第五話 ウィル、自分を語る
エリーザの熱意に刺激を受けたのか、ウィルは今までにない気持ちを抱いた。
音楽を真剣に学んでみたい。
ティアナ王国から出て、自分自身の人生を歩みたいという希望があふれてきたのだ。
何か夢を抱いても、周りの人たちから、すぐに打ち消されたため、夢を見ることも忘れていたのだ。
「エリーザ、僕のこと、、、、きいてくれる?」
そういうと、ウィルは少しずつ自分の事を話し始めた。
ウィルはティアナ王国の第三王子として生まれた。母親は第三王妃のニーナ様。王妃としてよりも、バレリーナとしてのニーナが世界中に知れ渡っている。父親のヘンリー王には第一王妃のヴィクトリア様、第二王妃のレオノラ様がいる。ヴィクトリア様はチェレーナ王国の王女様、レオノラ様はクラーク王国の王女様である。どちらも近隣の王家からヘンリー王へ嫁いできた。しかし、ウィルの母親は、平民出身のバレリーナである。しかし、絶世の美女である彼女の公演を観て、一目ぼれをしたヘンリー王が第三王妃として迎えたのだ。バレリーナとして世界中を飛び回ることを辞めないという条件で結婚をしたため、ニーナ様は月に1日ほどティアナ王国へ戻るだけとなった。たった1日の帰国でも、ヘンリー王が側にいるため、ウィルはほとんど母親と話すことが出来なかった。第一王子のアーサー、第二王子のジョージ、二人はいつもウィルを王子と認めず、使用人たちもウィルの事をモグラと呼んで馬鹿にしていた。
だれからも相手にされず、地下室から出ずに暮らしている。
エリーザが思わず口をはさんだ。
「地下室って?どういうこと?そんな場所にだれが住まわせたの?」
ウィルは答えた
「お父様のヘンリー王だよ。
僕は、国の恥だと言われて、人目に付かない場所に閉じ込められたからだ。
ティアナ王国は芸術よりも武術を重んじている国なのは知っている?母上がティアナ王国にいずに、海外公演ばかりいるのも、そのため。芸術しか出来ない人は、人としての価値がないとまで言われてしまう国なんだよ。僕は剣よりも楽器を持ちたい。でも、父上はそれを許してはくれない。兄さまたちには、いつも剣の稽古では負けるし、使用人でさえも、僕を役立たずのモグラと言う。
その上、この紅い髪。
ティアナ王国では赤は血の色と言われている。赤髪の人間は不吉だと忌み嫌われるんだ。
僕の目はお父様と同じ青い色だけど、赤髪の毛は母上ゆずり。
金髪が王家の象徴だから、王族と認められなかったんだ。
そういう理由が重なり、僕は地下室から出ることを諦めたのだよ。」
エリーザは驚いて言葉が出てこない。
エリーザの家族は武術よりも、芸術を愛し、お互いを思いやり、国民からも愛されていた。だから、ウィルの生活は信じられず、恐ろしささえも感じた。
その時、エリーザに素朴な疑問が生まれた。
ウィルに質問をしたら、悲しむかもしれないが、どうしても好奇心が勝ってしまう性格のため、思わず口にしてしまった。
「ウィルは、地下室に一人っきりなのに、どうしてリヒテル王国の言葉が話せるの?」