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神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
4.再開
99/166

92.

 神殿長がバティンポリスに到着するまであと六日。バティンポリスへと帰ってきたリュドミラを連れてバティン迷宮二十五層、二十六層を攻略した。二十六層を攻略したはいいものの、魔術に耐性を持つ魔獣が出てきたのか魔術の通りが悪くなり、魔術を放つ回数が増えていた。クロムが声をかけるとリュドミラは空元気を出してか気丈に振舞っていたが、クロムが目を逸らした背後では疲れた様子が滲み出ていたためその日の攻略を打ち切った。

 リュドミラと相談したところ、まだ戦えると言い切った。このときリュドミラから二十七層へ挑む準備に二日欲しいと言われ、その言葉通り二日後に挑むと決めた。何か策があるようだった。手伝えるか聞いたが、クロムには無理だと言われてしまった。

その準備の最中、時間を融通してもらいランカとリュドミラを引き合わせてバティン迷宮の三層で戦いの練習を見守った。

 ランカは最初クロムの陰に隠れてリュドミラに人見知りしていたが、リュドミラが何か耳元で一声かけるとひょっこりとクロムの陰から出て、素直にリュドミラに魔術を教わり始めた。リュドミラが何を言ったか聞いてみたが、ランカにもリュドミラにもはぐらかされた。

 リュドミラはこの冬至に魔導学院を次席で卒業していたからか、それとも様々な者たちから教えを受けたからか、ランカに魔術を教えるのが上手かったようだ。何にしろ〈水〉〈氷〉しか使わなかったランカは新たに〈フラム〉や〈グルド〉を混ぜながら戦闘を進めるようになり、魔獣の動きを封じながら有利に戦いを進めた。少し使う魔術を変えただけでここまで違うものかと思ったのだが、リュドミラが言うにはこのあたりの魔獣は〈水〉や〈氷〉の魔術に耐性があるようで、苦戦していたのはそのせいだと言った。

三層の魔獣を倒せるようになってから何度かは三層の魔獣と戦って魔獣の強さや癖に慣れた。十分に練習をした翌日に四層に入り、練習通りに魔獣を倒したことを皆で喜んだ。

 このわずかな時間の中で、リュドミラとランカは随分と打ち解け、魔術を教え合う姿は姉妹のように見えた。


(この二人、意外と相性がいいのか、それともリュドミラが懐に入るのが上手いのか。

 兎も角、引き合わせて正解だったかもしれん。)


 そんなことをぼんやりと考えている間に近くの魔獣をすべて倒したのか、二人は高い声ではしゃいで〈水〉の魔術を撃ちあっていた。何事かと思いクロムは止めようとしたが、リュドミラはこれを遊びながらの訓練だと言った。魔術に威力は無いようだったし、周囲に魔獣もいない。魔術についてクロムの何倍と理解しているリュドミラが言うならば、とクロムは引き下がってあたりを警戒した。二人の周辺の砂浜がすっかり湿った後、満足気で遊び疲れた様子のランカが浜に座り込んだ。


「おい、迷宮で気を抜くな。」

「クロムとリュドミラさんが守ってくれるから大丈夫。」

「ふふ、そうだね。私たちが守ってあげ…〈爆発エクスプロード〉!」


 激しい爆発音と共にランカの背後が爆ぜた。突然の事にランカが驚いていたが、リュドミラはその背後に現れた蟹型の魔獣を攻撃していたのだ。少し遅れて降ってきた魔獣の残骸にランカは腰を抜かしていたが、それが魔獣の死体が目の前に落ちてきたからか、それともランカとは桁違いといえるような魔術を見せつけられたからかはわからなかった。

