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落ちこぼれの死神学生  作者:
死神サティ
4/5

喜びに沸くクラス



 結局、七人で挑んでもターゲットは殺せなかった。

 何度も何度も挑んで、何度も何度も殺そうとして、それでもさらりと躱されて今日もターゲットは元気に溌剌と生きている。

 必死になって、協力者を増やしての努力も空しく、僕の死神生活に終わりを告げる日がやってきた。



「サーティーン」



 教壇に立った先生から、名を呼ばれた。



「何とも嘆かわしい事に、このワタクシの担当するクラスから、まさかの落第者が出てしまうとは。先生は大変悲しいですよ。えェ、えェ、それはもう本当に、嘆かわしくて堪りません!」



 チクチクと刺さる言葉でテイチャ先生がそう嘆く。



「しかしルールはルール。テストをクリア出来なかった以上、サーティーン……サティさん、貴方は今日ここで死神としての生に終わりを」


「その前に」



 ガンッ、と何かを蹴るような音がした。

 見れば、ボリーが随分とふんぞり返った体勢で椅子に腰かけたまま、足をどっかりと机の上に乗せている。

 どうやら机の上に乗せた足で机を蹴った音だったらしい。



「ボリーさん! 貴方の成績その他諸々から許されている事柄が多いというのに、ワタクシという教師が居る前でその態度は」


「その前に、つってんだろうが!」



 もう一度ガンッ、と強く机を蹴ってから、ボリーは机の上にヤンキーの如くガラの悪い座り方をして見せた。

 テイチャ先生は裏では色々やっているようでも表面的にはお行儀が良かったボリーのあまりの蛮行に、カタカタと震えて白目を剥いている。



「テメェはサティを落第させるつもりらしいが、その前に、あのターゲットを宛がった責任ってもんが学校側にあるんじゃねえのか? ええ?」


「ナ、なな何の話をしてるのですか!? というか降りなさい! 机から! すぐに!」


「今大事な話してんだろうが聞こえてねえのかチビ!」


「ち、チビ……!?」



 がぁん、とテイチャ先生がショックを受けた。キミーも密かに胸を押さえていた。涙を浮かべながらも笑みを浮かべている辺り、キミーは色々と諦めているのが伝わってくる。



「俺様もアイツのターゲットを殺そうとしたんだよ。あんまりに殺せてねえもんだから、目の前で殺してやったら面白ぇツラでも見れるかと思ってな」


「なあっ!? 他の生徒のターゲットを殺害すれば双方のペナルティになりますよ!?」


「多少のペナルティなんざ痛くも痒くもねえよ。少なくとも俺様はな」



 ハン、とボリーが鼻で笑う。

 しかし今の言い方では、まるでボリーが自分から僕にちょっかいを掛けに来たみたいだった。

 確かに絡んできたのはボリーからばかりだが、ボリーを挑発してターゲット殺しに参加させたのは僕だ。



「あの、」


「同じく、俺も参戦したぜ!」


「私も参加しました」



 ぐえ、と声が潰れた。

 大声で叫んだリカーの声にかき消されたのもあるが、隣に座っていたルストに頭をガッと掴まれ顔を伏せられたせいでもある。



「俺が、ボリーが、そんでルストまで参加したってのにあのターゲットは殺せなかった。俺達が力を合わせても死を回避するだなんて、ありゃとんでもねえ。ターゲットにしちゃ駄目なヤツを引っかけたんじゃねえのか、センコー」


「ワタクシはテイチャですよ、リカーさん! というか全体未聞ですよ! 我がクラスからここまでペナルティを犯そうという生徒が出るだなんて!」


「テ」



 僕がそう差し向けたんですと誤解を解こうとした瞬間、テイチャ先生を呼ぼうとする声は前の席に座っていたルドナによって塞がれた。



「ボクもサティのターゲットを殺そうとした! 失敗したけど!」


「ぼくもやりました!」


「ボォクもやったっけなぁ。えひっ」



 確かに参加はしてくれたけど、と誤解を解こうとするも、身を斜めにずらしたルドナの手によって口を塞がれ、後頭部をルストに確保されているせいでまったく発言が出来ない。



「はいはーい、アタシもやった!」


「あら、あたしもよ」


「ぼくもやった」


「その、私も……」


「私も彼のターゲット殺害に参加を」


「僕も殺そうとしたけど綺麗に躱されちゃった!」


「アタシも。自信あったんだけどね」


「私もやったわ。あれを回避されるだなんて」


「うーん、僕も結構自信あったからアレは落ち込んだなあ」



 俺も、ウチも、とクラス中の生徒が口々にそう言い始めた。

 そう、七人で挑んでも駄目だった事から、ボリーとキミーが率先して他の生徒に声を掛け、あの優等生組が三人揃っても殺せなかったターゲット、という言葉に惹かれた生徒達が次々と参戦してターゲットに挑み、惨敗しまくっていたのである。

