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神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
4.再開
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76.

 緩い日々を送りながらひと月が経った。このわずかな間に〈番割の鎚〉が放出した魔道具が相当な数集まったと聞いた。まだ探しているらしいが、バティンポリスの人々は領主に大変協力的らしく雇われた探索者や兵らが探しても見つかりづらくなっていた。

 ドレークは安堵したのか風邪に罹ったようで、自室に引きこもってしまった。仕事はザンジバルが跡を継ぎ、ボスポラスが補助をすることで領主の仕事は問題なく回っているらしい。ランカはほとんどの日を書庫や自室で過ごしているため、クロムが護衛に付く必要が無い日々が続いた。

 クロムたちのバティン迷宮探索も十七層へと移っていた。魔獣たちは一層強力になり、毒や水流を操り一行を苦しめた。水中での動きを補助する〈鰭の足環〉と周辺の水流に流されなくなる〈溝魚の加護〉という指輪型の迷宮品のおかげで対処することができた。十五層以降を攻略できたことは快挙で、年明け早々に良い知らせだと盛り上がった。

 アランとヴェイロンは次の層にすぐに挑もうとしたが、他の者は慣れない水中の戦いでは実力が出し切れずにいた。かく言うクロムも水中での動きは困難に思っていたから、バティン迷宮の攻略はこれまでの迷宮よりも難しいと密かに思い始めていたところだった。

 結局十八層から先に行く前に、十六層あたりで力を蓄える方針に切り替えた。その途中で棘を飛ばしてくる魔獣が不意に現れて、近くにいたオームとピリアを襲った。ピリアを庇ってオームは大怪我を負ってしまい、神殿の治療院に送られた。

 オームを抜いた七人で再度挑んでみたが、後ろからオームの指示と補助が受けられなくなったことで、水中という慣れない場所での戦いは急に連携が取れなくなってしまった。ガントとヴェイロンとクロムで会議をしたところ、バティン迷宮の探索はオームの回復を待つことになった。


「悪い、クロム。しばらく待ってくれ。」

「ああ。」

「水中で戦う練習くらいなら付き合ってやれるが…ここで一度解散か。」


 しばらく探索は中止するという結論を出した後、ヴェイロンがガントに重々しくパーティの合併の話を伝えた。ヴェイロン曰く三人で役割を分担しての探索に限界を感じていたらしく、今回の共同探索で深層に挑むには三人では無理だと結論付けたらしい。旧知だという〈蒼天の翡翠〉なら背を預けられるとヴェイロンは熱弁していた。クロムも良ければどうかと誘われもしたが、仲間としては頼もしくとも彼らと常に一緒にいるつもりはないため断った。

 ヴェイロンは残念そうにしたが、頭を少し掻いて気が向いたら頼むと言った。探索者は益にならなければすっぱりと諦める潔さを持つ者が多い。彼らもその類だった。

 後日、〈蒼天の翡翠〉と〈暮の琥珀〉が合併したという話題は普段噂など気にしないクロムの耳にも入ってきた。


 それから数日は、迷宮の中層を探索しながらたまにランカの護衛をする日々を送っていた。その日は珍しくランカが町中に出たいと言い出し、クロムを引き連れて町へと降りた。ランカはいつものように市民たちと楽し気に話しては土産を持たされ、変わらず人々から親しまれているようだった。最初の頃こそ町民たちを警戒し、警戒されていたクロムだったが、少しは打ち解けたのか、それとも使徒の護衛だと知られたのか町民たちからはランカのついでのように食べ物を渡されるようになっていた。

 そして新たな〈盤割の鎚〉の報せが入り、連中を追っていたボスポラスから進捗を聞かされた。なんでも都市部には〈盤割の鎚〉らしい者たちは見つからなかったらしい。同時に魔道具に詳しい探索者を多く雇ったことで、連中が残していったという〈疑心サスペクト〉の魔術が刻まれているという道具を大量に回収し、破壊したと語っていた。


「ふうん、じゃあそのなんとかいう連中はいなくなったってことか。」

「ええ。周辺の村も少しずつ調べている途中ですが、今のところ拠点らしい場所はなさそうです。

 それと…。」


 神殿長アゼルと神殿騎士レインは、結局失踪したまま見つけることができなかった。アゼルたちが踏み入った〈盤割の鎚〉の拠点を改めて詳しく調べたところ、物陰からアゼルの持っていた護符が血で染まった状態で発見された。

 状況と護符から、彼等は〈盤割の鎚〉に捕まり〈召喚〉の贄にされたと結論付けられた。調査結果を聞いたシュフラットは激怒して、抱えていた百五十名の兵を動員して〈盤割の鎚〉の炙り出しに協力した。

