本能では抱きたい
いい体をしすぎているミコだ。
(背中が広いんだもんなぁ……)
心の中で呟いたあと、私はエッチな雰囲気になりそうでならない現状に、そっと溜め息をつく。
「どうしてお風呂に入ってくるんですか」
「朱里の裸が見たかった」
「そんなにストレートに言いますかね!? 小学生男子ですか」
私は羞恥も忘れて思わず突っ込んだ。
(するのかな? しないのかな?)
また壁を向いて悶々としている間、尊さんは手早く髪と体を洗っていく。
そしてすべて終えたあと、浴槽に入ってきた。
二人分の体積を得て、お湯がザバザバと流れていく。
「先に言っておくけど、俺は朱里を抱きたい。さっきのも嬉しかった。マジで勃ったし」
そう言われ、私はホッとする。
「ただ……」
尊さんは溜め息をつき、そのまま黙ってしまう。
「何でも言ってくださいよ。受け入れますから」
言いながらも、私はある程度の予想をつけていた。
なぜなら、私自身も同じ気持ちだからだ。
「あー……」
尊さんは濡れた手で前髪を掻き上げ、天井を仰ぐ。
私たちは浴槽の中で向かい合うように座っていたけれど、尊さんに手招きされて彼の腕の中に収まった。
「……俺は朱里を愛してる。朱里以外の女なんてあり得ない」
「はい」
これも、予想通り。
「……なんて言ったもんかな……」
尊さんは珍しく言葉を迷わせ、指先で私のお腹をスリスリ撫でる。
「……凜さんの事?」
私から水を向けると、彼は黙り込んだ。ビンゴだ。
「……本能では抱きたい。朱里はいい女だし、年中どんなに疲れていても抱ける。……ただ、彼女の事で多少なりとも動揺してる俺が、心の中にその存在を抱えたまま、朱里を抱いてもいいのか迷ってる。それはとても失礼な事だ」
「……私も、凜さんの事で本当はまだ動揺してます。……それを誤魔化すために、抱かれたがってるのかも。……嫉妬してるから、私が一番だって思いたいがために『抱いてほしい』って思ってる……」
お互い思っている事を口にすると、パズルのピースがカチッと合ったような気持ちになった。
「この件については、今回会った面子は誰も悪くない。……どうしようもない事だ」
「ん、分かってます」
そのあと、私たちは何となく沈黙してしまった。
「ラブドール・ミコトくんを買おうかな!」
「えっ?」
空気を変えるように言うと、尊さんがギョッとする。
「尊さんの前で、見せつけるように跨がってやるの」
「……おい、人形でも許さん」
尊さん頬をムニーッと引っ張られた私は、クスクス笑う。
「……難しいですね。……言っときますけど、私、性欲が強い訳じゃないですからね? ……甘えたいだけ。尊さんに甘えて、あなたには私だけって思えるなら、エッチできなくてもいいの」
「……俺も同じだよ。年中朱里がほしいけど、性欲を満たしたいからじゃない。……お前が愛しい。言葉が足りない分、触って、撫でて、全部俺のものだって確認したいんだ」
「……もしかして、両想い?」
わざとおどけて言うと、尊さんはギューッと私を抱き締めて溜め息をついた。
「このおちょくり猫は、どうしてやろうかな……」
「んふふふ……。かわゆいでしょう。愛でてもいいんですよ?」
「いっつも愛でてるだろ」
尊さんは優しい声で言い、私を振り向かせるとキスをしてくる。
「ん……」
柔らかい唇が重なり、はむ、はむ、と啄み合う。
はしたない事に尊さんとキスしていると思うだけで、興奮して頭がボーッとしてしまい、私はとろんとした気持ちのまま彼の唇を求めた。
――安心する。
大好きな人とくっついて、唇を合わせているだけで、こんなにも気持ちが満たされる。
私たちはそのあとも、しばらく優しいキスをし続けた。
尊さんは十分に私の唇を堪能して顔を離し、フハッと笑う。
「なんて顔してるんだよ」
「うう……」
多分、あまりに気持ち良くて、目を潤ませてポーッとしていたんだと思う。
恥ずかしくなって尊さんの胸板に顔を押しつけると、「そろそろ出るか」と背中をトントンされた。