 これは僕に才能が無いとかいう次元ではない気がするなあ、と思えるくらいには酷い惨敗履歴が積みあがるばかりだった。



「わ、ワタクシのクラスから、こ、こんなにも沢山の違反者が……!?」


「結局ターゲットは殺せてねぇから違反にもなってねぇんだよ!」


「そうだそうだぁ!」



 怒鳴るボリーにフィーグが笑いながら追い風になる。



「先生」



 ルストが静かに追撃した。



「これだけ生徒が一丸となって殺そうとしても殺せぬターゲットというのは、テスト内容として不適切ではありませんか」


「た、確かにランダムである以上、多少の差は」


「多少じゃねえって言ってんだ。異常なんだよ、アレは。難易度が高かろうが低かろうが、殺せるなら問題ねえ。だが根本的に殺せねえようなのを引っかけたんじゃねえのかって話だ」



 お茶のペットボトルに入れたテキーラをぐびりと飲みながら、リカーがそう言う。



「試そうぜ、センセイ」


「た、試すとは?」


「本当に野郎を殺せるのかってオタメシだよ」



 ヤンキー座りをし続けていたボリーは体勢を変え、机にどっかりと腰を落ち着けて座り直した。

 それでも机の上から退く気は無いらしい。



「この学校の教師はプロの死神だ。先生がサティのターゲット殺しをする。殺せたなら、俺様達全員のレベルが低かったってだけの話だ。それならここで話は終わる」



 だが、



「だが、もしプロの死神である先生ですら殺せなかった場合、今回の失敗はペナルティにはならねぇよなあ。何せ学校側のミスだ。サティの死神としての命が無くなるかどうかの瀬戸際って時に、そんなにも陰湿で意地の悪い事をしでかしたなんて、挙句の果てに殺せないヤツを用意しておきながら失敗したお前に責任があるだなんてほざいてサティの命を剥奪しようなんて、まさかお優しくて聡明でいらっしゃる先生様がやるわけねえよなあ!?」


「やった覚えがありませんよそんなの!」



 テストの内容は全て平等に選び取った結果だというのに、とテイチャ先生はぶちぶち言い、



「わかりました!」



 教壇を強く叩き、そう叫ぶ。



「ワタクシがそのターゲットを殺せなかった場合、サティの落第は無しとします!」



 解散! と叫び、テイチャ先生は小さい体で足早に小走りし、教室を去っていった。





 さて、それからひと月後。

 やつれたというかしおしおになった様相で、テイチャ先生が教室にやって来た。



「……教師側のミスであったと、認めましょう」



 ギギギと歯を食い縛るようにして、自身のミスを酷く恥じるようにテイチャ先生がそう絞り出すように言う。



「あれは極稀に存在する、干渉不可能型の人間です。神に定められた寿命を迎えるまで、何があろうと決して死ぬことはありません。そういう星の下に居ると言うべきか、悪意に晒される事すら無い、とびっっっっっきりの特別製です」



 ああ、やっぱりそうだったんだ。

 何て存在をターゲットに選んでくれたんだと恨む気持ちも無いではないが、そういう存在だったからこそあそこまでの回避力を見せたのかという納得に安堵する。

 そういう存在でも無いのに殺せなかった場合、その方が底知れなくて恐ろしい。



「あれを選んだこちらのミスとし、サティさんの落第は取り消し!」



 安堵に胸を撫で下ろす間も無く、加えて、とテイチャ先生が続ける。



「加えて、あんなものを相手に心を折る事無く挑戦し続けたその根性! クラスの生徒全員を巻き込む程の影響力! 直接的に影響を及ぼしたのは別であったとしても、その渦の大本に居た事に変わりありませんからねェ」



 テイチャ先生はチラリとボリーとキミーの方を見た。

 どうやら色々声をかけまくっていたのは彼らだという情報もちゃっかりしっかり掴んでいたらしい。

 陰湿なところもあるけれど、そういうところはきちんとした先生なんだなあと実感。



「コホン、エー、改めて、今回のテストにおいてサティさんのみ採点不可となったわけですが、そういった不屈の諸々を評価し、サティさんの進学を認めます!」



 あまりの衝撃に、理解するのに数瞬遅れた。

 テイチャ先生の発言の直後はクラスが無音になって、その次の瞬間には、ワァッという歓声がクラス中を埋め尽くしていた。



「わぁーい!」


「これでサティは無事だ!」


「えひ、やったね!」


「ああ、おめでとう」


「コイツ一人だけ澄ました面しやがって」



 キミーが、ルドナが、フィーグが、ルストが、リカーがそれぞれの喜びを顔に浮かべながらそう話す。

 クラスのみんなもそれぞれがそれぞれの笑みを浮かべ、楽しそうに近くの人と話していた。



「サティ!」


「うわっ」



 ガッといつもみたく強引に肩を抱き寄せられたと思ったら、すぐ横に満面の笑みを浮かべたボリーの顔があった。



「やったな!」



 ぐりぐりと額と額と突き合わされていたいいたいと悲鳴を上げつつ、ボリーの言葉がじわじわと胸に広がってゆく。

 ああ、本当に、僕は落第を免れたんだ。

 しかも進学まで出来る事になって、僕は、



「……僕は本当、友人に恵まれてるなあ」


「当ったり前だろ! この俺様がついてて、上手くいかねえことがあるかよ!」



 ボリーや周りの笑顔につられて、気付けば僕も笑っていた。

 ああ、こんな嬉しい日は生まれてこの方初めてだ!



ターゲットのライという名前はlifeのライでした。嘘の方のライに非ず。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 笑い泣きしました。 未読者ネタバレ注意! 最後は先生も巻き込むというオチは大変面白かったです。 絶対、あの一ヶ月間は、担当の先生だ…
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