東雲神社
古来より鬼が住み着くと云う伝承の或る山、鬼牙山。
今でも鬼を恐れ、立ち入る者は少ないと云う。
そんな鬼牙山から弐人の者が降りてきた。何方も、人間とは程遠い異様な空気を纏う者だが。
「所で主人様」
「如何した?」
「貴方様の仰る神社と云うのは何と云う神社で御座いますか?」
「嗚呼、確か東雲と云った筈だ」
「東雲神社、で御座いますか」
「嗚呼、此の辺の神社の中では一番古きを誇るものだった筈、、、」
人成らざる者の顔には、もう拗ねた様子は無かった。気分屋であるのだろうか。
「此処か、」
弐人の前には、少し古びた姿の鳥居が建っていた。
「彼方此方塗装が剥がれているが、流石我等に着いた者達の社殿だ。敷地も広く本殿も立派なものだ」
「仰る通り、立派な社殿で御座いますね」
東雲神社と名の着く目の前の建物は拾段程度の石段を登った先に広く造られており、敷地内には墓地も造られていた。
「併し主人様、此の神社を訪ねると云えど、如何する御つもりで御座いますか?」
「宮司や巫女は何処に居るのかも判りませんし、、」
「宮司や巫女等の居場所は知らぬが此の神社の者で有れば良いのなら、彼処に居る奴に言えば良いじゃろう?」
人成らざる者の指し示す先には、袴を着て掃き掃除をする青年の姿が有った。
「え、彼奴に話し掛けるのですか?如何見ても下僕の男で在りましょう?」
「其の様な下賤な者に近付く等、貴方様が御穢れに、、、」
「野狗、予は其の様な差別は快く思わぬ」
「口を慎め」
周囲に殺気が飛び交う。野狗も余りの圧に苦痛の表情を浮かべていた。
「申し訳ご、ざいませんでした」
「に、二度と繰り返さぬ様心に刻み、誠心誠意努めていく所在です、、、」
途切れ途切れの謝罪の言葉に、人成らざる者もやり過ぎたと思い直したのか、徐々に殺気を収めていった。
「嗚呼、ならば良いのだ」
「此方こそ済まない、加減が出来ていなかった」
「いえ、此方の落ち度ですので、、、」
互いに謝罪をし合い、本題に戻り二人共社殿の方へ向き直そうとした刻、一人の人間の影が忍び寄った。