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神の盤上と彷徨者  作者: 咸深
2.帝都の喧騒
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39.

 部屋で少し待っていると、知った気配が六つ近づいてきた。懐かしく頼もしい気配だ。他の二人の顔を見ると、ラーダはどこか緊張しているようで、ディンに至っては汗が滝のように吹き出ていた。

 扉が勢いよく開かれた。先頭の男は部屋に入るなり、目を丸めて驚いていた。

 後ろから他の五人が男を突き飛ばしながら入室した。先頭の男、ガハラほど驚いてはいなかったが、口々に声をかけてきた。


「ク、クロム、やっぱり依頼主がお前だったのかい!」

「久しぶり。元気?」

「随分羽振りが良くなったなあ。やるじゃないか。」

「ああ。」

「…し、知り合いなのかい?」

「ああ。」


 ガハラとレラは驚いた顔でクロムを見ていた。アリシアとミーアとジェイドは再会を喜んでいた。パトリオットだけは兜で表情はわからなかったが、こちらも驚いていたようだった。


「ああ。索敵、戦闘。それに魔術。これを全部できるお前たちが来てくれてよかった。」

「ヘヘッ、俺たちが来たからには大船に乗った気でいな!」

「ガハラ、その前にその〈悪夢〉とやらの詳しい情報を貰うところからだろ。教えてくれよ。」


 アリシアの言葉にガハラが目を逸らす。相変わらずのやり取りに、彼らが変わっていないことに安堵した。


「ああ。ディン、頼む。」

「あひゃ…ひゃい。」


 〈深淵の愚者〉たちがディンから〈霊峰山脈の悪夢〉の予想と詳細を聞いている間、ガハラだけはクロムと一緒に修練場にいた。

 ラーダはクロムたちについてきて、修練場の壁にもたれかかっていた。クロムとガハラの実力を確かめたい様子だった。


「ガハラは情報を聞かなくていいのか?仮にもまとめ役だろう?」

「名目上はな。だが俺よりアリシアがまとめているようなもんだし、情報なら後でアリシアから簡単に教えてもらうさ。

 そんなことより、ここでお前と戦ってみるほうが良いだろ。」

 ガハラはそういって剣を抜いた。クロムの見覚えのない剣だった。剣はやや細身で、切っ先が鋭い。レイピア近い形状だ。

「剣を変えたのか?」

「いや、シャデアで買ったのは今も使ってはいる。これはカークリノーラスで手に入れたから、試してみたいのさ。」

 クロムは数打ちの剣を抜いて中段に構え、ガハラはだらりと力を抜いて構えた。

 ほんのわずかの時間の後、ガハラが突きを放った。高速の突きを〈滝壺〉で逸らし、〈薄雲〉を打つ。〈薄雲〉はわざと相手に当てない技だが、ガウスの戦い方は紙一重で攻撃を躱して斬るという戦い方をしているからか、技の違和感を覚えたようだ。


「お?当てる気が無いのか?」

「お前を斬る必要もないだろう?」

「まあなあ。さあ、次だ次!」


 ガハラの右からの横薙ぎを受け止めて、〈浅霧〉で外した。〈吹雪〉を放とうとした次の瞬間、左腕を打ち据えられた。


「なにっ」


 とっさに〈波涛〉の要領で距離を取り、下段に構え直す。ガハラの剣は振られていなかったはずだったが、なぜ打たれたのかわからなかった。


「フッフッフ、これがこの〈追撃の細剣〉の効果、〈追撃〉よ。十分の一っていう微妙な確率だが。」

「十回振れば一回多く攻撃を繰り出せるのか。」

「ああ。突きで出たら致命の一撃になるぜ。ところでなんだ、さっきの当てる気のない攻撃といい、戦い方が変わったか?」


 ガハラが細剣を数度振ると、確かに振った数より多く風切り音が聞こえた。


「ああ、そうだな。少し変わったかな。」

「少し?いや、相当変わったと思うぞ。なんだ、オセに挑んでいた時は大味の力押しってぇ感じだったが、今はちょっとやりづれえよ。この剣が無ければ勝負になってねえかも。」

「そんなことはないだろう、お前は目が良いからな。」

「ウーン、そうかな?」


 その後何度か剣を合わせたが、決着のつかないまま時間が過ぎた。

 ガハラの攻撃を防いだとき、見えない攻撃は確かに十回に一回程度飛んできた。また、攻撃してきた箇所とは異なる場所に攻撃が飛んでくる時もあれば、二度剣に衝撃がきたこともあった。

