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第三十七話 ウィル 留学へ出発

ティアナ王国は幾度と続いた戦争で働き手が減ったため、平野は荒れ地になっていた。父王ヘンリーが少しずつではあるが、緑を戻せるように田畑の整備に力を入れようとおもっていても、毒母と呼ばれるエリザベス元王妃が国民の意識を戦へ向けるようにしていた。エリザベスは、息子ヘンリーがチェレーナとクラークから停戦協定として嫁を娶ったことに未だ腹をたてていたのであった。

エリザベスは停戦ではなく、諸外国全てを自分の物にしたいという野望を捨てきれずにいた。

父王ヘンリーは、母、エリザベスがそのような気持ちを抱いているとは夢にも思っていなかった。あと数年後に、まさかの事態になるとは、この時、微塵にも思っていなかった。

ティアナ王国では、四季を感じられなくなっていたが、リヒテル王国では夏真っ盛りであった。夜風にゆれる甘く香るくちなしの花々が咲き乱れ、暑い日差しを受けて、真っ赤に熟したトマトの実、爽やかに香るレモンの木、街中ではカフェやバールで音楽を楽しみながら、短い夏を満喫する人々であふれていた。

ウィルは、真夏の夜に香るジャスミンの風を感じたいと思っていた。

勿忘草の丘で見た、美しい青い雪に包まれたエリーザの姿も忘れられない春の夜であったが、白い花が咲き乱れ、甘く耽美に香るジャスミンの花々に囲まれたエリーザは、神々しく見え、夏の女神としてたたずむのであろうと思いをはせていた。

あともう少しでリヒテル王国へ出発だ。

ウィルは交換留学生としてリヒテル音楽院へ入るが、入学試験の結果によっては、音楽学だけではなく、リヒテル王立大学で政治学を学ぶことも出来る資格が得られる。芸術を学ぶだけでは、国を変えることが出来ないと思い、リヒテル王立大学で学べるように父王ヘンリーにお願いもした。ウィルは、芸術だけではなく、勉学にも才能があり、家庭教師たちも驚きを隠せなかった。これまで、存在すら認めていなかった第三皇子が一番優秀であったのだ。

しかし、このことは祖母、エリザベスの逆鱗に触れた。一番嫌いなニーナ妃の息子が誰よりも優秀だとは信じたくなかったのだ。父王ヘンリーも、そのことに気づき、エリザベスに阻害される前に留学へ出発させようと決心した。

秋にリヒテル王国へ行く予定が早まり、夏へ出発となった。

エリーザは喜んでくれるのだろうか?

ウィルはエリーザからもらった勿忘草柄のリボンを握りしめた。


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