第八話 地下室は宝の山
「地下室に閉じ込められているけど、僕にはたくさんの宝物があるんだ。素晴らしい絵画、美しい音色を奏でる楽器、様々な国の本、どれもティアナ王国には必要ないと言って、没収された物なんだ。」
エリーザだけではなく、マーサとアニーもウィルの話にじっと耳を傾けていた。もちろん、マーサはエリーザをしっかりと抱きしめたままだ。
「リヒテル王国とは違い、僕の国は芸術を排除して、全て、軍事力を上げるための教育だけをしているのは知っている?僕は、剣を持つよりも楽器や絵筆を持ちたかった。しかし、父上は許してはくれなかった。もしかすると、僕に武術の才能があったら、悪魔の子と言われても、地上で生活が出来たのかもしれない。でも、兄上たちと違い、僕は剣を握ることが出来なかった。剣を見るだけで、頭が割れそうな痛みがくるんだ。剣を握ると、妖精たちが大声でわめきだし、立っていられないほどの痛みになるんだ。だから剣を落とし、膝をつく僕の姿を見るたびに、父上、兄上、そして城中の人々に「役に立たない人間だ」とののしられ、また、地下室に閉じ込められる。父上が、僕を生かしているのは、全て母上を自分の元に戻すためなんだ。もしも、僕を殺してしまったら、母上は二度とティアナ王国へ帰ってこないと思っている。海外公演中に亡命をされたら困るからね。母上も、僕の事は気にかけてはいないけど、殺したいほど憎んでいるわけではないから。」
淡々と語る姿に、マーサとアニーはティアナ王国の情勢がどれほど恐ろしいのかを感じ取っていた。まだ5歳だというのに、壮絶な人生を歩んでいることが信じがたかった。
「国民には申し訳ないけど、僕は没収された芸術品に囲まれて暮らせるから、誰よりも幸せなのかもしれない。
僕がリヒテル王国の言葉を話せるのも、そのおかげ。リヒテル王国の本は、人気があって、たくさんの国民が欲しがるから、密輸が絶えないんだ。だけど、軍人がどんどん奪い取ってくるんだ。なぜ、燃やして捨てたりしないのかというと、国民に暴動をさせないためだ。国民には、ティアナ王国が、諸外国を侵略し、大きな国になるまでは、武力に力をいれるよう教育をしている。いつか、国が安定したら、芸術品を全て返却すると言っている。だから、それを信じて、男性は軍隊に入隊し、女性は軍事工場で働いている。皆、いつかのために、耐えているんだ。それを知りながら、僕は芸術を楽しんでいるから、本当は悪魔の子なのかもしれない。」
ウィルは少し得意げに話を続けた。
「外国の本は、妖精たちが言葉を教えてくれた。物には全て妖精が宿っているから。楽器も妖精が音の出し方とかを教えてくれたんだよ。」
エリーザと話すウィルの姿は先ほどとは違い、少しずつ5歳の子供らしさが見えていた。