表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/45

第一話 ウィル・ティアナ第三王子 青月祭へ行く

四方を山脈に囲まれた小国、リヒテル王国は青月祭が始まり、世界中からの観光客でにぎわっていた。

春の穏やかな陽気、勿忘草が咲く、5月の満月の日に開催されるお祭りは、青い花と青い月がシンボルになっている。

また、リヒテル王国は世界中からのアーティストが学びに来る芸術の都でもある。お祭りの間は、国の至る所で音楽祭、アートマーケットが開催され、いつもは静かな市街地も夜通し音楽が鳴り響いている。


石畳の細い路地を通ると、小夜曲(セレナーデ)が聴こえてきた。2階から女性がうっとりと耳を傾けている。男性が窓の下から愛を唱えているからだ。ヴァイオリン、ビオラ、チェロの弦楽四重奏に合わせ、切なく、そして熱く恋心を歌っている。歌い終わると男性は女性にプロポーズをした。女性は幸せそうな笑みを浮かべ、髪を結っていたリボンをほどき、窓の下にいる男性へ渡した。男性は胸に付けていたブローチを女性に投げ渡した。

街中の人々が二人を祝福した。

ウィルが不思議そうに見つめていたら、屋台の店主が声をかけてきた。

「兄ちゃん、青月祭は初めてかな?それなら、このリボンとブローチを買うと良いよ。女性は青いリボンを髪や首に巻き、男性は帽子や胸にブローチを付けるのさ。男女で交換をすると、一生を添い遂げることが出来るというお守りにもなる品だ。

兄ちゃん、交換する人がいなくても、お守りになるから買って行くと良いよ。お土産としても喜ばれるよ。」

ウィルはリボンとブローチを見た。勿忘草と満月が刺繍された美しいリボン、満月の中に勿忘草が彫り込まれているブローチも素敵だった。

「おじさん、リボンとブローチをください。お母様へのお土産にしたいから」

店主は大きな手でリボンとブローチを渡してくれた。

ウィルは細い路地をさらに進む。路上でジャズやタンゴ、民謡を各々が楽しみながら演奏をしている。小さな子供たちが音楽に合わせて踊っている。

音を楽しむ姿を見ていて、ウィルも音楽を奏でたくなった。幸せな音に包まれて温かい気持ちになっていた、その時、怒鳴り声でウィルの心は凍ってしまった。

「おい、モグラ、何をしている!はぐれたら、俺たちがニーナ様に怒られるのだぞ!」

ウィルがうつむく。

怒鳴り声をあげているのは近衛兵だ。

「俺はニーナ様の護衛のはずなのに、お前が祭りを見たいというから、仕方がなくついてきたというのに!お前のような陰気な子ども、護衛なんかしなくても、誰もさらうはずがないのに、なぜニーナ様はそんな命令をしたのだ。あの美しいニーナ様に少しでも似ていたら可愛げがあるのに、まったくお前ときたら、薄汚いモグラのようだな。誰もティアナ王国第三王子だとは思わないぞ」

大きな声で罵倒し、笑い飛ばしている横で、新米の近衛兵が心配そうにささやいた。

「隊長、そんな言葉、第三王子様に向かって言って良いのですか?告げ口されたらどうするのですか?」

「心配ないさ。あいつは、母親のニーナ様にも何も言えない弱虫だからな。城の中で、あいつの味方をする人間なんか誰一人いないから、告げ口なんか出来る訳がないから安心しろ」

路地の向こうに、バルが見えた。

「おい、モグラ、俺たちはバルで休んでいるから、一人で祭りに行ってこい!20時から大聖堂でニーナ様の公演があるから、それまでに戻るのだぞ。わかったか?少しでも遅れたらただじゃおかないぞ。」

怒鳴り声と共に、近衛兵たちはバルへ消えていった。

ウィルはまた顔をあげた。

一人の方が青月祭を楽しめる。

足取りが軽くなった。

似顔絵を描いている画家、繊細な彫刻が施された蝋燭、見るもの全てがティアナ王国とは違い、生き生きしている。オペラが公園の野外ステージで演じられている。

ウィルは立ち止まった。オペラの歌声とは違う、天使の声が聴こえるのだ。

どこから聴こえてくるのか?

ウィルは声のする方へ歩きはじめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