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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
深く語る心の傷

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押し流される

「俺はお前を泣かせない。依存だろうが何だろうが、全部受け止めるよ」


 そう言われ、私はハッと尊さんを見る。


 彼の真剣な表情を見て、「縋ってしまいたい」と思った――、けど。


「……共依存になる」


「それの何が悪い? お互いが無理せず付き合えるなら関係ないだろ。俺にはお前が必要だし、お前は俺を心から笑わせてくれるんだろ? ……もう諦めたか?」


 皮肉げに笑われ、私はまた涙を零す。


「――――性格悪っ」


「何を今さら」


 尊さんは小さく笑い、私の頭をクシャクシャと撫でてくる。


「過去を振り向くなよ。関係の終わった男の事を考えても幸せになれない。お前を幸せにするのは、目の前にいる俺だ。それを忘れるなよ」


「…………それで口説いたつもりですか」


 心を揺さぶられるのが悔しくて、私は憎まれ口を叩く。


「言ったろ? お前が俺を快く思っていないのは分かってるって。一回口説いて駄目なら、何回もトライするよ」


「…………くそったれ」


 恥ずかしくて、私は照れ隠しに吐き捨てる。


 けれど尊さんはニヤニヤ笑って私の顎をとらえると、チュッとキスをしてきた。


「悪い口だな」


「~~~~そういうの……っ」


 抵抗しようと思ったのに、ソファの上に押し倒されてもう一度噛み付くようなキスをされた。


「もう忘れろよ。俺といる時間が勿体ない」


 今度は真顔で言われ、ドキンッと胸が高鳴る。


「確かに、お前の話を聞くためにホテルに来たけど、一晩中元彼の未練を聞くためじゃない」


 もっともな事を言われ、私は黙り込む。


「忘れるための愚痴なら聞いてやるよ。でもヨリを戻したい、申し訳ないって泣き言を聞くほど俺は人ができてない。そこまで優しくねぇよ」


「っ…………」


 私は横を向いて涙が流れたのを誤魔化し、尊さんの胸板を押す。


「私……っ、尊さんの事だって利用するかもしれない」


「利用しろよ。傷の舐め合いみたいな関係でも、それが愛じゃないと誰が言った? 本当の愛ってなんだよ。世間様から認められて、褒め称えられる純粋な愛じゃないと、付き合ったら駄目なのか?」


「うぅ……っ」


 ――押し流される。


「付き合う事だって、結婚だって、好き嫌いも愛も、明確な〝正解〟がある訳ねぇだろ。惹かれ合ったなら付き合って、魅力的だと思ったらセックスして、好きになれそうだと思えば手探りで進んでいけばいい。死ぬまで連れ添った高齢の夫婦だって、自分の人生の何が正解で、何が間違えていたかなんて正確には分かりゃしねぇんだよ。その歳になるまで、人生の選択肢は無限にあったんだから」


「……っじゃ、じゃあ……っ、どうやったら幸せになれるの……っ? ――――もう、……失敗したくない……っ!」


 考えるより本能から言葉が漏れ、――――納得した。


 私は昭人にフラれて深く傷付いたからこそ、もう同じ失敗を繰り返したくないと思っていた。


 尊さんと付き合おうと思ったけれど、彼が本当の意味で私を選んでくれるかは分からない。


 ――こんなにいい男で御曹司なのに、私がその相手でいいの?


 ――もしかしたら、利用価値がなくなったら捨てられてしまうかもしれない。


 まだ彼を心から信頼できていないから、そう思ってしまう。


 なのに尊さんは、私の不安を見透かしたように畳みかけてくる。


「失敗のない人生なんてないんだよ。諦めろ。俺の手をとって後悔しても、その時は俺に相談しろよ。二人で考えて、どうしたらもっと良くなるか考えればいいだろ。行動する前に『失敗するかもしれない』って怯えて動けずにいたら、何も始まらないんだよ」


「…………そう、……だけど……」


 理路整然と言われ、少しずつ気持ちが落ち着いていく。


「俺だって百パーセント自信を持ってお前を幸せにできると言えない。大切にするつもりでいるが、朱里が俺の言動を嫌がる可能性はあるし、俺の家族のせいで不快な思いをさせるかもしれない。完全に幸せが保証された未来は用意してやれない」


「…………それは、仕方ないです。未来がどうなるかは誰にも分からないですから」


 呟くと、尊さんは私の胸に手を当ててきた。

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