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神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
4.再開
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85.

 その後少しだけクロムがバティンポリスに来た時のことを話した。リュドミラは黙って聞いていた。それを話し終えてから少しの間波の音だけが聞こえていたが、リュドミラが再び口を開いた。


「そっか。ここでもクロムはいろいろあったんだね。

 …いや、待って。クロムの言い分だと帝都では神殿の関係者と対立したんでしょ?でも、こっちに来てクロムが倒したのは反神殿の奴らでしょ?」

「ああ。」

「なら、帝都以外の神殿では変な誹りは受けないと思うよ。神殿は総本山と神殿で縦の繋がりは強いらしいけど、神殿同士の横の繋がりはあまり無いし。あってもせいぜい祭具や道具の借り貸し、あとは魔獣の情報くらいよ。

 それに、バティンポリスの神殿に協力したんだから、ここにいる限り多少の難癖はかばってくれるかも。」


 神殿の横の繋がりが希薄という話はクロムからすれば初耳だ。バティンポリスの神殿で何も言われなかったことは単に情報が無いからだと思っていたが、帝都でクロムを追いかけたという話は共有されていなかっただけなのかもしれない。

 もしかしたら時間が経つにつれてハイラルのことはうやむやになってくれるかもしれないが、使徒の動向は共有しているかもと考えるとやはり希望的推測でしかない。


「だから、クロムが帝都の神殿から何か言われて帝都で活動ができなくなっても、帝都以外の地域なら済むじゃない?

 だからクロム。探索者同士として、私と組んで。

 魔術はディン教授とフレイア教授から沢山教わった。実践はタイデン教官や迷宮の魔獣相手に沢山練習した。身の守り方はジジ…ライオネルから教わってきた。探索者としての基本の考え方は〈深淵の愚者〉に叩きこまれたし、身の鍛え方はサイラスから教わった。知識は…なんでも知ってるわけじゃないけど、自分で調べて覚えてきた。

 そのうえでオルドヴスト家とは縁を絶ってきた。探索者としての私を縛るものはない。

 クロム、私は貴方の仲間として不満?」

「お前の実力は良くはわからない。だが、いろんな奴らから教えられて成長したことはわかる。」

「なら…!」


 リュドミラの表情が明るくなる。それを見てクロムは罪悪感を覚えたが、それを告げねばならない。約束した当時とは違い、神殿が諦めるか、あるいは決着が着くまでクロムはリュドミラを連れていける状況ではないと伝えたつもりだったのだが、それでもまだリュドミラは納得していない。


「…それでも一緒に連れていくことはできない。すまん。」

「なんで?私が足手纏い?」

「違う。あいつらに厳しく仕込まれたなら、結構な水準になっているだろう。」

「じゃあどうして?」

「…そう決めたからだ。」

「石頭!碌な話もしてくれないのにつれていけないって何さ!何が駄目なんだ!」

「本当に済まない。…俺からは話せん。」

「神殿の事で話せないことがまだあるの?まさか使徒様でも殴った?なん…て……え?」


 突然の言葉に思わずクロムは身動ぎした。しまった、と思った時にはもう遅く、その反応を見たリュドミラは急激に頭が冷えたように表情が抜け落ち、視線を彷徨わせながらつぶやいた。何かに気づいて動揺している。その何かの正体はリュドミラ自身が感情的になって吐いた一言だ。クロムはかつてないほどの恐怖を覚えた。


「…待って、帝都でクロムを襲った、誰かに言えない相手……神殿の関係者。使徒で、今の反応?ねえ、クロムを襲ったのって……?」


(…知っていたわけではないはずだ。自分の言葉で急に辻褄が合ったんだ。帝都での幾つかの噂や情報と俺の話や態度から合わせたんだ。感情的になっていたのに!

 俺の行動が解れば、やはり誰でもそこに繋がってしまうか。どうする?どうすればいい?)