 二十七層に挑む日、リュドミラは少し遅れてクロムに合流した。


「遅かったな。」

「いやあ、ちょっと最後の準備が手間取っちゃった。これなんだけどね。」

「なんだそれは。」


 リュドミラが見せたのは銀色の小指程度の筒が幾つも連なった道具だ。魔道具であろうそれを、リュドミラは〈集積爆竹〉と呼んだ。銀色の筒一つ一つに〈爆弾ボンボ〉の魔術を刻んだのだそうで、投擲してこれ目掛けて〈火〉や〈爆発〉や〈爆弾〉といった魔術を放つことで更に威力の底上げをするための道具なのだと息巻いていた。七つ用意したようで、これを作るためにリュドミラは時間が要ると言ったのだ。


「投擲できるのか?」

「それなりの重さにしてあるから、飛びにくいってことはないかな。

 投げ方はアリシアさんに教わったよ。」

「もうなんでもありだな。」

「えへへ、そうかな。もっと褒めてくれてもいいよ!何なら試験は合格って言ってくれてもいいんだよ。」

「そうか。じゃあ、行くぞ。」

「露骨に逸らして。」


 二十七層へと潜ると、丁度遠くに銀色の柱が見え、引き込まれるような水流を感じた。群れを作る魚の魔獣で、以前クロムは〈海鳴りの爪〉で必死に殲滅したが、今回はリュドミラの〈集積爆竹〉の威力を試すことにした。魔獣たちからは二十歩は離れていた。


「リュドミラ、あれに投げることは?」

「できる。クロムは少し下がって。それから、耳をふさいでおいたほうがいいかも。」


 クロムが下がるとリュドミラは〈ヴィンター〉の魔術を使いながら、少し高い位置に放るように〈集積爆竹〉を投げた。すかさずリュドミラが右手の人差し指を〈集積爆竹〉に向け、水流に乗って魔獣の群れに届いたとき、一言〈爆発〉と言った。

 次の瞬間激しい衝撃がクロムを襲った。魔獣たちに向かって流れていた水流がびりびりとした衝撃と共に逆流し、生温く赤い濁流がクロムたちを通り過ぎた。

 威力はかつて〈白輝蜈蚣の外套〉がどこまで魔術を無効化できるか試すためにディンから受けた猛攻に匹敵する程の威力を感じた。あのときはすべて魔術だったからすべてが無効化されて何も感じなかったが、今回は水流と熱を感じた。この〈白輝蜈蚣の外套〉で今の攻撃を無効化できるのかはクロムでは判断がつかなかった。

夥しく群れていた魔獣の数は半数より減っていたが、もう一度リュドミラが投げた〈集積爆竹〉で更に数を減らした。今度の威力は初撃のものよりも威力は低かった。


(…今のは魔術による攻撃なのか?)


 思考を中断し、クロムたちに向かってくる魔獣の残党を倒しきった。

 周囲が安全になってから、リュドミラは先ほどの攻撃の威力を思い出してか考え込んだ。そこにクロムは遠慮なしにリュドミラに問いかけた。


「今のは魔術か?」

「…え?ああ、うん。〈集積爆竹〉の中に威力を底上げするために爆薬を仕込んであるから、純粋な魔術攻撃じゃないんだけどね。」


 つまり物理的にも作用する攻撃だ。クロムが当てられたら魔術自体は無効化できても、必ず無効化できない部分が出てくるということだ。


「少なくとも人がいるときは絶対に使うな。危険極まりない。」

「勿論だよ。だから、これを使うのは離れているときの最初の一撃だけ。深手を負わせられれば相当楽な戦いができるよ。

 普段はこっちの小分けのやつかな。」


 そう言って二三個繋がった銀の筒を笑顔で見せるリュドミラは輝いていた。攻撃の威力に執心してはしゃぐ姿はすっかり深層の探索者らしかった。

 翌日に二十八層へと挑んだ。リュドミラは最も苦労していた攻撃力の低さを魔道具で補い、この階層でも十分戦えるようになった。クロムはリュドミラから補助を受けることで更に戦いやすくなった。リュドミラからの補助の一つとして〈力〉の魔術を受けたとき、クロムは〈白輝蜈蚣の外套〉を装備していたから弾かれてしまった。


(やはり魔術は通さないか。)


