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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
気持ちの確認

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嬉しいじゃないですか

「お、ようやく来たか」


 バスローブ姿の尊さんはソファから立ちあがり、出入り口に向かう。


 そして服を持ってきたコンシェルジュさんと会話をしてから、紙袋を手にして戻ってきた。


「ん、着替え。レストランを予約してくれたから、気分転換に飯を楽しもうぜ」


「はい」


 尊さんはベッドルームで着替えるらしく、私はちょっと迷ってから洗面所で着替えた。


 服を汚したと言われてもほんの少しで、濡れタオルで拭けば大丈夫な程度だ。


(でも気にしてるんだろうな。あそこまで弱った姿を見せてしまった訳だし)


 ボロボロに傷付き、嘔吐した彼を思いだすと胸の奥がギュッとなる。


 紙袋に入っていたのは百貨店に入っているブランド服で、値札は当然取られているけれど、トップス、ボトムスそれぞれ万は超える……と思う。


(いやいや、贈られた物の値段を考えたら失礼だ!)


 私はピシャッと両手で頬を叩き、着ていた服を脱いで着替え始める。


 替える必要がないのに、ストッキングまでお高級そうな新品が入っていた。


 紙袋に入っていた服は黒いハイネックの縦リブニットで、バルーンスリーブの手首がやや長めに絞ってある。それに合わせるボトムスは、ハイウエストで白と黒の千鳥格子柄のマーメイドスカートだ。


 ……こういう服好きだけど、さっき混乱しまくっていた中で、よくここまで私にマッチした服を頼めたな……。さすがだ。


 着替えたあと、せっかく洗面所にいるのでうがいをした。


(ちょっとファンデよれてるかな。少しメイク直しするか)


 もと着ていた服は紙袋に入れ、私はリビングダイニングに戻る。


「お待たせです。私、ちょっと化粧直し……、…………あぁ……」


 私は着替えた尊さんの姿を見て、感嘆の溜め息をついてしまう。


 チャコールグレーのシャツに黒いスリムパンツ、グレーのジャケット姿の尊さんは、シンプルながらとても格好いい。


「洗面所終わったか? ちょっと手洗うわ」


 しかもスタイリング剤も買ってきてもらったのか、軽く髪をセットしてちょっと額が見えているもんだから、もーカッコイイ。けしからん。


 私は好きなだけ悶えたあとに咳払いをして誤魔化し、バッグから化粧ポーチを出して洗面所に向かった。


 私は手を洗っている尊さんの隣に立ち、拡大鏡を見てメイク直しをしていく。


 こういう時、ボウルが二つある広い洗面所は便利だ。


 私は頬や額をティッシュオフしたあと、気になる所にクッションファンデを叩き込み、もう一度ティッシュオフ、コンシーラーをつけてまたティッシュオフ、そしてフェイスパウダーをポンポンする。


 そのあと綿棒で目元の汚れをとり、ラメアイシャドウをちょっと足してアイラインを引き直した。


 唇は下地を塗ったあとにティッシュオフし、その上にカラーリップを塗った。


 仕上げにフィックスミストを顔に掛け、メイク直しが終わる。


「……すげーな。顔直すのにそんなに道具を使うのか」


「……メイク大好きなので、ここは譲れないポイントです」


 食費を浮かせた分、コスメにつぎ込んでしまうぐらいはメイクが好きだ。


「いつも美人だなと思ってたけど、裏にこんな努力があったとは思わなかった」


「待って!?」


 私は尊さんをバッと見て両手を突き出す。


「……なんだよ」


 怪訝な顔をする彼に、私はニヤニヤしながら言う。


「……も、もっかい言って……」


「え? 努力してるって?」


「そ、そうじゃなくて……」


 尊さんに「美人」って言われたのが嬉しくて、つい欲しがってしまう。


「美人のほうか? なんだ、そんなに嬉しいのか。てっきり言われ慣れてるかと思った」


「尊さんに言われるのが嬉しいんです」


「んん?」


 不思議そうな顔をしていた尊さんは、私の反応を見て微笑み、洗面台に両手をついて腕の中に私を閉じ込めてきた。


「朱里はすげぇ美人だよ。綺麗だ。肌は白いし、きめ細かいし、顔の作りも本当に好きだ」


「…………っ、えっへへへ……」


 耐えきれなくなった私は、横を向いてデレデレしだす。


 尊さんはクスクス笑いつつ、私の顎を摘まんで自分のほうを向かせ、愛しげな表情で言う。


「このリップすげぇな。唇がツヤツヤしててキスしたくなる」


 そう言って、尊さんは顔を傾けてキスしかけた。


 ――けれど、私は両手で彼の胸板を押して「駄目」と微笑む。


「ご飯食べてから」


「そうだな」


 クスッと笑った尊さんは、私の額にキスをしようとして「おっと」と少し顔を離す。


 そのあとまた唇にキスする角度で、唇が触れ合わない距離でチュッと音を立てた。


(~~~~……っ、エアキスもなかなかの威力が……)


「んー……っ!」


 照れて悶えた私は、拳でポカポカと尊さんの胸板を叩く。


「あんまり可愛い反応するなよ。襲いたくなる」


 尊さんは私の頭を撫で、微笑む。


「ん……、へへへへ……」


「なんだよ、さっきから締まりのねぇ顔して」


「だって……。尊さんも好きでしたけど、〝忍〟と恋人になれたんですよ? 私は大人の女性になって、キスもエッチもできるんです。…………嬉しいじゃないですか」


「……ん、そうだな」


 尊さんは私の背中をトントンと叩く。そのあと天井を仰いで溜め息をついた。

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