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山吹童子伝  作者:
第弐章
5/13

東雲葵と名乗る青年

「なぁ、アンタ達参拝客か?」

先程の会話の発端となった青年だった。殺気に気が付き弐人(ふたり)の元へ向かってきたのだろうか?

だとしても、只の人間風情が野狗ですら怖気付く程の殺気の中、気絶するどころか歩み寄って来る等と云うのは明らかに異常で或る。

其れを理解しているからこそ、弐人は心底驚いた。(いや)、人成らざる者に関しては口角を上げて青年に興味を持った様な反応をして居たが。

野狗に関しては、当然今迄の経験から顔には出さないものの、青年が中々の実力者で有る可能性が高まった事でより一層警戒を強めた。

「、、如何(どう)してそう御想いに?」

野狗は普段通りの(かしこま)った口調を何とか崩さずに青年に問いかけた。

「いや、特に何かあるわけでは無いだけど、アンタ達の様子が少し変だったって言うのと、、、」

「、多分俺の勘違いだと思うんだがな?なんか違う気がするんだよ、アンタ達」

「変、とは?」

野狗は焦って居た。鬼族の中でも最上級の実力を持つ主人なら未だしも、変化の術を使って迄人間の姿に近付けている己の術を人間の然も奴隷(仮)風情に見破られてしまったかも知れないからだ。

「俺は確かに宮司だけど親父と違ってそう言うのには詳しく無いから上手く説明出来ないんだが、その、、、」

「あー!もう!絶対に笑うなよ!?」

「アンタ達が人とは違う感じがするんだよ!そうやって俺の勘が言ってるの!それだけ!」

青年は羞恥心が溢れ出す様に大声で叫んだ。

弐人は勘だけで己達の素性を指摘した青年に驚きを隠せずにいた。

「ほぅ、」

人成らざる者は遂に青年への好奇心が限界突破したかの様に感嘆の声を漏らした。

「小僧、御前は此の神社の今代宮司で相違ないか?」

「ん?あァそうだよ。さっきも言ったかも知れないが、東雲神社15代目宮司は俺、東雲葵(しののめあおい)だ」

野狗は驚いた。

宮司で表に立つことが多い者は暫し見掛けるが、自ら神社の管理や掃除等を行う宮司など長年生きてきた野狗ですら一度も見たことが無かったからだ。

併し、其れと同時に少し納得も出来た。

宮司、然も鬼族に着く程の実力の或る東雲神社と云われれば、自身とは比べ物に成ら無い程の実力者で或る主人の殺気にも或る程度耐える事にも少しは納得がつく。但し、まるで何事も無いかの様に殺気の影響を受けなかった事にはまだ納得出来て居なかったが。

併し其れとは別に、野狗は此の青年が気に入らなかった。

鬼で有れば尊敬の眼差しを向け、人で有れば畏怖(いふ)の念に怯える自身の主人に対して(こうべ)を垂れるどころか、巫山戯(ふざけ)た口調で会話をする其の態度、誰もが憧れる神職を愚弄(ぐろう)する様な身なりのだらし無さ。

何よりも、此の様な下賤(げせん)な者を敬愛する主人様が自身に冷やかな瞳を向けて迄庇った事に対して嫉妬して居たからである。

「宮司ともあろう方が此の様な場所で油を売っていて宜しいのですか?」

野狗は苛立ちを隠さずに棘の或る口調で青年に問い掛けた。

「んーあぁ、いいよいいよ。どうせ掃除しかする事無いからな〜」

青年は棘塗れの野狗の言葉をくるりと()わす様に明るい口調で笑いながら返答した。

「それより、結局どうなんだよ?アンタ達」

「嗚呼、名乗って貰った以上は此方も名乗らなくてはな」

人成らざる者は笑顔を浮かべていた。野狗の云う通り、初めは警戒していたが己の殺気に物怖(ものお)じせず、更に此方に話し掛けて来る青年に興味が湧き既に、警戒しろと云う野狗の言葉等忘れてしまって居た。

「予の名は____」

「主人様!(しば)しお待ちを!」

人成らざる者が名乗ろうとすると、焦った様に野狗が大声で言葉を遮り、其れに不満を感じた人成らざる者は野狗に対して不満げな声を漏らした。

「何じゃ野狗」

「御言葉を遮ってしまった事は申し訳なく御座います。併し、貴方様は今や特殊な御身分で在られます。せめて境内(けいだい)、否社殿(しゃでん)内で話す方が宜しいかと」

「ふむ、其れもそうだな」

「葵と云ったか、社殿内に予らを案内しろ。詳しくは其処で話す」

先程まで小声で自身には聞こえない様に相談を始めて居た弐人に青年は苛ついて居たが、其れよりも弐人の素性が気になった青年は人成らざる者の言葉に小言混じりに答えた。

「はぁ?何だ急に、まぁ別に構わないけど社殿内は荒らすなよ。俺の住処(すみか)が無くなる」

「承知した」

「あと、本殿にはあまり入るな。軽々と入っていい様な場所じゃ無いからな」

「勿論」

話が纏ったのか、一人の人間の青年の背後に弐人の人外で有ろう者が続く其の様は何とも異様で有った。

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