「…クロムが帝都から出たのと一緒の時期に森林神の使徒様が帝都からいなくなった……まさか、まさかクロムとは関係ないよね?」


 冷たい汗が幾つも額や背を伝った。リュドミラの推測は最早真実に近い。そしてその推測はリュドミラの中では一つの真実として形作られてきている。クロムが否定しなければ疑いは逸れないが、しかしクロムに否定することはできず、かといってリュドミラを巻き込んでしまうために肯定もできなかった。

 リュドミラはすべての情報と仮説が一つに繋がったのか、ゆっくりとクロムに向き直った。目には困惑が見てとれたが、確かに何かを覚悟した目付きをしていた。


「……クロム。私は必ず貴方の秘密を守る。契約と秘密の神シバメスタに強い誓いを立てる。それでも信用できないなら隷属契約だってしていい。だから、正直に答えて。」


 まっすぐにクロムと目線を交わすリュドミラは何をしても退かないと、妙な革新を覚えた。既にリュドミラが貴族の実家を出てまで探索者になり、流れの探索者相手に酷い契約だって結ぼうとしている。その事実と覚悟を既に知っているから、応えなければならないような気がしたのだ。


(ここまでしようとしている奴を、俺は無碍にしようとしているのか?)


 逡巡はわずかな時間だけで、クロムはいよいよ覚悟を決めた。


「…俺は以前、神殿騎士で…薄明の神ラピアという棄教された神の使徒だったらしい。」

「えっ?」

「最近になってそのことを知った。

 その中で、俺は森林神の使徒ハイラルとは顔見知りだったという話も聞いた。詳しくはわからないが。ハイラルとは因縁があったらしい。」

「そ、それで?」

「ハイラルは帝都で俺を襲い、追ってきた。俺はハイラルとその一味を斬った。その時は俺も記憶が無かったから、あいつらがなぜ俺を襲ってきたかもわからなかった。それを聞き出そうとしたが、その前にあいつは自ら命を絶った。俺に何かを教えるのが嫌だったらしい。」

「そ、そんな。」

「ハイラルのことや、俺が過去に神殿騎士だったらしいと知ったのもバティンポリスに来てからだ。」


 リュドミラは少し呆気に取られていたが、静かに聞いていた。もう一度クロムは帝都を奔出したときの話をもう少し詳しく話した。話している間に諦めの感情を持った。


「記憶を失う前の俺はあいつらからすれば裏切り者だという。神殿から逃げるときに何人も神殿騎士や仲間だった奴を殺して逃げたらしい。

 俺が神殿と対立するとわかったんじゃないか?」

「うん、よくわかった。確かにその可能性がある。

 でも、私がクロムに着いて行かない理由にはならない。」

「…本当にちゃんと聞いていたのか?」

「ちゃんと聞いたよ。まさか考えた通りだったとは思わなかったけど。

 クロムが何を言っても私は着いて行くから。」

「なんでそこまでしてついて来ようとする?」


 リュドミラは少し口籠り、気恥ずかしそう目を逸らした。


「…クロムは、もうどうしようもないところで私を助けてくれた。」

「助けた…?あったかな?」

「危ないところを助けられたとかじゃないよ。

 突然現れた探索者が強い仲間を得て迷宮に挑み、強敵に勝つ。そんな噂話と現れたクロムは塞ぎ込んでいた私の心を軽くして、あの家を飛び出すことを考えさせた。

 そして本当に突然私の前に現れた。私もハルトも簡単に倒して。迷宮で勝手にケガした私たちの心配をして、稀少種のいる迷宮を何周もして倒して。帝都の危機を排除するべくあちこちに働きかけて霊峰山脈に向かって、探索者の集団すら大きな犠牲が出るような魔獣を討伐した。

 凄いと思ったし、その姿に強く憧れた。

 クロムの活躍は、私に希望をくれたんだ。私はクロムみたいにはなれないけど、いろんな人の代わりにクロムを助けられると信じたかった。妄想が過ぎるのかもしれないけど…それでも、私はあなたの力になりたい。

 …今は、それだけ。」


 リュドミラが語ったのは、クロムが何の気なしに―――流されるままともいう―――通ってきた道だ。それでまさか、一人の人生を大きく変えたことを奇妙に思った。しかし、現に彼女はそうだと言い切り、目の前にいる。リュドミラは再び、まっすぐにクロムを見つめていた。

 長い沈黙が二人の間に流れた後、クロムは口を開いた。


「お前が実際のどれだけ戦えるかもわからない。迷宮に行こう、着いて来い。

 もしお前が俺と肩を並べるに十分な力があるなら、示してみろ。」

「……試験だね。やってやる、ぎゃふんといわせてやるからな。」

「ぎゃふん…?」


 そう言って張り切るリュドミラにバティン迷宮何層に潜れるかを聞くと、何度か挑戦していて、七層までは一人で攻略していた。

 町中へ戻ればクロムたちを探し続けていた探索者に声をかけられた。話は済んだと言えば、面白くなさそうにしながら散って行った。


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