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神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
4.再開
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86.

 リュードが戦う力が十分でなかったら、クロムの戦いに着いて来ることはできないからそれを理由に置いていく。恨まれることになっても、難癖をつけて追い返す。そしてそのまま撒く―――そんなことを考えていたのだが、リュドミラは帝都で魔導学院に通っていた頃からも迷宮を探索していたことがある。バティン迷宮七層から一人で進ませ、クロムが後からついていくことにしたのだが、リュドミラは苦戦することなくこの日の間に十層までたどり着いてしまった。

 クロムの手元には返し忘れていた〈鰭の足環〉と〈空魚の首飾り〉があるため、十一層以降にも潜ることができる。しかしこの迷宮品に慣れないうちは一度海で使い方を覚えてもらおうと思っていたのだが、リュドミラはクロムから二つの装備を受け取ると十一層に進んでしまった

 慌てて十一層に追うと、リュドミラは既に魔獣を見つけて交戦していた。


(水中も慣れてない奴がいきなり戦えるのか?)


 そう思ったのもわずかな間で、リュドミラは器用に泳ぎながら魔術を連発して魔獣を仕留めた。いつか見た棘を飛ばしてくる魔獣がリュドミラの傍に現れたが、〈氷〉の魔術で壁を作り飛ばされた棘を防いで、凄まじい速度で距離を取り直すと遠くから魔術を撃ち込んで倒しきってしまった。リュドミラは勢いのまま十一層を突破して地上へと戻った。


「リュードは泳ぐのは得意なのか?」

「え?泳ぎ自体はまあまあかな。さっきはずっと〈観測オブサーヴ〉を使ってたから、対処できただけだよ。」

「いや、凄い勢いで避けたときがあっただろう。あんな動きは俺でも無理だぞ。」

「あれは〈突進ラッシュ〉だね。この足環もあったからかな、思った以上に速く動いたからびっくりしたよ。」

「そ、そうか。あの針を飛ばす魔獣は知っていたのか?」

「あれはジェイドさんの教えで、敵が自分や仲間に接近したら一度、壁を作って距離を取らせるっていうのがあって。それをやっただけだよ。ガハラさんやレラさんは何かされる前に倒しきればいいって言ってたけど、今の私には無理かな。」


 十二層に到達した。リュドミラは快調に戦い続けたが、正面のすばしこい魔獣に集中してしまい別方向に注意が向いていかなかった。その隙を狙った魔獣がいた。クロムは〈夜叉の太刀〉を取り出して、魔獣に斬りかかり、リュドミラを守った。そこでリュドミラは別の魔獣に狙われていたことに気付いたようで、周囲の魔獣を倒し切った後で肩を落とした。

 ここからはクロムが前衛をし、リュドミラが後衛をすることにした。

 十二層で連携を確認するために魔獣を探し、クロムが強く水を蹴って加速した。その時、リュドミラが魔術を唱えた。


「〈ヴィヴェコン〉!」


 突如〈剛力〉を唱えたときの様な感覚を覚え、勢いのまま剣を振り抜いた。攻撃は魔獣の腹を深く裂く程度に収まると思っていたのだが、剣は魔獣の硬い鱗や骨をいくつも断って魔獣を両断した。

 〈剛力〉を発動した感覚に近かったのだが、内側から力が溢れるような感覚とは違い、外部から急に力が流れ込んできたという感覚だった。そして結果は先ほどの通り、魔獣を腹から両断した。


「な、なんだ、今のは。」

「〈力〉っていう魔術で、使った相手の攻撃力を上げる魔術なんだけど。」

「こんなに威力が変わるのか?」

「いや、普通、ここまではならないよ。もう少し控えめだよ。

 えーと、手を出して。」


 クロムが差し出した手をリュドミラが力を込めて握る。クロムの三割くらいの力だ。リュドミラが〈力〉と唱えると、急に力が強くなった。クロムの握力の半分に満たない程度だろうが、確かに強力になっている。


「結構強くなるんだな。」

「うーん…クロムはこんなものじゃなく何倍も強くなってるよね。でもディン教授とかでも最大で五割くらい強化するような魔術なんだけど。私くらいでもかなり腕力が強くなるのがこの魔術なんだよ。」

「そうなのか。だが俺の場合はもっと強力になった気がする。」

「不思議だね。クロムは魔術が効きやすいのかも。」

「魔術が効きやすい…体内魔力とかいうのと関係あるのか?」

「極端に差があれば、効き目も変わるみたいだけど。でもクロムは深層の探索者だし、魔術を使わないにしても人並み以上…五十とかあるんじゃないの?」

「無い。」

「え?」

「俺の体内魔力は、確か十だった気がする。」


 リュドミラは驚いたように口をもごもごとさせた。少しの間そうしていたが、やがて考えがまとまったのかクロムに向き直り、漸く口に出した。


「…クロム、本当に生きてるんだよね?大丈夫?」

「何を言う。」

「いや、その程度っていうのは幼い子供か死にかけの老人くらいよ。大抵の大人になるくらいなら二十前後くらいはあるんだけど。」

「そうなのか?ディンはそんなこと言っていなかったが。」

「そりゃ…言い辛いよ。」

「まあいい、今回はこれがいい方向に動いたってことだ。」

「まあ、ねえ。でも、裏を返せば普通の魔術でも、普通の人よりも良く効いちゃうから気をつけなよ。」

「まあ、それは大丈夫だろう。」


 その日は十二層で探索を終了して地上へ戻った。すっかり真夜中になっていて、街の明かりは既に消えている。二人はそれぞれにランタンを取り出し、明りを灯した。リュドミラのランタンはふわりと宙を浮き、リュドミラの数歩先を浮いた。


