表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
4.再開
82/166

75.

 ラキオから当初クロムが欲しがっていた情報―――ハイラルやグラム、神殿についての話を聞いた。最も欲しかったグラムに関しては以前に教えられた以上の情報がなく、ハイラルについて話されはしたが、クロムにとってはどうでもよかった。

 グラムを拾ってきたという司教エレクについても聞いてみた。

 エレクは帝国西部の出で、特徴のない小さな港町ミンレイの出だという。ここでも海神サーラ、嵐神キシニーの信仰が盛んなようで、エレクはミンレイの神殿に奉じてすぐにキシニーに信仰を奉げた。これが十五の時である。仕事ぶりは人柄同様に真面目で誠実、良い司教になると周りからも言われており、三十になった年に、当時の神殿長の推薦で本山へ向かうことが決まった。

 エレクが変わり始めたのはそれからだった。当初は神殿騎士もつけず修行と務めに精を出し、たまの休みは古い書庫を漁っていた。そんな生活を一年ほどしてから、徐々に顔に影が差し始めた。

 彼に何があったかはわからないが、清廉だったエレクに徐々に不明な点が増え始めて、今では随分と尾鰭のついた黒い噂を幾つも持つようになった。ただし、すべての噂はエレク本人から否定されていた。

 或る者曰く、身寄りのない子供を集めて魔術の実験をしている。ある寒村が魔獣の襲撃で全滅する直前にエレクが訪れていた。また或る者曰く、神殿の務めが以前より疎かになったのは神殿を信じられなくなっているからではないか。神殿騎士を付けないのは他者の目があると秘密を隠せないからではないか。いずれの噂も、神殿、本人とも否定しているため、ただのやっかみのようだった。


「エレクはこの冬至を以て勤めを辞して、本山を離れたようです。現在は故郷へと帰ったという話がありました。恐らく、今頃はミンレイで悠々自適といったところでしょうね。」

「ふうん。ミンレイは何処にあるんだ?」

「南部の…バティンポリスから海岸沿いを南へ六日も行けば付きますよ。少し入り組んだり、大きな川が二つあったりして、天気が悪いと足止めを食らいます。」

「ふうん。」


 ラキオは今話した内容がクロムにとって大した内容でない事に気付いたのか、途中からすっかり恐縮しきっていた。クロムもこれ以上何を聞けばいいかもわからず、礼を言ってその場を後にした。

 書斎に戻ると、待っていたかのようにボスポラスが書面を差し出した。

 書面には先ほどの依頼の内容が書かれており、話をしたときの内容と相違が無かった。三つ目の依頼については、もし手に入れた場合に売る気があるのなら、となっていたが、内容としてはその通りだった。更に読み進めれば、宿と飯は依頼者側で用意し、それとは別に日当で銀貨四枚が支払われる。春節までランカを無事に守ることができたら追加報酬が出るとあり、思わずこんなに貰えるのかと聞き返した。ドレークたちは笑って頷いた。


「名を記していただければ、正式な書類になります。」


 クロムは少しの間悩んでから、考えると言って保留とした。

 一晩の間にゆっくりと考えたが、結局その翌日に契約書に名を書いて契約を結んだ。これで春節まではランカを守りつつ、迷宮に潜る日々が始まるのだ。

 このときの心配はクロムの正体が神殿騎士グラムで、神殿から追われていたらしい身だということを悟られるかどうかだったが、幸か不幸か神殿も現在は混乱しておりそれどころではないらしい。冬は人の出入りが難しいということは、帝都からの情報もしばらくは滞る。クロムが神殿騎士ハイラルを殺したことも、流れてこないだろうと考え直していた。


「色好い返事がもらえてよかった。これで迷宮に潜られますか?」

「いや、まずは探索者協会で仲間を探してみようと思う。サレオス以外は一人じゃ無理だ。」

「ふむ…深層に挑戦する者たちは、大抵既に先約があると聞きます。伯爵家の伝手で集めてみますか?」


 クロムは少しだけ考えたが、無理だと断った。大抵の探索者は金で雇えるが、命を懸けるような時は権力をちらつかせても簡単には首を縦に振らないだろう。仲間を探すのは深層に潜るにつれて慎重になるものだと、シャデアや帝都での経験で知っていた。

 バティンポリスには〈白蜈蚣〉の名は届いていないようだった。実力者と互いに力を測ることもできなければ、クロムも逃げている身であるからほとぼりが冷めるまでは〈白蜈蚣〉の名を出すつもりもなかったから、仲間探しは難航すると思われた。しかし募集をかけてみれば数日で幾つかの探索者パーティと共同探索を持ち掛けられた。殆どは中層の探索者だったが、そのうちの二組のパーティはクロムの思う深層の探索者たちだった。

 職員に紹介された二組の探索者たちのうち、片方のパーティの男がクロムの顔を見るなり嬉しそうに話しかけてきた。


「この前は助かったよ。ありがとう」

「前?」

「あの魔獣のとき、あんたが走り込んできてくれただろう?あれが無かったら、俺も潰されてたよ。」


 覚えのない事に面食らったが、ガントと名乗った男は話を聞けば黄金色の魔獣を引き付けていた男だった。顔こそ憶えていなかったが、確かに戦士らしい男が魔獣の攻撃を器用に避けながらその場に留まらせていたことを思い出した。


「ああ、あの時の。こちらこそ、あんたが留まってくれなかったら魔獣に追いつけなかった。もっとも、その時の攻撃は弾かれてしまったから、礼は言わないでくれ。」

「はは、謙虚だな、あんた。」


 ガントの所属するパーティは〈蒼天の翡翠〉という四人組のパーティで、もう一方は〈薄闇の水晶〉という三人組のパーティだった。どちらも二級探索者パーティで、現在この二組でバティン迷宮の共同探索を計画しているのだという話だった。前衛の数も少ないため、クロムの募集は渡りに船だったという。

