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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
元彼との遭遇

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爆弾

 私が声を荒げたのは、嫉妬したからじゃない。


 私だって未練はあれど、人としてやってはいけない事は分かっているつもりだ。


 なのに昭人は別れるや否や、私を〝嫉妬で他人の幸せを壊す女〟とみなした。


 こんな侮辱ってない。


「っあんた……」


 私がさらに何か言おうとした時、尊さんが私の前に進み出た。


 大きな背中に遮られて昭人が見えなくなった私は、勢いを削がれて口を噤む。


「……田村昭人クンだっけ? 朱里は仮にも元カノなんだろ? なら侮辱するのはやめとけよ。君の人格が疑われるよ」


 尊さんはいつもと変わらず飄々と言い、昭人は「なっ、……べ、別に俺は……」と言い訳を始める。


 けれど尊さんは昭人に反論を許さず、微笑んだまま言葉を続けた。


「君は朱里を悪者扱いしてるけど、君こそかなり性格が悪いじゃないか」


「そんな事ない。いきなり何言ってるんだ」


 昭人はムッとして反論するが、尊さんはなおも続ける。


「君の言う通り二人に〝もう関わりがない〟なら、わざわざ話しかけなければいいじゃないか。彼女さんだって、元カノを見れば不安になるはずなのに、どうして足を止めた? まるで新しい彼女を朱里に見せつけ、煽って怒らせるのが目的みたいじゃないか」


「ち、違う!」


 赤面した昭人は焦って周囲を見回すけれど、尊さんはそれを無視してせせら笑う。


「……なぁ? 小金崎(こがねざき)商事の営業部、田村昭人くん。ところで俺、君の上司の勢野(せの)と友達なんだ。あまり俺の恋人を侮辱するようなら、勢野に一言いわなければならないけど大丈夫?」


 尊さんの言葉を聞き、昭人はギョッとして目を見開いた。


「別に脅してる訳じゃない。ただ、君の態度が気になるんだ。君は必要以上に朱里の自尊心を傷つけている。九年付き合ったのに別れたなら、それなりに思い入れがあるだろう。でも君は新しい彼女と婚約までしたのに、どうしてここまで朱里に突っかかる?」


 彼は決して喧嘩腰にならず、淡々と〝疑問〟を口にする。


「俺は会社の管理職に就いているが、部下にそういう性格の者がいたら心配になるな。公私を分けるのが当たり前とはいえ、プライベートでこういう事をする人が、仕事でもトラブルを生まないと限らない。……そういう意味で、勢野に『気をつけたほうがいい』ってアドバイスしようと思っているんだ」


 尊さんの言葉を聞いて、昭人は真っ青になる。


「お、俺は……っ」


「昭人くん、行こうよ」


 その時、旗色が悪くなったと悟った加代さんが、不安そうな顔で昭人のコートの袖を引っ張った。


 私は尊さんがあまりに華麗に反撃したもので、言葉を失っている。


 昭人だって仕事ができるほうだと思うし、上手く立ち回るタイプだ。


 けれど運が悪い事に、尊さんのほうがずっと経験豊富で性格が悪い。


(……まさか〝性格悪い〟が褒め言葉になると思わなかったけど……)


 彼の切り返しに感心していた時、昭人は舌打ちをすると、ばつの悪い顔をして歩き始めた。


 けれど尊さんは二人を見て薄く笑い、爆弾を落とした。


「どうぞお幸せに、株式会社イケイ食品の総務、相良(さがら)加代さん。今度は不倫をしないようにね」


 それを聞き、昭人は「は!?」と弾かれたように彼女を見た。


「……っ、不倫ってなんだよ!?」


 青ざめた昭人の質問に、尊さんはわざとらしく首を傾げる。


「さぁ? 俺は噂を聞いただけだから、本人に確認してみたら? イケイ食品の跡取り息子の宇野(うの)常務は、他社の社長令嬢と結婚して二年目だ。……宇野常務と相良さんは学生時代の先輩後輩に当たるんだっけ? 弁当を用意したりとか、適当に嘘をついてラブホに行ったりとか……。まぁ、昔の話だよな? この話を聞いたのはかなり前だし」


 …………う、…………わぁ…………。


 私は目をまん丸に見開き、メガトン級の爆弾を落として薄ら笑いを浮かべている尊さんを見る。


「加代? そんな事ないよな!?」


 昭人は顔面蒼白になり、左手の薬指に立派な婚約指輪を嵌めた加代さんを見る。


「……し、知らない……、そ、その人がでまかせ言ってるだけで……」


 彼女は真っ青な顔をし、涙ぐんでいる。


「でまかせなら、なんであんなに詳細を知ってるんだよ!」


「うるさい! 怒鳴らないでよ!」


 路上で激しい罵り合いが始まったけれど、尊さんはそれを無視して私の手を引いた。


「レストランの予約に遅れるから行くか」


「ちょ……っ、ちょっと……!」


 私は昭人たちを振り返り、手を引っ張る尊さんの顔を見る。


「放っておけよ。ガキじゃねぇんだから、自分の不始末ぐらい自分でつけられるだろ」


「でも……!」


 何か言おうと思ったけれど、あまりの出来事に言葉が出てこない。


 そのまま、私は尊さんに連れられて地下鉄駅に入ったのだった。

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