 政敵同士だったマーレイア家とパキラ領主家が協力したことで、他の小貴族や有力者も事の重大さを察して様々な支援や協力を申し出たことで、この短い時間でここまで済ませることができたという。

 神殿騎士ラッツのその後についても聞いた。失意のまま神殿騎士を辞したところを、マーレイア家に拾われて奉公を始めた。シュフラットと同じくして〈盤割の鎚〉を追っているようだ。


「そうか。アゼルは悪い奴ではなさそうだったから、残念だったな。」

「ええ、本当に。」


 少しの間しんみりとしたtが、別の問題も起きてきたようだ。

 まだ冬の最中のため雪が降り続けているのだが、今年は例年よりも多く雪が降っているという。そのせいで寒さも一際強く、例年よりも貯蓄の薪を多く放出しているため木材は急激に減っていた。

 晴れ間を見て何とか雪を片付けているものの、次々に積もるため魔獣が暴れた跡も雪に隠れて未だ残っていた。襤褸小屋の一つが雪の重みで潰れたと住民からの報告もあり、雪をこまめに下ろしたり、丈夫でない建物には近づかないよう呼びかけるのが精いっぱいのようだ。

 建材、補強、日々の薪、船の補修と木材の用途は多く、探索者や樵に頼んでいるのだが、木材の補充が追いつかない。雪解けが始まってすぐに復興が開始できるようにしたいところなのだが、建材に使う木材も足りなければ、煉瓦職人に渡す分の薪も足りなくなりそうだという。そのことで彼らは頭を痛めていた。


「…そんなわけで手が足りないんですよ。樵に依頼は続けているものの、熊を見たという話が広がって受ける奴は一気に減ってしまいました。

 また雪も降ってきたから、切りに行ってくれる者は少ない。悪いことは続くものですね。」

「ふうん。俺が行こうか?」

「一人でですか?いや、駄目です。周辺の林や山から切り出す木は樵たちが管理しているので、勝手に切られては別の問題になってしまうのです。」

「そうか。熊を討伐すればいいのか?」

「…まあそうですね。

 よし、これから探索者協会に依頼を出します。もしよければクロムさんも参加してください。」

「ああ。」


 ボスポラスは一筆書いて、遣いの青年に探索者協会で依頼するように言って渡した。クロムもやることが無いからと着いて行くことにした。探索者協会へと赴いてみると、久しぶりの大きな依頼が舞い込んだらしく随分と盛り上がりを見せていた。


「なんでしょうか?」

「わからん。」


 近くに〈遠洋の灯〉のアーノルドたちがいたので聞いてみれば、何でもシュフラット・マーレイアの名で人探しの依頼が出されたようだ。捜索対象は〈盤割の鎚〉の構成員、あるいは四角形に亀裂の様な模様の入った印の入ったものを持っている者を連れてくるように言っているようだった。驚いたことに、一人頭の報酬は金貨十五枚、目撃証言でも金貨二枚。〈疑心〉の魔術が細工された道具でも銀貨一枚である。

 遣いの青年によれば、あの印は〈盤割の鎚〉の構成員が持つ印だそうだ。


「まだ探しているのか。町中にはもういないんじゃなかったか?」

「はい。しかし、すべて確かめたわけではありませんし、マーレイア当主様の心情を思えば領主様も彼らが主導で進めたほうが良いと思ったのでしょう。資金の幾らかは領主様も出していますから。」

「だが、あんなに金を出すと言うと嘘を吐く奴もいるんじゃないか?」

「はい。しかし、マーレイア家は〈ラコンティンフィオの業鏡〉という真実を暴く迷宮品を所持しています。今の当主様の前で嘘を吐いたらどうなることやら…。」

「ラコン…?」

「噂と秘密暴きの神の御名です。神代に罪を犯したか裁きに掛けられる人間が出てきたとき、ラコンティンフィオはその鏡で真偽を照らしたといいます。」

「ふうん。騙されないための道具なのか。」

「おおよそ、そう思っていただいて構いません。」


 遣いの言い方に引っかかりはしたが、その場では興味もなかったし深く聞くことはなかった。その後無事に熊の討伐を依頼したところ、依頼はすぐに受諾された。参加したのは〈蒼天の翡翠〉と〈遠洋の灯〉だった。怪我をしていたオームは無事復帰し、今回は復帰戦ということだった。

 遣いは集まった探索者たちがやや少ないと思っていたようだったが、二級探索者が二組もいることになると伝えれば、この者たちが頼もしい面子であると理解したようだった。

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