さんは遠慮せずにシャンパンを頼んだ。
食事のほうはコース仕立てで、前菜から始まって色んなお肉を楽しめるらしい。
しかも専門の人が焼いてくれるんだとか。高級なお店はひと味違う。
涼さんの友人たちも同じコースを注文していたそうで、その辺はお店のほうに上手く伝えたらしかった。
「お友達、良かったんですか? 無理しなくても……」
恵が涼さんに尋ねると、彼は「いやいや」と首を横に振る。
「投資家バーで知り合った仲間で、昔からのツレってほどでもないんだ。『タイミングが合わなくて滅多に会えない彼女と遭遇したから、そっちを優先したい』って言ったら、快く送りだしてくれたよ。彼らとはいつでも会えるしね」
「……毎日顔を合わせてる気がするんですが」
恵はジト目で涼さんを見る。
「恵ちゃんのほうが大事に決まってるでしょ。でも、ホントの友達じゃなくて良かった。もし他の奴だったら『顔を見せろ』ってうるさかっただろうから」
何気ない言葉だけど、『ホントの友達じゃなくて良かった』の中に、ほんのりと涼さんの闇が見えたような気がした。
多分、彼は顔が広くて友達がとても多いように思えるけど、心から信頼している相手はあまりいないんだろう。
涼さんは自分が三日月グループの御曹司である事を自覚しているから、男女共に下心ありきで近寄ってくる人を警戒しているのかもしれない。
尊さんも、以前にチラッと言っていた。
『あまり家柄や、会社や役職について不必要にしゃべったら、〝金を貸してくれ〟って言われる事があるから、余計な付き合いはしないようにしてる』
彼いわく、普段付き合いのある友人で、仕方のない理由がある時は無条件で貸すけれど、「誰だったっけ?」ぐらいの認識の人が突然連絡してきたりする事もあるので、そういう時は相手のためにならないから断っているそうだ。
『金はあるけど、単にだらしないだけの奴には貸せない』らしい。
中には、「誰だったっけ?」程度の人でも、生死に関わる困りごとを抱えている場合は、あげるつもりで貸す事はあるみたいだ。
(お金持ちだと、庶民には考えがつかない悩みも持ってそう)
尊さんと過ごすようになって、そういうゴタゴタに巻き込まれた事はないけれど、……特大のゴタゴタは体験したなぁ……。
私が色々考えている間、涼さんはニコニコ笑顔で「今日何やってたの?」と恵に尋ねて嫌がられてる。




