第四話 エリーザの夢
ウィルが寂しそうにつぶやいたが、エリーザはウィルの言葉を気にも留めず、さらにリヒテル王立音楽院について語り始めた。
リヒテル王立音楽院は、代々、国王が院長となっている。そのため、国が全面サポートをして教育している。音楽院に入学できた生徒は、皆、卒業時には素晴らしい音楽家となり、世界中を飛び回る外交官として演奏活動が出来る約束がされている。
その中でも、首席奏者として選ばれたものは、国の代表者と言われるくらいの地位を得ることが出来る。
エリーザはその首席奏者になりたいという夢を持っているのだ。
「ウィル?聞いている?」
エリーザが声をかけた。
ウィルは
「聞いていたよ、、、、でも、、、僕、、、なんだか遠い先のことだから、、、、」
エリーザは答えた。
「ウィルは今、何歳なの?私は5歳よ。」
ウィルは驚いた。
こんなにしっかりした考えを持っているのに、自分と同じ5歳だということに。
ウィルはますます恥ずかしくなり、うつむいた。
顔も耳も赤くなり、まるでウィルの紅い髪の毛のようだ。
「ウィル?どうしたの?具合がわるい?顔が赤くなったわよ。
丘の上には木陰があるから少しあるく?
それとも岩陰に腰掛ける?」
ウィルは驚いた。
これまでの人生で、自分のことを心配してくれる人なんていなかったからだ。
母親でさえも、ウィルのことを気にかけていない。
いつも海外公演にでかけてしまうため、顔を合わせることも少ないからだ。
ウィルは心があたたかくなった。
「エリーザ、ありがとう。もう、、、、、大丈夫だよ。
少、、、、し、暑かったからかな?
僕はキミと同じ、5歳だよ」
エリーザはウィルの言葉を聞き、ほっと胸をなでおろした。
ウィルも思わず、暑かったとごまかしたことに気づかれず、ほっとした。
「ウィル、リヒテル王立音楽院は才能があれば、12歳からでも入学が出来るのよ!
あと7年よ。練習や勉強をしていたら、7年なんてあっという間よ。
それに、特待生になれば、学費も免除。寮にも入れてもらえるから、お金の心配もないわよ。寮のご飯は、とっても美味しいのよ。私、お姉様とお兄様が寮にいるから、時々食べに行けるの。それに、寮は練習室も、まるでコンサートホールのような響きだから、何時間でも音楽を奏でていられるくらい気持ちが良い空間なのよ。
音楽家にとっては夢のような場所なのよ。
早く、12歳になって、入学がしたいわ~
私、絶対に首席で合格するわよ!
そのために、毎日、音楽院の先生とのレッスンや練習を頑張っているのよ。」
ウィルは、キラキラと輝く美しい髪を風になびかせながら、夢を語るエリーザに見とれていた。
「エリーザなら、首席合格出来るね。ぼくも、、、音楽を学んでみたいな、、、、でも、無理、、、だと思う、、、、」
エリーザは大人びた口調でウィルに語り掛けた。
「ウィル、夢は自分を信じないと叶わないわよ!弱気な人には、神様がチャンスの紐をたらしてくれないのよ。チャンスの紐には鐘が結びついているのよ。その鐘がなれば、自分の夢が叶うと言われているのよ。だから、チャンスの紐は目の前に現れたら、すぐにつかみ取らないといけないの。
そのためには、いつでも、自分を信じて、神様がチャンスの紐を垂らしてくれるようにしないといけないのよ。
毎日の練習は、チャンスの紐をつかむためよ。練習や努力は自分の自信へつながるわよ。
ウィルも夢をつかみたいなら、まずは、自分を信じないとダメよ!」
エリーザに叱咤され、ウィルは思わず背筋を伸ばした。
そうすることで、少しでも自信が持てるように思えたからだ。