銀鼠色の子
子供の頃は親戚の集まりが嫌いでした。
「ほら!起きないとお祖父ちゃん達からお年玉もらえないわよ!!」
元旦は毎回、お祖父ちゃん家に親戚が集まる。
親戚は僕の悪口を言うから本当は来たくないけど、お年玉が貰えるから本当は嫌だけど来ている。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
少しでも親戚と合わない時間を増やそうと寝たふりをしていたけれど、
お母さんは僕が朝が強いことを知っているので毎回脅して起こしてくる。
「お年玉ください。」
本当はそう言ってお年玉を貰った後2度寝をしたいが、
親戚の機嫌が悪くなる為、親戚側からお年玉の話が出るまで待つ。
お祖母ちゃん、お母さん、叔母さんは互いの文句を言い合いながら台所で忙しくしている。
「あけましておめでとう。」
表情は変わらないが優しい声でお祖父ちゃんは僕にそう返すと、
新聞を読みながら毎朝欠かさず飲んでいる何か白いものを濾して出てきた白い液体を飲んでいる。
美味しくなさそうだ。
弟と叔母さん家の家族は朝が弱いので、ぼーっとお父さんが見ている元旦の特番を僕もぼーっと見る。
「あんた、することが無いなら手伝ってくれんかね」
お母さんが僕に当たる。
「お祖父ちゃんもお父さんも暇そうだけど」
本当は、こう言いたいけどお年玉の為に黙って食卓に皿や祝い箸を並べる。
「僕、御節は食べれる物が少ないから先にオードブル食べても良い?」
「良いわけないでしょうが!」
台所から3つの怒号が襲って来る。
流石にインスタントの年越し蕎麦だけでは朝まで持たない。が、
お年玉の為に我慢する。
ストーブが効いた温かいリビングから見る毎朝よりも白い日差しと澄んだ空気だけが、
元旦では僕の味方だ。
朝食の準備が済むと、お母さんと叔母が各々の家族をリビングに集め、
新年のあいさつが始まる。
弟から順番にお屠蘇を飲んでいき、お祖父ちゃんが飲み終えると、
いよいよ念願のお年玉が配られる。
本当は此処で幾ら貰えたか確認したいが、それをすると1番怖い叔父さんが怒るので、
皆が御節やお雑煮、お汁粉を食べる中、皆の分も残しつつオードブルを食べる。
自分の分を食べ終えたので親戚達から逃げる為、足早にリビングを立ち去ろうとすると、
「お年玉は良く考えて大切に使いなさいね。決してゲームなんかに使わないこと。」
全てを見透かしたお祖母ちゃんの言葉が背中に刺さる。
「ゲームを買いに行くには未だ早いからお年玉も貰ったし近くの神社で適当に初詣にでも行こう。
今回のお年玉も何時もと同じ1万円か。」
祖父母の家を出て約5分の所に林に囲まれた小さくも威厳のある神社が在る。
林と社の間には2匹の小さな狛犬が此方をじっと見つめてくる。
まるで生きているようで気味が悪い。
財布から5円玉を取り出し賽銭箱に投げ入れる。
作法が分からないので何時も周りの人を真似るが今は1人。
合っているか分からないが適当に鈴を鳴らし礼と拍手をし目を瞑る。
(従兄には虐められるし弟とは喧嘩になるし従妹とはそもそも話が合わないし...
お祖父ちゃん家に居る間だけ友達をください。)
そう願うと社の裏から銀鼠色の風が吹く。
目を開け来た道を戻ろうと振り返ると犬の様な仮面を付けた子が1人立って居た。
「君、友達が欲しいんだって?」
仮面を付けているにも関わらず澄んだ声が耳に届く。
「うん。君は?」
神社で願ったことは叶うとよく言うが、こうも簡単に叶ってしまうものなのか、
僕は、願った結果、目の前の子が友達になってくれるのか、驚きと疑問に襲われていた。
「君が今願った友達さ。何して遊ぶ?」
「願ったけど友達はそうやってできないよ。」
「じゃあ今から友達になろう!」
それから2人は鬼ごっこ、かくれんぼ、チャンバラをして楽しんだ。
「はぁ~流石に疲れたなぁ」
「じゃあ少し休憩しようよ。折角だし君の事を教えてよ。」
そう言われると僕は自分の事を話した。
「そんなに親や親戚が嫌いなら悪戯しちゃおうよ!」
「良いね!それ!どんな悪戯するの!?」
「じゃあさ!君が透明になって悪戯し放題!って言うのはどう!?」
「良いけど、僕は透明になれないよ?」
「大丈夫!僕が君を透明にするよ!」
そう言うと、その子は、パン!っと手を叩いた。
「これで君は透明になったよ!」
「え?本当に?」
「うん!試しにお祖父ちゃんの家に帰ってみようよ!家の皆は君の事が見えないから!」
そう言われると僕達は僕のお祖父ちゃんの家に戻った。
「玄関前のセンサーライトが反応しない...」
ガチャ
「ん??はーい。どなたでしょうか。」
お母さんが小走りで玄関に向かって来る。
「あれ?今、玄関が開く音しなかった?」
「したと思うけど聞き間違えかもね。」
(本当だ玄関に居る僕が見えてないんだ...!)
「ね!言ったでしょ?因みに僕の姿も僕達の声も認識できないんだ!」
そう聞くと僕は皆に悪戯をして回った。
(お祖父ちゃん何時も何飲んでんだろう。今はバレて怒られないから飲んでみよう。)
ゴクッ
(おえぇ~何だこれ...)
