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第5話 デバッグに燃え尽きたSE魂、異世界に転移する

 さて、とうとう異世界の扉が開いちゃいます(^^;

 郷田社長の熱い想いが込められたVR相撲ゲーム『どすこいLinux』。


 しかし、帰国してすぐに着任したアキトが見たデモは、前任者たちの技術と相撲への無理解が招いた、見るも無残な失敗作だった。


 力士モデルはハリボテのようにぎこちなく突っ張り合うばかり。相撲の醍醐味であるはずの、呼吸すら感じさせない。おまけに、場違いなプロレス技まで飛び出す始末で、もし相撲協会が目にしたら、激怒どころでは済まないだろう。


 さらにlinuxの学習ゲームという売りなのに、基本的なコマンドさえも間違えているというお粗末さ。


 社長の雷が落ち、主要メンバーは蜘蛛の子を散らすように消え、残されたのは、「お前がいなくなると要件をわかっている人がいなくなる、引継ぎまで残れ」と言われて残った燃え尽き寸前のプロジェクトマネージャーだけだった。


 そんな焼け跡のプロジェクトに、彰人がリーダーとして送り込まれた。メンバーは彼と車内から選抜された若手チーム数名。アキト自身が面接して決定した。


 彼はまず、相撲とは何か、その魂をメンバーに理解させることから始めた。力士の鍛え抜かれた肉体、一瞬の駆け引き、土俵に響く気迫。


 それらを深く理解した上で、燃え尽き寸前のPMとの引継ぎを行い、ドキュメントとソースを解析し、前任者たちが残したわずかな希望の光を探した。なお、PMは、ドキュメント類の説明を一通り終えた後「俺の教えられることはすべて教えた、よろしく頼む」という置手紙メールを残して姿を消した。


「まあ、ドキュメント類を整理してくれていっただけでも上々だな…」


 粗悪なモデルの中に潜む、かろうじて見られる部分。稚拙なコードの中に、わずかに残されたロジックの断片。それらを丁寧に拾い上げ、自身が中心となって再構築を試みた。


 しかし、核心部分のコードに辿り着いた時、彰人は目を疑った。それは、まるで悪意のある迷路だった。一つのバグを潰せば、別の場所から新たなエラーが湧き出す。素人がその場しのぎで継ぎ足した、歪で脆弱なコードの塊。


「ちっ、この三次元モデル、ポリゴンの最適化がなってない!見た目だけリアルにしても、組み合った時の微妙な動きなんて再現できるわけがないのに!」


 過去の妄想からメインモニターに気持ちを戻し、映るエラーの洪水に、彰人は深い絶望を噛み締めた。彼の担当は、力士の魂とも言えるAIの実装と、勝敗を左右する心理戦のロジック構築。こんな砂上の楼閣では、まともな対戦すらおぼつかない。


(くそっ、このままじゃ、一体いつになったら完成するんだ?)


 衝動的に、全てを消し去り、ゼロから自分の理想のコードを叩き込みたいという強烈な欲求が湧き上がった。エンジニアとしての矜持が、この欠陥品を世に出すことを許さないと叫んでいる。


 だが、納期という冷酷な現実が、その衝動を押し殺した。社長の焦燥、枯渇寸前の予算と人員。


 シリコンバレーを捨て、全てを懸けて選んだ道だ。ここで立ち止まるわけにはいかない。連盟から提供された貴重なデータも、この既存のシステムに最適化されている。全てをやり直す時間はない。前任者たちの歪んだ思考回路を読み解き、わずかながら残された可能性に賭けるしかない。


(まるで、崩れかけた古代遺跡の瓦礫がれきの中から、わずかな使える石材を探し出すような、途方もない作業だ……)


 疲労困憊の彰人が見上げた天井に、ふと、過去の夢の中で出会った白髪の老武道家の、研ぎ澄まされた動きがよみがえった。


 無駄を削ぎ落とした、洗練された古武術の極意。それに比べて、目の前のコードは、まるで彼の頭の中の混乱をそのまま映し出したようだ。


 (あの老武道家なら、きっとこんな状況でも、淀みなく本質を見抜き、最小限の動きで解決策を見つけ出すだろう……今の自分には、まだその境地には程遠い)


 自嘲の笑みを浮かべ、彰人は再びモニターに向き直った。目の前の巨大な壁に、彼のエンジニア魂は静かに、しかし確実に闘志を燃やし始めていた。諦めるという選択肢はない。この腐臭を放つコードの山から、一縷の光を見つけ出し、『どすこいLinux』を完成させる。それが、今の彼に残された唯一の道なのだから。


 深夜二時を過ぎ、オフィスに残る者は彰人一人。


作業を続ける彼の視界の端で、コンソール画面の一行が赤く染まった。


「Fatal Error: Unhandled Exception in module 'VR_Sumo_Core.physics'」。

「なんだ、このエラーは…? まさか、昨日のコミットで何かやらかしたか?」


あわててログファイルを確認しようとしたが、その瞬間、モニター全体が激しく点滅し始めた。まるで制御不能になった花火のように、画面の色が目まぐるしく変化していく。


  アキトは必死でキーボードを叩き続けて、エラーの原因を突き止めようとする。 四本目のエナジードリンクの缶が空になり、なんとかこのエラーも乗り越えられる。。。そう思った瞬間だった。 彼の視界が突然、処理エラーのように七色に歪んだ。


「なんだ!? GPU がオーバーヒートしたか!? まさか、これが都市伝説の異世界ゲート…!?」


 彼の視界が突然、制御不能のエラー表示のように七色に歪んだ。「なんだ!? GPU がオーバーヒートしたか!? まさか、これが都市伝説の異世界ゲート…!?」

 さて、次はニューキャラクターが登場します(^^)

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