 妙に胴の長い魚の魔獣の腹を深く裂いて離脱する。すかさずリュドミラが〈風〉を撃ち込み、魔獣の進路を逸らした。再びクロムが襲い掛かると、力尽きた魔獣は書き変わりによって指輪型の迷宮品に変じた。青い宝石の埋めこまれた美しい指輪だった。

リュドミラにもこれを見せてみたが、どのような迷宮品かはわからなかった。

 二十八層を踏破するころには何度も魔獣と戦ったから、リュドミラの〈集積爆竹〉はすっかりなくなってしまった。この銀の筒を一つだけ作るのには苦労しないようだが、大量に作るとなるとやはり時間はかかるようだった。今度は二日後に二十九層へと挑む。次に迷宮に挑む時、神殿長が到着するまであと二日しかない。残る二日で果たして攻略できるのかと少し焦りを覚えたが、クロム一人だけで三十層以降に立ち入るのは困難だ。今更焦っても仕方がないと思いなおし、リュドミラの準備を待った。

 指輪型の迷宮品は〈精霊の指輪〉と呼ばれるもので、いくつかの迷宮で時折得られる迷宮品だった。青色の宝石は〈水〉や〈氷〉といった水に関連する魔術を強化する〈水精の加護〉という効果が付いていた。ほかのものは大抵このほかに一つか二つ別の効果が付いているのだが、一つしか効果が付いていないこの指輪は、その分〈水精の加護〉の効果が強力なようだ。クロムはこれを使えないため、リュドミラに渡した。


「え?もらっていいの?」

「別にいいだろう。俺にはこれは使えん。」

「…ありがとう。大事に使うよ。」


 リュドミラはうれしそうにしながら右手の中指に指輪を嵌め、その手を夢現といった表情で眺めていた。しばらくそうしていたが、急にやる気が湧いてきたようで宿へと急いで帰っていった。

 リュドミラの準備を待つ間に、ドレークの捜索に進展があった。

 ボスポラスは消失現象を利用してバティン迷宮を十層まで順番に魔獣を倒して次の階層に向かい、時間差で前の層から探索者を転移させることを繰り返した。このとき探索者協会を通して探索する層に一時的に制限をかけて、検証を進めたようだ。自由に探索できないことを不満に思ったものもいたようだが、検証に参加した探索者たちの殆どは割のいい仕事だと言って喜んでいた。

 検証を進めた結果、七層に潜んでいそうだということだった。ボスポラスは随分疲弊して足元も覚束ない様子だったが、目だけはまだ力強く輝いていた。

 

「七層?確か少し入り組んだ岩場になっていたか。」

「ええ、岩陰に潜まれていたらそれはわかりません。なので明日、十層まで探索できる者を集めて七層を徹底的に…大量の探索者を投入して捜索します、絶対に逃がしません。」


 獲物を追い込むときの狩人の目をしたボスポラスに対して、適当な相槌をして離れた。ボスポラスの休憩の時間をあまり奪うわけにはいかないと思ったのもあるが、獲物になった気分になって少しだけ気圧されたのだ。


(あいつ、妙に迫力があったな。探索者でもなかなか見ないぞ。

…だいぶ無理していたようだが、ドレークのことはこれで何とかなりそうだ。)


 ボスポラスの言葉通り、翌日朝には領主代理の名で雇った大量の探索者がバティン迷宮に押し掛けた。文字通り、人の数で押し潰すかのように探すことにしたようだ。指揮はボスポラスが執るものだと思っていたが、何日も寝ていなかったボスポラスはすべての準備を終えた後、深く眠ってしまい起きてこなかった。そのためザンジバルが指揮を執っているようだ。

 クロムたちもそこに参加した。二日に渡って細かく捜索したところ、岩が入り組んだ潮だまりに、つい先程まで誰かが生活していただろう焦げた薪と串に通されただけの生肉を発見した者達がいた。探索者が急に沸いてきたから放棄して逃げたのだろうと誰かが言った。近くにいるのではと探し回ったものの、ドレークは結局見つけられなかった。別の階層に移動してしまったと結論付けた。

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