第十一話 二人の誓いと青い雪
ウィルの夢は「芸術を愛することが出来る国を作ること」
エリーザの夢は「リヒテル王立音楽院首席演奏者になって、世界中で演奏活動をする歌姫になること」
勿忘草の丘で出会った二人は、まるで生まれた時から一緒にいるかのように、打ち解けた。
二人が出会った時はまだ日が高かったはずなのに、もう月が見え始めていた。
空の色は、エリーザの瞳のような空色ではなく、ウィルの髪色のような赤い色に染まり始めていた。
ウィルは慌てて丘を駆け下りようとした。
エリーザは驚き
「ウィル、どうしたの?丘を駆け下りるのは危険よ。それに、これから素敵な物が見られるから、一緒にいましょうよ」
「エリーザ、ごめん。僕、お母様の公演までに戻らないといけないんだ。20時までに戻らないと、近衛兵達に怒られるから、、、」
「ウィル、20時までなら大丈夫よ。私たちもその公演を聴きに行くから安心して。無事に連れて行ってあげるから。もちろん、近衛兵には私から注意もしてあげる。今後、ウィルをいじめる人は、リヒテル王国の第2皇女が罰を与えると言うから。」
ウィルは少しうつむいた。自分が言い返せなかったことをエリーザが代わりに言ってくれるということは、嬉しい反面、恥ずかしさもあったからだ。
「ウィル、あなた、青い雪の伝説って知っている?」とエリーザは唐突に話しかけた。
「え?青い雪?」
ウィルは少し考えた。
宝の山に積んである絵本にそのようなタイトルがあったことを思い出した。
「うん、知っているよ。たしか、青い雪を見た二人は永遠に結ばれるというお話だよね」
エリーザは喜んだ。
「そうよ!ウィルが伝説を知っていて嬉しいわ。実は、今日、これから青い雪が見れるのよ!絶対に。」
マーサがエリーザに言葉をさえぎりながら
「お嬢様、青い雪が絶対にみれるというのは、どこからの情報なのですか?
こんなにも晴れていて、雪なんか降りませんよ。5月の青い雪というのは、ただのお話ですよ。ウィル様に嘘を教えてはいけません。」
マーサの言葉にエリーザは少しもひるまずに答えた。
「いいえ、必ず見れるわ。
だって、私、夢に見たのですから。
夢の光景は、勿忘草の丘で、赤い髪の男の子と一緒に青い雪を見ている私がいたのだから!」
ウィルは不思議に思った。
『今まで会ったことのない僕を夢でみた?』
エリーザはウィルの耳元でささやいた。
「ウィル、絶対に内緒にしてね。
実は、私、予知夢を見ることが出来るの。
だから、妖精を見れるウィルのお話を信じるように、ウィルも私の事信じてね。」
ウィルは笑顔でうなずいた。
その時だ。
丘の上に立つ二人に向かって、強い風が吹いてきた。
風と共に舞い上がる勿忘草の花びら。
まるで青い雪が二人を優しく包むかのように降り注いできた。
「ねぇ、ウィル、見れたわよ!
これが青い雪よ!
なんて素敵なの。
あなたの目の色みたいな美しい青色の花びらが、あなたの軟らかくて優しい赤い髪の色と同じ夕焼け空に舞っているわよ!」
ウィルはエリーザを見つめた。
「エリーザ、青い雪の中にたたずむ君は、勿忘草の妖精のようだよ。歌姫も素敵だけど、やっぱり君は妖精だよ。
だって、絵本に出てきた美しい妖精よりも、もっと美しいから。」
二人は青い雪を眺めた。
今ならどんな夢でも叶えるように思える。
体の底から湧いてくる力強さを感じる。
エリーザは
「ねぇ、ウィル、勿忘草の丘で誓いましょう。
伝説だと思われていた青い雪だってみれたのよ。
今の私たちなら、きっと願い事がかなうわ。
リヒテル王国に古くから伝わる誓いの言葉を教えてあげる。
自分を信じる。
あなたを信じる。
苦しいことも、悲しいことも、
二人の気持ちが一つになれば、
必ず幸せになれる。
この言葉を一緒に唱えましょう。
きっと、ウィルの夢も叶うわよ。
もちろん、私の夢も。
二人、一緒に芸術を愛しながら生きていけるわよ。」
ウィルも同感だ。
二人は声をそろえて言った。
「自分を信じる。
あなたを信じる。
苦しいことも、悲しいことも、
二人の気持ちが一つになれば、
必ず幸せになれる」
言い終わると青い雪は静かに消えていた。
穏やかな風にもどったからだ。
気づくと満月が顔を見せていた。
赤い空に、薄紫のベールがかかっている。
さらに天へ向かうほどに星が金青の空に散りばめられていた。
「ウィル、そろそろ街へ戻りましょう。
あなたと見た青い雪、一生忘れないわ。」
ウィルはあわててポケットからブローチを取り出した。
そして何も言わずにエリーザへ差し出した。