 〈蒼天の翡翠〉は司令塔の術士オーム、盾戦士ルーカスを軸にガントとアランが武器を適したものに変えて立ち回る、対応能力に優れたパーティだった。聞けば、武器は剣、弓、盾、槍、鎚、多少なら魔術も使えるという。

 〈薄闇の水晶〉はその逆で、剣士ヴェイロンと術士ポーラ、術士ピリアがそれぞれに役割を持つパーティだ。ヴェイロンは機動力に優れ敵を引き付け、ポーラが補助し、ピリアが掃討する戦い方が基本戦法としている。

 対照的なパーティだと思ったが、この二組は以前から何度も一緒に探索をしていて案外気の合う仲だったようだ。


「前衛が入ってくれればサレオスとヴィネが一気に楽になるな。」

「うん?バティン迷宮に潜るんじゃないのか?」

「いや、まだ人数分の装備が揃ってないんだ。だから、その二つの迷宮を攻略しながらじゃないと進めないのさ。」

「ああ、成程。じゃあ、俺の分も探してもらってもいいか。」

「おうとも。とはいえクロムの分を考えるなら、〈鰭の足環〉があと一つと〈空魚の首飾り〉が二つだけなんだがな。」

「それだけでいいのか?」

「ああ。」

「俺が用意する。明日持ってくればいいか?」


 ドレークから〈鰭の足環〉と〈空魚の首飾り〉を借り、もう一つの〈空魚の首飾り〉は自分が持っている分を使えばいいと思っていた。だが、幾人かは何かを勘違いしたのか一人で迷宮に潜るのだと思ったらしく無茶だと止めてきた。借りられる伝手があると伝えれば驚いた者もいれば安堵した者もいた。

 その場では解散し、クロムは領主館へと戻ると、早速ザンジバルに〈鰭の足環〉〈空魚の首飾り〉を借りられないか尋ねた。ザンジバルは気前よく了承し、必要な数を貸してくれた。

 海神祭の最後、神殿騎士ラッツに〈鰭の足環〉を貸したことを思い出した。そのことを聞けば、ラッツがクロムから借りたからと言い金一封と〈鰭の足環〉を持ってきたという。礼は受け取ったが金一封は断ったと聞いて、二人に少しの好感を抱くとともに律義な奴らだとクロムは思った。

 翌日に〈蒼天の翡翠〉たちに借りてきたことを伝えれば、もしや領主と繋がりがあるのかと詰められた。クロムとしては隠すほどのことはないと思い、領主には世話になっていると答えた。以前領主からの依頼をほとんど独占していた〈水絡みの蔦〉とのつながりを問われもしたが、クロムは否定した。

 試しにバティン迷宮の十層に潜ってみれば、彼らとの連携は取りやすかった。役割が細かく決まっておりクロムの役割は遊撃だった。〈蒼天の翡翠〉のガントとアランが後衛の防御を補ってくれたことでクロムの攻撃力は遺憾なく発揮できたと言っていい。

 水中になる十一層以降は聞いていた通り、〈鰭の足環〉〈空魚の首飾り〉のふたつの迷宮品が大変役立った。クロムが未攻略だった十一層から十三層まで一気に攻略し、三日かけて多腕蛸ブラコポルポというらしい多腕の怪物や、恐ろしい速度で突っ込んでくる怪魚を退けながら十五層まで攻略した。探索者協会で得た素材を売れば、海中層の素材は多くないようで色を付けられて高値で売れた。山分けにしても一人当たりの取り分は金貨四枚分で、クロム一人からすれば随分と良い報酬だった。十五層を攻略して、一度休息を入れようと言った提案に全員が賛成した。探索者としては恒例らしい、酒場での大騒ぎにクロムも突き合わされた。


「しかし十五層は結構手ごわい魔獣だったわね。」

「ああ。こりゃ深層も近いかもな。」

「急に強くなったし、そうかもしれない。でも、水の中の動きはもっと練習したいね。」

「俺もそう思うぞ。昔からもう少し行けるは地獄へ向かうというし。」

「始めて聞いたぜ、そんな言葉。」


 楽しそうに酒を飲んで離す彼らに、酒を断りつつもクロムは雰囲気が良いことを感じ取っていた。クロムは酒は飲まなかったが飯は沢山食べていたから、あれこれと飯を進められた。下戸であるクロムとしてはありがたいことだったが、誰も彼もがクロムに食わせようとしたのは少し辟易した。なおこの時沢山食べたのは生牡蠣の酢和えだった。一番多く食べたクロムは大丈夫だったのだが、ルーカスとヴェイロンが中ってしまったらしく四日は休息となった。

 休息の間にクロムはランカと神殿へ赴いたり、〈遠洋の灯〉と会って手合わせをしていた。

 〈遠洋の灯〉たちは地力を上げていて、アーノルドは火炎を振りまく魔道具を使うようになっていた。ただし〈白輝蜈蚣の外套〉を纏ったクロムには通用せず、以前と変わらず簡単に倒されていた。

 クロムとしては多少攻撃手段が増えて強くなったように思っていたが、傍で見ていた〈暮れの琥珀〉からは違ったらしく助言もとい駄目だしを貰っていた。後で全員で肩を落としていたが、上級の探索者からしたら〈遠洋の灯〉はまだ甘っちょろいらしい。

 町中を歩いてみればたまにヘルリックとも出会ったが、ブラインを連れて忙しそうにしていた。クロムは話しかけることもできず、商人たちを見送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