「それは?」

「〈浮き灯り〉っていう魔道具。台座にマナを流し込むと、流し込んだ分だけ使えるんだ。」

「…便利だな。」

「便利だよ。これがなかったら私もここまで来るのは大変だったかも。」

「片手が塞がるからな。どこかで買えないかな。」

「魔道具を取り扱う店ならあるかも。そういう道具屋はバティンポリスにも何件かあるみたいだよ。」


 宙に浮く灯りの話はどこかで聞いた覚えがあったが、思いだせないまま宙に浮いた明るい魔道具を見ていた。リュードと別れてから、ふとそういう店の事なら、とヘルリックの事を思い出した。


(ヘルリックだったら知っているかもしれない。忙しそうだったが、近いうちに行ってみるか。)


 翌日は朝からリュドミラと一緒に十三層、十四層を攻略した。リュドミラは昨日の間に水中での戦い方に慣れたのか、クロムが以前使っていた〈鰭の足環〉と同じもののはずだというのにクロムよりも素早く、小回りよく戦った。昼過ぎにはリュドミラは〈遠洋の灯〉と共同の奉仕依頼があると言って別れた。

 丁度良いと思い、ブライン道具店へと向かう。店の扉を開ければ、すぐにブラインが出迎えた。最初に会った時のような物慣れなさは鳴りを潜めて、一端の店主のようにも見えた。


「いらっしゃい。…クロムか。どうしたんだ?」

「ヘルリックを探しているんだが、どこにいるだろう。」

「ヘルリックさんなら昨日から商業組合の依頼で近くの村に食料を届けに行ったよ。二、三日は帰ってこないかな。」

「そうだったか。邪魔したな。」

「ヘルリックさんにしかわからないことか?」

「いや、ええと、なんて言ったかな。宙に浮く灯りの魔道具…。」

「ああ、〈浮き灯り〉?」

「ああ、それだ。それが買える場所を探しているんだ。」

「それならここでも扱っている。俺が捕まった時の礼もあるし、少し安くしてやるよ。」

「いいのか?」

「商人として借りが増えるのはよくないんだって。ちょっと待ってろ。」


 ブラインはそう言って奥へと引っ込んだ。クロムは店内を所在なさげに眺める。幾つかの試供品らしい魔道具が棚に並んでいるだけで、他には大きな机を挟んで長椅子が二つあるだけだ。棚を見ながら時間を潰しているとブラインがいくつかの箱を持って現れた。


「待たせた。幾つか型があるから、気に入ったのを選んでくれ。」


 そう言うなり次々に箱を開けてクロムへと見せてくる。箱に収まる〈浮き灯り〉の魔道具はどれも美しい装飾が施されていて、商売に疎いクロムでも一目で値打ちものだと思った。


「最近は御貴族様以外にも、こういうキレイなのを欲しがる人が増えてんだよ。

 値は抑え目なんだが少し魔力を注ぐだけじゃ長い時間使えないから使い勝手は悪い。

 こっちのは値は張るが、その分長い時間持つ。」

「ほう。どれくらい持つんだ?」

「一回で一刻くらいかな。短い時間しか使わないならこっちの安価なほうがおすすめなんだが、探索者はそうもいかないんだろう?」

「…そうだな。」


 そんなやり取りをしながら見ていたが、その中で一つだけ、装飾の施されていないただのランタンに見える〈浮き灯り〉があった。鉄と硝子で組まれたそれはどことなく武骨で、硝子もどことなく煤けている。


「それが気になるか?」

「これも〈浮き灯り〉か?」

「ああ。これは昔親父が仕入れてきたやつだ。

 最近の流行りとは違うから別にしてたはずなんだが…整理したときに紛れ込んだかな?」


 ブラインは首をかしげていたが、クロムは美しい装飾のあるものよりも目の前にある煤けた〈浮き灯り〉が気に入った。


「これに魔力を入れてみていいか。」

「ああ。底の印を触って、魔力を流し込んでくれ。」


 言われた通りに印に触る。魔力を流し込むというのは初めてだったが、指先からじわりと血が吸い取られるような感覚を覚えた。思わず手を放してしまったが、〈浮き灯り〉は起動してクロムの目の前に浮いた。


「よかった、長く放ってあったけどちゃんと使えるやつだったな。

 別のにしとくか?」

「いや、これでいい。」

「そうかい?えーと、じゃあこいつは少し古いし、金貨十五…いや、十枚かな。」

「おや、思ったより高いな。」

「まあな。でももとはこれでも二十枚。最初に進めた飾り付きのほうは金貨三十枚以上になるし、一番高いのは金貨百六十枚だぜ。」

「そりゃ高いな。性能がいいのか?」

「いや、あんまり変わらん。高名な彫金師に細工を頼んだんだよ。飾りの出来がすごくいいんだ。」

「ふうん。変わらないならなおのことこれでいいな。」


 クロムは〈収納袋〉から金貨十枚を取り出すとブラインに渡した。素早く枚数を数えると、毎度ありがとうございます、と笑顔を作って頭を深く下げた。その後取り扱いの注意や灯りの切り方を説明されたが、灯りの切り方は魔力を抜くのだと言われ、クロムはそれができないため自然に切れるまで待つしかないのだと理解した。


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