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落ちこぼれの死神学生  作者:
死神サティ
3/5

メキメキハート



 ターゲットを前に、ボリーは笑う。



「チョロい仕事だ」



 何も悩みなんて無いだろうターゲットを見てニヤリと笑い、ボリーは指を鳴らして魔法を使った。

 へっぽこな死神では使えないが、エリート死神なら生まれつき使える魔法である。

 ボリーは生まれつき、人間の暴力に影響を及ぼす事が出来た。

 自制心を失わせ、その心の流れを暴力的な方面へと誘導するのだ。

 ゆえに彼のターゲットとなった者は酷く暴力的になり、近くではやけに暴力沙汰が発生する。

 ターゲット以外には少し喧嘩っ早くなる程度でありながら、ターゲットはそれよりもタガが外れた状態となり、自然殴り合いの程度を超えていき、最後には見るも無残な死体となる。

 少し唆すだけで人間が死ぬのだから、彼からすればそれは簡単な仕事であり、課題だろう。



「何だよ」


「あ? そっちこそ何だよ!」


「ぶつかって来たのはそっちだろ!」


「ああ!? そっちがぶつかって来たんじゃねえか!」



 学校の廊下で肩がぶつかっただけの生徒達が、ボリーの魔法に影響されて苛立ちのまま掴み合う。

 睨み合い、掴み合い、殴り合い、その拳が他に逸れて野次馬を殴り、巻き込まれた者が参戦したり、巻き込まれた者の友人が拳を振るったりとあっという間に廊下はめちゃくちゃの大惨事となった。

 何か始まったな、という様子で見ていたターゲットもその流れ弾の拳が顔面に、



「オラアッ!」



 当たる直前に相手の腕を掴んで確保し、捻り、殴ろうとした相手を乱闘のド真ん中にぶん投げた。

 突然上から降って来た生徒に、乱闘の中心となった二人すらも何だ何だと動きを止めている。

 自然、振って来た生徒に向けられていた視線はその生徒をぶん投げたターゲットへと向く。



「こんな狭っ苦しいところでちゃっちい喧嘩なんざしてんじゃねえ! おら全員校庭に出ろ! ラグビーで決着つけるぞ!」


「はあ!? 何でラグビーなんかしなきゃ」


「ほお? ラグビー大会優勝者であるこのオレに負けるのが怖いってか?」


「やってやらあ!」



 生徒達はぞろぞろと校庭へ走っていく。

 間もなくして校庭に集まった彼らは殴り合っていた相手とは反対の方につき、二つに分かれてのチーム戦が始まった。

 再びの乱闘戦が始まるでもなく、彼らは爽やかにスポーツで汗を流し、泥にまみれ、最初の苛立ちやいがみ合いなんて何だったのかという笑みを浮かべ、夕日の中で解散してゆく。



「お、俺様の放った暴力衝動が、ただのスポーツで……!?」



 何も気付かないまま全てを丸く収め、暴力衝動をスポーツへの欲に転換したターゲットに、ボリーは信じられないという顔で目を剥いていた。





 ボリーの次はルストが挑んだ。

 ルストは性欲を増幅させる魔法を使い、その結果の痴情の縺れなどでターゲットを殺す事が多い。

 年寄りのターゲットの場合は性欲を優先させてポックリ死なせることも多いようだ。

 そんなルストにより、ターゲットも魔法に掛けられ、性欲が増した。



「うっし、ちょっと走るか!」



 ムラムラの衝動をスポーツで発散し切ったターゲットは、周囲を走る色気ある女性やむくつけき男性には目もくれず、爽やかな汗を拭っていた。





 リカーも挑んだ。

 リカーは酒への欲を増幅させる魔法を使う。

 それによって人は酒に興味を持ち、酒に手を出し、些細な事からも酒に逃げるようになり、酒で身を滅ぼして死んでゆく。

 悪い酔い方をして車に飛び込んで死んだり、喧嘩を売っちゃいけない相手に売って死んだり、酒で内臓をポンコツにして死んだりと様々だが、大抵は死んでゆくのだ。

 リカーによってターゲットは魔法に掛かり、酒への欲がむくりと膨らむ。



「折角だし酒を使った新商品でも考えてみるかな!」



 親戚がバーをやってるターゲットは料理上手を活かし、酒を使った大量の試作品を作りまくった。

 大量の試作品を食べたりで酒をガンガン摂取したものの、顔見知りだらけの空間では乱闘騒ぎも起きはせず、新商品が三つ決まって終わりとなった。





 テラス席にて、優等生三人は酒に溺れていた。



「何なんだアイツは! この俺様のくれてやる暴力衝動をスポーツで! スポーツで発散とかどういう脳の作りしてやがんだ!」


「私が性欲を増幅してやれば、あの年頃ならば猿のように下半身でしか物を考えられず、尚且つ関わりを持った人間全てが具合は良さそうかどうかでしか判別がつかなくなるはずなのに……!」


「酒飲みたいって欲から何で酒使った飯作ろうって考えになるんだアイツ」



 魔法を用いた上で失敗した事なんて無かったからか、何度も挑んで挑んで挑みまくっては躱された優等生たちは今や心がズタボロになっているようだった。

 同じ席に座っている僕の友人達が心配そうに様子を窺ったり、そっとその背中を撫でてあげているのだから相当と言える。

 少し前までは見つかればいじめられるし、突っかかっても殴られるだけといういじめっ子いじめられっ子の関係性だったというのに。

 やはり同じ敵が居るというのは、関係性を深めるらしい。



「強引に殺してやろうとすればおかしな跳ね返り方をするし、どうなってんだ!」


「やっぱりあのターゲットっておかしいよね?」


「おかしい」



 問いかけてみれば、殺しを跳ね返されて怪我をしているボリーは苛立たしげに眉を顰め、酒を呷る。



「俺様が見て来た中でああもおかしなヤツは居なかった。躱すのが上手い、死との縁が無いヤツってのは一定数居るもんだが、普通あそこまで躱すか!? 躱さねえだろ!」


「私の人生で、ここまで挫折を味わうことがあろうとは……」


「普段のボクらの気持ちを思い知ったか!」


「そちらは勝手に落ちこぼれているだけだろう。問題になっているのは、私達が全力を用いても殺せないような人間が居る、という点だ。今までに結果として殺せていた以上、それに時間が掛かったのはそちらの落ち度でしかない。自分達の程度の低さを自慢して楽しいかい?」