美味しくなかった。
弟や従兄を叩いたらびっくりして怖がっていた。
(何時ものお返しだ!)
従妹が読んでいる雑誌を側で読んでみた。
(へぇ~。こういうのに興味があるんだ。)
お父さんが見ているテレビを消してみたけど少し驚いただけで、またテレビを見だした。
(何時もテレビばっか。たまには遊んでよ。)
叔父さんの煙草を消してみたけど、また直ぐに火を点けだした。
(そう言えば叔父さんが吸う煙草は火が消えやすかったんだっけ...失敗したな。)
そして、お母さん叔母さんお祖母ちゃんの化粧道具を隠してみた。
「ねぇ私の口紅知らない?」
「私達のも無いのよ。」
「これからスーパーで買い物に行かないと行けないのに。どこ行ったのかしら。」
(もう年なんだから化粧しても意味ないでしょ!)
そうやって2人は悪戯を楽しんだ。
「しょうがないわねぇ。お店で口紅買いましょう。」
「皆~ほら買い物に行くわよ~準備して~」
「あ!僕も買い物について行ってゲーム買いたい!」
「あれ?そう言えば、あの子は?僕~買い物についてこないと今日のご飯無いわよ~」
「え!?僕は此処だよお母さん!!」
「あれ?どこ行っちゃったのかしら。あなた、僕知らない?」
「僕君、忘れちゃったの?今は皆、君の存在が認識できないんだよ~」
「あ!そうだったねゲームが欲しくて忘れちゃってた!ありがとう!
もう元に戻して!買い物に行かなくちゃ!」
「えぇ~駄目だよ~まだ君と遊びたいもん。僕君は皆の事が嫌いなんでしょ?だったら僕と遊ぼうよ!」
「でも...ゲーム欲しいし...。あ!じゃあさ!また明日遊ぼうよ!」
そう言うと、その子から初めて聞く声がした。
「友達なのに...。もういいよ。僕と遊んでくれないのなら。君を元に戻さない。
君が透明のままだったら私としか遊べないもんね」
「ねぇ!あの子が何処に行ったか皆知らない!?家中探してもいないし呼んでも返事が無いのよ!!」
「そう言えば御節を食べてる時に玄関前のセンサーライトが光ってたな。」
「トイレから戻る時にお兄ちゃん外に出て行ってたよ。」
「それなら、もう2時間も1人で外にいるじゃない!
てっきり何時もの様に2階の部屋でストーブを焚いて1人でゲームしてると思ってたわ!」
「兎に角探そう!近所の人達に息子を見てないか聞いて来る!」
「私達も行くわ!」
家族、親戚がバタバタと動く中、1人呆気に取られる僕。
「え?何を言ってるの...?それじゃ困るよ!友達でしょ!?そんな酷い事しないでよ!」
「君だって今、私に酷いことをしようとしてるんだよ。僕の気持ちを考えずに!
君は皆の事が嫌いなんでしょ!?なら良いじゃんか!」
「おい!僕君が近所の神社に入って行くのを近所の人が見たそうだ!」
「皆、神社に行こう!」
「ごめんなさい!確かに今も、お願いも、自分の事しか考えてなかった...
こんなに皆が僕の事を心配してくれるなんて...」
何時の間にか家の外は雨が降り隙間風が僕を撫でる。
「もう遅いよ。他の人には認識できるようには出来るけど、家族と親戚にはもう君は認識できないよ。」
そう言われると僕は泣き崩れた。
「そんなの酷いよ!そこまで頼んでないのに!!!」
「泣いても無駄さ。また明日遊ぼうね!バイバイ!」
そう言うと、その子は隙間風となり消えていった。
「僕ー!!!」
「僕君ー!!!」
「僕ちゃーん!!!」
僕を探す声が飛び交う中、銀鼠色の風が神社へ吹く。
「こら!八!やり過ぎだぞ!今直ぐあの子を元に戻しなさい!
私の神社が何時までも静かにならんじゃろうが!」
「神様。すみません。明日の朝には戻してやるつもりでしたから、そんなに怒らないでくださいよ~」
「もう、あの子も十分に反省しておる。良いから今直ぐ彼を元に戻しなさい!」
「はいはい。分かりましたって~。それでは神様行ってまいります。」
「良いから。早く行きなさい。」
ストーブが効いた温かい部屋に一際冷たい隙間風が吹く。
「ん~。何か長い夢を見ていたような...
あれ...何で泣いてるんだろう。あれ、もう昼だ。下に降りてご飯食べよう。
本当、この家は寒いな~。廊下に出ると隙間風でも吹いてるんじゃないかと思うくらい寒い...」
そう言いながら僕は足早に階段を降りリビングの扉を開けた。
「あ~あったけぇ...あれ?」
其処には顔を真っ赤にしたまま眠っているお祖父ちゃんが居た。
「皆は今頃、買い物か...」
その時、玄関前のセンサーライトが光る。
ガチャ。
「ただいま~。僕~起きてる~?」
「お母さん!」
今回の登場の神社は実はモデルがあり、
その神社で「ヘラクレスが当たりますように」とお願いしたとろ、
お願い後、初のムシキングでヘラクレスが当たりビックリしました。
あまり神は信じていませんが、そういう出来事も有ったので、
「まぁ神は居るっちゃ居るんやろうなぁ」程度に思ってます。
神は子供の純粋な願いしか聞き入れないと思ってます。