 結局汗だくになるまで続け、話が終わったアリシアが探しに来て、決着のつかないまま終了した。


「クロム、このバカに付き合わなくていいからね。」

「そうか?」

「そうよ。ただ戦いたいだけなんだから。さ、アンタはこっちだよ。」

「ああ、待ってくれ。クロム!お前はやっぱり強いぞ!俺達と一緒に来ないか!」

「すまん。俺の都合だが、お前たちと一緒には行けん。」

「どうして……。」


 そのままアリシアにガハラが回収されていった。パトリオットはクロムに視線を寄越したように思えたが、すぐに逸らされてアリシアに着いて行った。


「クロム。あんた、けっこう強いんだね。」


 戦いを眺めていたラーダが声をかけてきた。表情は出会ったときとは変わらないが、声色は少し機嫌が良さそうだった。


「さあな。」

「あんたが今度の味方で良かったと思ったよ。」

「そうか。」

「つれないね。褒められたなら素直に喜ぶもんだよ。」


 その後はジェイドやミーアたちと近況を報告し合った。ディンとラーダは気を利かせてか、ガハラたちのほうへと行った。

 シャデアで別れた後、〈深淵の愚者〉は情報屋から教えてもらった通り、迷宮を巡って帝都まで来たという。彼らの軌跡で、情報屋の仕入れる情報の正確さを思い知っていた。


「ほー、じゃあクロムはあの後からこの辺の迷宮を大体回ったってことか。」

「ああ。ザガンだけはまだだ。聞く限りだと光を確保するための迷宮品か魔術が必要らしい。俺だけじゃ挑めないのさ。」

「暗いの? じゃあ、〈ルーモ〉がいるね。ずっと点けてられると思う。」

「ふうん。今は希少種が出たとかで、探索者の多くはそっちに行ってるらしいが。」

「俺はそっちのほうに興味はあるが…ガハラがこっちって言って聞かなかったからなあ。」

「うん?ガハラの独断だったのか?」

「ああ。あいつ、この依頼を見てすぐになんか面白そうだとか言って受けちまったんだよ。」

「多分ね、一番最初に見つけただけ。…でも、それがクロムにとって良いことで本当に良かった。」

「ああ、ミーアの言う通りだな。どうせガハラの感覚に任せるなら楽しいほうが良いってもんだ。」

「アア。クロム、俺ともやり合わネェか?」

「断る。お前らの強さは俺よりも上だと思っている。今日見てもそう思ったさ。

 …どうせ、ガハラみたいに何かいい迷宮品なんか手に入れているんだろう?」

「…マア、否定はしねえ。オマエと別れた後、いろんな迷宮品が手に入ったからなあ。そういう意味ではお前と一緒に潜っていたころとは違う。」

「だろうな。俺はあまり変わらん。依頼の募集にかなり金を使ったし、マルバス迷宮で手に入れた丸薬型の迷宮品も大分売り払ったからな。」

「ほう。では潜れるうちに丸薬を調達しておくべきだな。」

「ああ。明日行くつもりだ。」

「あそこは三層か四層じゃないと効果の高いものは出ないだろう。

 我等も同行しよう。」


 マルバス迷宮は四層までが普通の階層だ。三層ならば戦えるが、四層はクロム一人ではやや厳しい。しかし四層であればより効果の高い迷宮品が手に入るので、〈深淵の愚者〉の申し出はありがたかった。


「すぐに行く?」

「いや、準備があるから四日後かな。それから、今日はこの後でもう一か所行くところがある。」

「何かあるのか?」

「ああ。…オルドヴスト家の騎士隊に、同行者が増えたことを言わないといかん。」


 その言葉にパトリオットとジェイドが驚いた声を出した。レラとミーアは何の反応もなかった。


「もしやオルドヴスト公爵…いや、今は伯爵家か?」

「公爵か伯爵かどうかは知らんが、貴族家だ。」

「クロム、お前どうやってあそこと渡りつけたんだよ…?」

「騎士団長に襲い掛かられて引き分けたからかな。」

「引き…ええ?いや、どんな状況なんだ?」

「もしやライオネル…ライオネル・フエゴか?あいつと引き分けたのか?」

「ああ。知っているのか?」

「…昔、帝国樹立前の戦争で、何度か刃を交えた。力任せの剣に派手な魔術を乗せていたのをよく覚えている。」


 それは全く知らないライオネルだった。少なくとも、派手な魔術というものは使っていなかったから、別人かとちらりと思った。しかし姓も同じというからには同一人物だろう。


「いや、あいつは技で戦う奴だったぞ。俺もライオネルから戦い方を叩きこまれたんだ。」


 パトリオットの知る戦場でのライオネルは、どうやらクロムやトーランに近い戦い方をしていたらしい。それはもう激しい戦いぶりで、特にその振り下ろしをまともに受け止められるものがいないほどだったといい、〈轟雷〉などと呼ばれていたらしい。


「…お前もそうだが、人は変わるものなのだな。」


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