ある交通事故
「ああ、くそ……なんであんなことを……」
暗い部屋の中で男は一人で後悔していた。昨日の夜に車で道路を走っているときになにかにぶつかったような衝撃があったのだが、気のせいだと言い聞かせてそのまま帰ってきてしまったのだ。
「いや、いや、やはり気のせいだ。俺はなににもぶつかってはいない。気のせいだ」
もし人にぶつかったりしていたとしたらなにかしらのニュースになるはずだ。だがなにもないということは、きっと人にぶつかったわけではないのだろう。
ああ、だが、もしそうじゃなかったら?
男は一日中悩み続けていた。
「ああ、くそ。まさかあんな兵器があるだなんて」
暗い宇宙の中に浮かぶ宇宙船の中で、宇宙人が一人で呻いていた。緑と水に溢れた星の侵略をするための最初の調査として送り込まれた彼は、人気のない道に降り立つとすぐになにか大きな衝撃を感じて這々の体で宇宙船に逃げ帰ったのだ。
「ああまったく、命を落とさなかったのが不思議なくらいの大怪我だ。だがとりあえずは写真は撮れた。あの鉄の箱みたいな防衛兵器を調べたということにしてもう星に帰ろう」
後年になりこの宇宙人たちが再び調査に来たとき、各家庭に一つこの防衛兵器が配備されていることに驚き侵略を辞めたことに気が付いた人はだれもいなかった。