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山吹童子伝  作者:
第参章
9/13

和解と相談

暫くして、山吹童子の情緒が落ち着くと、泣き腫らして赤くなった瞳で葵に向き直し、頭を深く下げ謝罪を述べた。

「葵も、本当に申し訳ない。何も知らぬお主にいきなり怒鳴り、其許(そればかり)か刀まで抜こうとする等、言語道断であった。深く反省する。何度も云うが申し訳なかった」

山吹童子はそう云った後も中々頭を上げようとしない為、葵は気にしていないと云い、数十秒後山吹童子はゆっくりと顔を上げ、葵は安堵した様に息を吐いた。

葵が焦っていたのは山吹童子の謝罪の所為だけでは無い。では何か、それ(すなわ)ち野狗の視線である。

山吹童子が如何しても謝罪をしたいと野狗を説得し、何とか葵は謝罪を受け取ることが出来たが、山吹童子が頭を下げたことで野狗の目には殺意が宿り、葵は体に幾つもの矢が突き刺さった感覚がし、野狗の周囲からは毒が漂う様に感じた。

その後も中々山吹童子が頭を上げないので、野狗の殺意は増えて行く一方と成り、山吹童子に立ち向かったとは云え、まだこの世を去るつもりの無い葵は何とか山吹童子の頭を上げようと悪戦苦闘していたのである。

震えている葵を見て山吹童子はやっと野狗が原因だと気づき、後ろに座る野狗に軽く叱責した。

葵は体の震えが止まると息を吐き、真剣な表情になり話を始めた。

「とりあえず、お前らが化狐と山吹童子って事は信じる。一々疑ってても話が進まねぇからな」

「歴史上の人物の人生なんて、殆どがただの考察で証拠なんてものは存在しない。大方、今までどっかに隠れてでもいたんだろ?鬼の寿命なら現代まで生きてても何の疑問もないしな」

「細けぇ事は何も聞く気はねぇよ。お前らが俺に教えたいなら別だけどよ、さっきの感じ的にあんま話したくねぇんだろ」

葵はそう云うと、弐人を安心させる様に笑みを浮かべた。

そんな葵に、山吹童子も優しげな笑みを浮かべ、感謝を述べた。

「お気遣い感謝する、葵は優しいな」

「そうか?別に俺は優しいとは思わないが、、まぁありがとな」

二人の周囲は和やかな雰囲気が漂っており、何の含みも無い純粋無垢な笑顔に、空気が浄化されている様に感じた。

併し、野狗は其れが気に食わなかったのか、再度葵に睨みを効かせて言葉を発した。

「主人様、本題に入りましょう。此処に訪れた訳を思い出してくださいませ!」

「ん?嗚呼そうだったな。葵、予の話を聞いてはもらえぬか?」

「んーあぁいいぜ、そういや確かにここに来た理由聞いてなかったな」

葵が思い出したかの様に返事をすると、山吹童子は話を始めた。

「単刀直入に云うと、予らを此処に住まわせて貰いたいのだ」

「ここって東雲神社(うち)に?別にいいけど、理由を教えてくれないか?」

「嗚呼、先程葵が云った通り予はつい最近迄鬼牙山のと或る洞窟で眠りについていたのだが、現代では屋敷ももう取り壊されているだろうし、洞窟に住むわけにも行かぬ故住む場所が無くてな」

「其処で過去に鬼族信仰の神社が在った事を思い出して其処に行けば住処を提供して貰えるかもと思って此処に来たのだ」

山吹童子の言葉に、葵は驚いた様に身を乗り出して質問をした。

「ちょっと待て!てことは東雲神社(うち)が信仰してたのは神じゃなくて鬼だったって事か!?」

「何じゃ?知らなかったのか?」

「信仰の対象すら存じないとは、今代の宮司は無能な上に罰当たりなことで、、笑」

葵を睨みながら先程まで黙って話を聞いていた筈の野狗は、嘲笑いながら葵に棘の有る言葉を放ち、葵も野狗の言葉に苛ついた様に野狗を軽く睨んだ。

「確かに俺は宮司だけど、両親の急死で大至急次の宮司になったから神職のことも、宮司の仕事も、この神社についてもほとんど知らねぇんだよ、、、」

葵の言葉に室内は静まり返り、山吹童子は眉を顰めて顔を伏せ、野狗は流石に此れには驚いたのか気まずそうに目線を逸らした。

併し、葵は慣れた様に壱度溜息を吐くと言葉を続けた。

「だけどまさか、鬼を信仰してたとはな」

「落胆したか?其れとも鬼が怖いか?」

山吹童子は葵の落胆した様な態度に悲しそうに問いかけた。

「いや、別にそんなことねぇよ」

併し、葵はそんな山吹童子の考えとは裏腹に明るい聲で真正面から否定した。

「確かによく思い返してみれば、親父は一度も俺に神がどうのこうのみてぇな話はしなかったし、むしろ酒呑童子とかの話ばっかしてたな」

「お袋も親父の話止めるどころか一緒になって聞いてたし、、、」

「昔っからそんな両親に鬼族の話聞かされてちゃ、今更鬼が怖いなんて思わねぇよ笑」

葵は昔を懐かしみ乍ら笑顔で弐人に伝えた。

山吹童子は拍子食らった様に顔を上げたが、葵の純粋な笑みに少し引っ掛かる事が有りながらも柔和な表情に変わっていった。

「そうか、ならよかった笑」

野狗も山吹童子と同様に驚いていたが、また葵と山吹童子が仲が良さそうに微笑みあっているのを見て、嫉妬心全開で葵のことを睨みつけた。

葵はそんな野狗に怯えながらも手を差し出して話を続けた。

「まぁ、俺も知らない事は多いし、色々と手伝ってくれるってなら部屋用意しても構わねぇよ」

「嗚呼、当然部屋を借りる分手伝える事は何でもする」

山吹童子は葵の言葉に即答で返し、葵の差し出した手に手を重ねて握手を交わした。

すると、葵は何かを思いついた様に顔を上げると、首を野狗の方に回し、ニヤつきながら野狗に話しかけた。

「野狗、お前の主人様は即決してくれたけどよ。お前はどうすんだ?笑」

「当然、部屋を貸して欲しいなら『何でも手伝う』のが条件だけどな」

葵はそう云うと、野狗の方に手を差し出し、野狗は葛藤する様にその場で固まってプルプルと震えていた。

「なっ、、迂生が此の様な餓鬼の云う事を聞くなど、、併し部屋を借りられないのは、、、」

そして野狗は暫く葛藤した後、渋々葵の手に手を重ねて嫌そうに握手を交わした。

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