「コロス!!」


「ルドナ落ち着いて!」



 ガタッと椅子から立ち上がったルドナをキミーが必死に抑え込もうとするも、それを見たフィーグがハニートーストをもさもさ食べながら笑う。



「えひ、ルドナってば本当の事言われると怒るんだからぁ」


「フィーグまでボクの敵か!?」


「あーうるせえうるせえ」



 噛みつくように叫ぶルドナの甲高い声に顔を顰め、リカーは酒をラッパ飲みした。

 リカーは酒への欲を扱う魔法持ちだからか、日頃から大量に酒を飲む男である。



「今度はぼくらも一緒になってやってみようよ!」


「一緒に?」


「そうさ!」



 キミーはクッキーを手に持ったまま、にっこりと笑った。



「サティだけじゃ出来ない。ボリー、ルスト、リカーがそれぞれ挑んでも、それこそ三人で挑んでも駄目だったくらいなんだよね?」


「俺達三人の魔法を一気に同じ人間に掛けた事なんざ無かったが、それでも大した効果が出なかったからな。人間としての欲が死んでんじゃねえのかアレは」



 顔を顰めながら瓶から直にぐびぐびと酒を飲んでいるリカーがそう言う。

 そもそも他人のターゲットを殺せばペナルティになる以上、同じ人間に複数の魔法を掛けるなんて事自体があり得ない事態だ。

 しかし相殺しているならともかく、そういった様子でも無いのに殆ど効果が出ていなかったのには寒気がした。人間としておかしいとさえ思ってしまう。



「私が見ている限り、欲が死んでいるようには見えなかった。安易な欲には走らず、倫理観も面倒な事にきちんとしている。だが衝動的に喧嘩を買ったりすることも無いでは無いし、友人からでも反感を買うだろう言動も一度や二度では無い」


「随分観察してるじゃねえか、ルスト」


「ボリーはごり押しが過ぎる」



 言い返されたボリーは僕の肩を肘置きに使い、ジョッキになみなみと注がれた酒をがぶがぶ飲んだ。

 飲み零した分がボリーの胸元や僕の左側を豪快に濡らしているが、今のボリーはそんな事気にもならないらしい。



「だからこそ、みんなでやるんだよ! 協力すればきっと出来るさ! 優等生三人に、サティに、ぼくら! これだけ死神が居れば死なない人間は居ないはず!」


「サティ、キミー、フィーグ、ルドナの落ちこぼれ四天王が俺様達にとって何の役に立つんだよ。囮にすらならねえじゃねえか」


「誰が落ちこぼれ四天王だ! もう許せないぞボリー! 表に出ろ! ボクがボッコボコにしてやる!」


「やめといたらぁ?」


「フィーグは黙ってろ!」


「何だルドナ、俺様に何度もボコボコにされておきながらまだ俺様を倒せるなんて夢見てるのか? やめとけやめとけ、お前達落ちこぼれが無事に卒業して一人前の死神になれるって夢の方がまだ叶うぜ。まあ俺様はその夢も叶うとは思ってねえけど」


「ガーーーーーーッ!」


「ルドナ、落ち着いてぇ」



 再び立ち上がろうとしたルドナを、今度はフィーグが腰にしがみ付いて押さえつけた。



「そもそもターゲット殺しに参戦してる時点でぇ、サティが死神として残れる可能性は低いんだからぁ。まぁそれ前提で動いてても全然殺せてないのは本当だけどねぇ」


「フィーグは呑気過ぎるんだよ!」


「えひ、ルドナがせっかちなんだよぉ」


「ぐぐぐぐぐ」



 頭から怒りの湯気を放ちつつ、ルドナはまだ納得していない顔で座り直す。



「た、確かにぼくらは落ちこぼれだけど、無い手よりはあった方が良いはずさ!」


「役に立たない手は逆に仕事を増やすだけではないかな」


「ルスト、お前容赦ねえな」


「事実だろう、リカー」


「それも否定しねえけどよ、こんだけ俺達がやって無理なんだ」



 なら、とリカーがあくどい顔でニヤリと笑った。



「いっそ予想外のミスを起こしてくれた方が、逆に活路が開くって可能性に賭けてみるのも面白いんじゃねえか?」


「……リカー、お前はあまりにも享楽主義が過ぎる。賭け事好きもいい加減にしろ」


「ハイリスクハイリターン程、イッちまう程脳が快感に浸れるモンはない! ルストも一度脳を賭け事のスリルに焼かれてみろ! 二度と戻れない快感に小便チビるぜ!」


「下品な言い方をやめろ。私はそういった賭け事は好まん」


「ケッ、女好きの癖にお堅い事言いやがって」


「私に抱かれたいという女性に対し、真摯に応えているだけさ。金もきちんと渡す事で、体を売るという仕事の女性に対価を支払いそういう事をした、という関係性を構築している」


「爛れの境地だろ」



 何だか色々と話が逸れたけれど、次は七人全員でターゲットを殺しに行く事となった。



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