第二十八話 エリーザ、父フリードリヒ王に懇願する~執務室にて
エリーザは緊張した面持ちで執務室のドアをノックした。
「おはいりなさい」
フリードリヒ王は良く響くバリトンの優しい声でエリーザを呼んだ。
「お父様、いえ、フリードリヒ王、お時間を作って下さり、感謝いたします。
私、エリーザは先日の青月祭より、考えていたことがあります。」
エリーザはマーサが選んでくれた美しいドレスのおかげで、緊張しつつも、自信を抱き、しっかりと自分の意見を伝え始めた。
「青月祭では、ティアナ王国の第三王妃、ニーナ様のバレエに感銘を受けました。我が国の音楽院バレエ学科の先生方には、あのような素晴らしい演技を指導できる方はいらっしゃらないと思いました。もちろん、音楽院の先生方も素晴らしいです。しかし、バレエに関しては、まだ世界レベルに達していないと思いました。音楽科は世界一を誇る実績がありますから、是非、バレエ学科も世界に羽ばたける生徒を増やしたいと思いました。
青月祭の時、ニーナ様のご子息、第三皇子、ウィル様とお話をいたしました。ウィル様は、特別な教育を受けていないにも関わらず、音楽の才能があり、感銘を受けました。私が勿忘草の丘で歌っていた歌声を、騒がしいお祭りの中でも聴きつけて、街の中から丘の上まで来てくれました。
また、彼は、どんな楽器でも演奏が出来るようです。楽器を見ればわかるとのことでした。
是非、ウィル様を音楽院に入学していただき、音楽院の生徒に刺激を与えてもらいたいと思いました。そして、ニーナ様もバレエ特別講師としてお呼びすることは出来ませんか?
ウィル様は、特待生の資格がありません。コンクール入賞等の記録もございません。
リヒテル王国には交換留学制度があります。
従兄のブルーナはウィル様と同じ年齢です。
また、ブルーナは、剣術を学び、立派な騎士になりたいと言っております。
王族らしく趣味としての剣術ではなく、ティアナ王国の将軍と手合わせをしたいと願うくらいです。
是非、ウィル様はリヒテル王国で芸術を学び、ブルーナはティアナ王国の武術を学ぶという交換留学をご提案していただけないでしょうか?」
エリーザはフリードリヒ王へ懇願した。
一気に話したため、青いドレスと反対に、顔は赤らんでいた。
フリードリヒ王はエリーザに尋ねた。
「エリーザは、ウィル皇子の才能を見抜いたのだね。
決して、お友達だからという理由では無いのだね?」
エリーザはうつむいてしまった。
なぜなら、ウィルの才能は信じているが、やはり、早く会いたいからという理由で提案したのは間違いないからだ。
「お父様、ごめんなさい。
ウィルの才能は素晴らしいです。
でも、お友達として、また会いたいという気持ちもあります。
ですから、お父様、本当にごめんなさい。
私の我儘です。
ウィルには頼まれていません。
全て私の独断です。
だから、ウィルを怒らないでください。
ウィルの才能も疑わないでください。」
エリーザは涙をこらえきれず、執務室の赤い絨毯に涙を落とし始めた。
涙のシミがどんどん広がるのを見続け、顔を上げられなくなってしまった。
「エリーザ、泣かないで。
父は、君の才能を見抜く力を信じているよ。
だから、意地悪な質問をして申し訳なかった。
交換留学制度は、ティアナ王国と友好を結ぶ良い機会だと思う。
ニーナ様のバレエ公演だけでは、友好を結んだとは言い難い。
いつ、戦争をするかわからない、情勢が不安定な国だからこそ、王族同士、交流を深めておくべきだと思う。
エリーザ、良い案を思いついてくれてありがとう。
早速、ティアナ王国へ書状を送ろう。
美しいエリーザの青い目が赤くなるのを父は見たくないのだ。
笑顔を見せてくれるかな?」
父、フリードリヒ王の声を聞き、エリーザは顔を上げ、微笑んだ。
「お父様、ありがとうございます。
ウィルも、ブルーナも喜ぶはずです。」
執務室を出ると、エリーザは勿忘草の丘へ駆けていきたい衝動にかられた。
『ウィル、もうすぐ会えるわよ。
同じ学校で勉強をして、たくさんの音楽を奏でましょう。
あなたのピアノで歌えたら、最高だわ。
私も特待生の試験を受ける準備を始めるわ。
いくら、王族だと言っても、ディーバ(歌姫)と呼ばれるためには、実力を見せなくてはいけないから。』
エリーザは早速音楽室へ向かった。




