山吹童子
「ここでいいか?」
部屋の中には青年、基葵の聲が響く。
「嗚呼」
葵の問いに対し、優しげな聲で人成らざる者が応える。
其れに対し、隣に立つ野狗は不満気な聲を出す。
「本殿に連れて行け、と迄は云いませぬが別の部屋は無かったのですか?我が主人とも有ろう方を此の様な質素な部屋で狭い部屋に滞在させるのは気が引けるのですが」
其の言葉は忠誠心から来るのか、将又唯文句を付けたいだけなのか、、、
「良い良い、予は此の部屋も気に入ったぞ。物が多いのはあまり好かんしな」
其の様な従者の心中を知らぬ人成らざる者は、葵に笑いかけながら部屋を褒めた。
「そりゃぁ良かった」
葵も、野狗の無礼な態度に気分が落ち込んでいたが、そんな人成らざる者の言葉と笑顔に気分が上がり笑顔を返した。
参人が其々腰掛けると、弐人に葵が話を持ちかけた。
「ここまで案内したんだ。いい加減教えてくれ、アンタ達は一体何者なんだ?」
葵の問いに、先程まで笑みを浮かべていた人成らざる者は一瞬にして真剣な表情に変わった。
「野狗、」
「はい」
人成らざる者が野狗の名を発すると、野狗も先程まで不機嫌を露わにしていた顔を真剣な表情に変え、其の呼び掛けに応えた。
「、、、此れから話す事は全て事実であり他言無用です。其れを踏まえて、貴方に聞く覚悟は御座いますか?」
「あぁ」
葵は即答した。此の者達の正体への好奇心だけでは無い。普段は働かない勘が目の前に居る弐人に対し、異常あると本能的に訴えて来たからだ。
「では先ず迂生から名を申します」
「迂生は主人様に御仕えする名も無き化狐であります。どうか野狗と御呼びください」
「化狐?空想生物の一種だろ。そんなの蔵にある書物の絵でしか見た事ない」
「云え、現在此の国に住む同族は迂生くらいであると存じますが、古代より此の国には多くの同族が住んで居りました」
「申し訳ございませんが、詳しい事は後ほど纏めて説明致しますので」
「あぁわかった。じゃあそっちのお前は?」
葵の見つめる先には考え込むような様子の人成らざる者の姿があり、数秒の間の後ゆっくりと口を開いた。
「、、、予は山吹童子と呼ばれし者。其処の野狗の主人であり、敬愛なる鬼姫様の従者だ」
重い空気の中、静かに昔を懐かしむ様に山吹童子は名乗り上げた。
「山吹童子、伝説上では鬼の頭領酒呑童子とその娘、鬼姫と呼ばれる者に仕えた百戦錬磨の鬼であり、その正体は人間であった、女であったなど説は様々存在する謎多き者」
「その最期は討伐隊の誘導により、自身の主人であった鬼姫を殺害し自害した、、、」
葵は記憶を探る様に目を瞑り、書物に記載されていた情報を確かめる様に小さく聲に出した。
すると、葵の正面。山吹童子の元から異常な程の殺気が溢れ出し、葵は驚きのあまり目を見開いた。