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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
彼女の行方

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彼女の居場所

「……私は『なんとか朱里を守って生活していかないと』という思いで必死でした。生活のために働き、娘の将来のために再婚相手を探すのは確かに必要な事です。けれど傷付いた娘を二の次にするなんて、あってはならなかったんです」


 悔やむように言った若菜さんの肩を、貴志さんが抱く。


「君は充分、一生懸命やった。あまり自分を責めるんじゃない」


 その様子を見て、俺も朱里に寄り添わないと、と思った。


「何かあったら必ずご報告します。夫になるのですから支えてみせます。……どうかご安心ください」


 頭を下げると、若菜さんは安心したように息を吐いた。


「朱里さんは私が必ず守ります」


 俺は続けて言い、もう一度深く頭を下げた。


「……よろしくお願いいたします。……朱里は篠宮さんみたいな人と出会えて幸せだわ」


 若菜さんは俺を〝篠宮〟の姓で呼ぶ。


 怜香が起こした事件は強烈で娘を任せるには不安があるだろうに、そう呼んでくれるという事は、すべて受け入れての事だと思った。


 その信頼に俺も応えなければならない。


「お任せください」


 それで話は終わったらしく、若菜さんは結婚式の準備や新婚旅行の予定などについて質問し始めた。






 上村家での話が終わったあと、俺はその足で風磨の家へ向かう。


 風磨の家は渋谷区の明治神宮前にある低層マンションで、最上階の四階にあるメゾネットだ。


 あらかじめ俺が来る事が分かっていたのか、エントランスまで車で向かうとバレースタッフが駐車場まで車を移動してくれるとの事で、ありがたく厚意に甘える。


 広々としたロビーを通り抜けてエレベーターに乗り、四階にある風磨の家のチャイムを鳴らす。


「いらっしゃい」


 ほどなくしてドアが開き、眼鏡を掛けた風磨が顔を出した。


「上がってくれ」


「お邪魔します」


 言われて俺は玄関で靴を脱いで中に入る。


 玄関から入ってすぐ四十畳近くのリビングダイニングとアイランドキッチンがあり、階段を上がると風磨とエミリの寝室、それぞれの部屋と客間、バスルームやウォークインクローゼットなどがあるらしい。


 ルーフバルコニーが広々としているのは俺の所と似ていて、天気のいい日は酒好きのエミリと共に、外で食事や晩酌をしているそうだ。


 ただ、四階という低階層の物件なので、バルコニーの前には目隠しの壁があり、竹が植えられた前に玉砂利、庭石や灯籠、鹿威しなどが配されている。


 その左右から回り込めば外に行ける構造で、ドアもあるので庭が風で乱される怖れもない。


 コの字型のソファに腰かけると、風磨が「コーヒーを淹れるから待ってくれ」とキッチンに立つ。


「今日、朱里さんとエミリは一緒だって?」


「みたいだな。三ノ宮グループのお嬢様や朱里の友達も一緒みたいで、変な繋がりだが、いい友達になれているようで何よりだ」


 いまだに風磨と話す事に違和感というか、どことなく緊張感を抱く自分がいる。


 俺と彼との関係性は言わずもがなだが、意地悪はされていないし敵対した事もない。


 ただ、篠宮家に身を置いている時期は、お互いノータッチで過ごして空気扱いだったので、〝兄弟〟として話すにはぎこちなさがある。


 風磨が歩み寄ろうとしてくれているのは分かるし、怜香の事で申し訳なさを感じているのも理解する。


 彼に助けてほしいと思った事はないし、逆に恨みの感情を抱いてもいない。


 ネガティブな感情は持っていないが、兄弟らしく育ってこなかったので、どう付き合えばいいか分からない感じだ。


 まったくの赤の他人として接すれば楽だろうが、そうもいかない微妙な関係である。


 やがて風磨はコーヒーとお茶菓子を持ってきて、少し離れた所に座った。


「ありがと」


 俺と違って風磨は甘党で、甘い物に目がない。


 だからなのか菓子類に異様に詳しくて、朱里の餌付け用菓子も風磨から知恵を借りているところがある。


 エミリは甘い物も食べるが、どちらかというと酒のつまみが好きらしい。


 風磨はそれほど酒に強くなく、インドア派でプラモデルを作るのが好きで、映画鑑賞が好きなのは俺と同じだ。


 エミリはどちらかというとドライブ、野外フェス、キャンプと行動的なタイプで、正反対の性質だが、副社長と秘書として過ごすうちに馬が合ったようだ。


 しばらく俺たちは黙ってコーヒーを飲み、風磨はマドレーヌにフィナンシェ、フロランタンとパクパク食べている。


「…………あの、……〝用事〟とは?」


 溜め息をついて切り出すと、風磨は決まり悪そうに言った。


「……彼女の居場所が分かったと言ったら、どうする?」


 そう言って風磨はポケットからメモ紙を出すと、テーブルの上に滑らせる。


「……彼女?」


 いぶかしげに言った俺は、メモ紙に書かれた名前を見て目を見開いた。


 ――宮本凜。

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