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第三十二話 エリーザは勿忘草の丘で待つ

ウィルが父王、ヘンリー王と心を通わせ、曽祖父ウィリアム王のようになりたいと決意を固めた。ウィルはリヒテル王国へ留学するまでに、さらに知識を得ようと図書館へ通っていた。もちろん、合気道や基礎トレーニングも続けていた。次にエリーザへ会うときまでに、もっと立派な姿に変わりたいと思っていたからだ。青月祭でエリーザに初めて会った時の自分は、か弱く、情けない姿だった。ウィルにとって、泣きたくなるくらい悲しい過去でもあった。

ウィルの留学が決定したと父王フリードリヒ王から朝食の時、教えてもらった時は、エリーザは嬉しくて、思わずフルーツジュースのグラスを倒してしまいそうだった。

朝食後、日課となるピアノや声楽のレッスンを終えると、本日は夕方の音楽理論を学ぶまで休憩時間となりますと、侍女のアニーに言われた。

エリーザは、大好きなサンドウィッチを持って、ピクニックへ行きたいとマーサにお願いをした。

アニーとマーサを引き連れて、お気に入りの場所へ向かった。

エリーザは勿忘草の丘に立っていた。

ウィルと出会った、勿忘草の丘。

あれから何カ月たったのだろうか?

まだ2カ月もたっていないにも関わらず、エリーザは10年以上も待っているように思えた。

青月祭でニーナ様が演じた少女のように、エリーザもウィルがこの丘を登ってくるのを待っていた。

二人で見た、青い雪を思い出しながら、丘の上で風を感じていた。

風にのせて、エリーザの歌声をリヒテル王国からティアナ王国へ連れて行って欲しいと願っていた。

そして、ウィルの耳へ届いてほしいと思いながら歌った。


『勿忘草の花が散り春は過ぎ去った。

ジャスミンの香りがただよう夜風が優しい夏がきた。

遠い国にいるあなたのもとへ、

甘い香りと優しい心を

きらめく星にちりばめて

あなたの元へ贈るわ』


エリーザはティアナ王国の方へ向かって歌い続けた。


「ウィル、あなたと出会った勿忘草の丘は、もう、勿忘草の花は散ってしまったわよ。

今は、新緑と夏の花が咲き始めているわ。

あなたがリヒテル王国へ来る頃は秋になっているのね。

早く私に会いに来てね」


そうつぶやくと、マーサとアニーのもとへ駆けて行き、

夕方の音楽理論の授業に間に合わなくなるわよ。

急ぎましょう!と言って、まるで白い鳥のように丘を駆け下りて行った。


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