第3話 届かぬ告白、刻まれた屈辱、俺は負けない
アキト君にトラウマが植え付けられるターンです。高橋は悪い奴じゃないんですけどね。。。
高校二年の夏、文化祭。準備期間中から、彰人の心は激しく揺れ動いていた。
図書室で隣に座り、穏やかな笑顔を向けてくれる雪菜。文学作品について語り合う時間。彼女の存在は、いつしか彰人にとってかけがえのないものになっていた。
高嶺の花だと諦めていた気持ちもあったが、文化祭という特別な雰囲気が、彼の背中をそっと押した。
(今しかない……この気持ちを伝えなければ、きっと後悔する)
文化祭の最後、恒例のキャンプファイアーの前、アキトは人影の少ない中庭で、一人雪菜を待っていた。何度も心の中で準備した言葉を反芻するが、緊張で喉が渇き、言葉が出てこない。
「不知火くん、どうしたの?」
背後から、優しい雪菜の声が聞こえた。振り返ると、浴衣姿の彼女が、少し心配そうな表情で立っていた。
「あの……白石さん……その……」
彰人は深呼吸をし、精一杯の勇気を振り絞って言葉を紡ぎ出した。
「ずっと、君のことが好きでした。もしよかったら、俺と付き合ってください!」
雪菜は、少し驚いた表情をした後、申し訳なさそうに眉をひそめた。
「ごめんなさい、不知火くん。あなたの気持ちは、すごく嬉しい。でも……実は、サッカー部の高橋くんと少し前から付き合い始めたばかりなの」
雪菜が申し訳なさそうにそう言うと、その背後から、
「おい雪菜、何そんなオタク野郎に話しかけてるんだよ」
という声がした。
サッカー部の高橋は身長170cmを超えるイケメン、サッカー部は県大会優勝の強豪でその部長である彼は、その甘いマスクと成績もトップクラスであるという、アキトからすると「神様、ちょっと理不尽じゃね?」と思わせるようなタイプだった。
ただ実は、その自信の裏には、常に周囲の視線を意識するような、どこか不安定な影が見え隠れしていることに気づく人間は少なかった。
高橋は一気に彼女の隣に行くと、彼女の顎を軽く持ち上げ、わざとらしくリップ音を立ててから、軽いキス を 彼女の唇に 落とした。
「俺の方が優先だろ?せっかく付き合い始めて、一分でも長く一緒にいたいんだから」
「ちょっと高橋君、不知火君が見てるところで。。。」
言いかけた雪菜を後ろから抱きかかえて顔を赤らめさせる。
「こういうことなんだよ、雪菜はコンピュータオタクのお前なんかが相手にする女じゃないの。俺みたいなハイスペックイケメンじゃないと釣り合わないんだよ。わかったらとっとといつもみたいにパソコンをガチャガチャやってろよ」
彼の言葉には、焦りと、どこか見下したような響きがあった。
それを隠すように、高橋は雪菜の 手を取り、指を絡ませて弄んだり、彼女の腰をゆっくりと撫で上げたりしながら、もじもじしている雪菜を相手に親密なじゃれつきを見せつけた。
以前から雪菜への想いを募らせていた高橋にとって、この関係は手放せないものだった。
両親同士が知り合いという伝手を使いまくって強引に口説き落とし、ようやく手に入れた彼女を、誰にも奪われたくないという独占欲がその行動を大胆にさせる。
高橋の強引なアプローチを受けた雪菜は顔を赤らめ、彼の腕を軽く引っ張ったが、育ちの良さで強く抵抗できない雪菜を見て、完全に勝利を確信した喜びに満ちた視線 で彰人を見下ろし、さらにダメ押しで雪菜の耳に口を寄せてそっと甘い言葉をささやいてみる。
「今日も家に行っていいだろう?二人だけになりたいんだよ」
その言葉が示唆するものに、アキトはショックを受けざるを得なかった。
(先週から付き合い始めたって言ってたよな? まさか一週間でそんな関係になるはずがない。いや、でもあの高橋のフットワークの軽さと、雪菜さんの性格からあまり気にしないタイプなのかもしれない。いやでもそんな。。。想像したくない!)
アキトは、そのまま雪菜の言葉を聞く勇気もなく、屈辱と怒りで全身が震えながら、ただ唇を噛み締め、心の中で響く高橋の嘲笑を振り切るようにその場を立ち去ることしかできなかった。
いつか必ず、二人を見返してやる。そして、今日この屈辱を味わった自分自身も乗り越えてみせる。 アキトの心に、これまで以上の強い決意が宿った。
(今の環境から抜け出して見返してやりたい。いっそ馬鹿にされたプログラミングでトップを取りたい。よし、そのためにはスタンフォードだ…!)
彼はそう考え、両親を懸命に説得した。学費を捻出するため、放課後や週末にはアルバイトに精を出し、少しずつお金を貯めた。
そして、幾度もの困難を乗り越え、奨学金を得るための厳しい選考を見事勝ち抜き、念願の海外留学への切符を手に入れたのだ。
さて、この次はアキトの転機です。