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1-3

 村中が歓喜に沸いた。幸いお父さんもお母さんも無事だった。


 お父さんがおじさんの手を取ってお礼をする。


「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いか」


「気にするな。それよりもあいつら“シシオ軍団”とやらについて知っていることを教えてくれ」


「はい、あれは半年くらい前のことです。突然シシオ軍団と名乗るものがこの村に来ました。最初は親父の作った武器を全部売ってくれと言う話だったので、断りました」


 死ぬ前に、おじいちゃんの武器は売っちゃいけないって言われていたらしい。


「そうしたら翌日、何百人もの悪党がこの村にやってきて、武器を出さないと村人を1人づつ殺すと脅されて……」


「親父さんは有名な鍛治屋かなのか?」


「いえ、確かに腕の良い鍛治屋でしたが、あまり人と交わらない性格で……」


「なにか心当たりは?」


「親父は異国から来た鍛治屋でしたので、この国に来る前から知っていたのかもしれません」


「異国……。親父さんの名前は?」


「トーショーと言います」


「ふむ……、残った剣はあるか? 変わった形の剣は?」


「ああ、それならこの女神像に奉納してあります。何か心当たりが?」


「ああ、もしかしたらな」


 お父さんは女神像の下の隠し扉から剣を取り出す。僕も初めて見た。


 木箱に大切に保管されているその剣は、少し反っていて、刃に綺麗な模様が付いていた。


「どうぞ」


「これは……逆刃刀?」


「サカバトウ? これは武器なのですか? 道理で、鎌にしては曲がりが緩いと思いました……」


「……?」


 おじさんは剣の根元に顔を近づけた。


「ああ、珍しいでしょう。祖父が作ったものは柄のあたりに不思議な模様が必ず付けられているのです。理由を聞いても教えてくれませんでしたが、異国のまじないだと言っていました」


「なるほど……」


「何かわかりましたか?」


「お前さん。こりゃ文字だぜ。どうやらこいつと俺は同郷のようだ」


「ほ、本当ですか!? なんと書いてあるのですか?」


「しゃっくう。お前の親父の本当の名だ。」


「しゃっくう……。そ、そうだったんですね、親父は何故偽名を……」


「偽名じゃねぇよ。おそらく最初に何者か問われた時に、自分の職業を答えたんだろう。俺は刀匠(とうしょう)だってな」


「とうしょう……? はは、なるほど。親父らしいや……。ところで、シャックーとはどういう意味なんですか?」


「そうだな、赤い空と言ったところか」


「赤……」


 僕は嬉しくなった。


「……だから僕の名前はロシュ(赤)なんだね!」


 小さい頃死んでしまったおじいちゃんが、僕と確かに繋がっている感じがした。


「そうか、親父……ロシュが生まれた時、喜んでたなぁ」


 お父さんはカタナを見つめると、思いついたように言った。


「……そうだ。このカタナ、もらってくれませんか?」


「持っていってもいいのか?」


「はい、どうぞ、旅にお役立てを」


 おじさんは箱を受け取ると言った。


「ふむ、良い刀だ。俺の愛刀程じゃないがな」


「束の部分をつけますので、今夜は泊まっていってください。村をあげて歓迎しますよ!」


 その日の夜。村は季節外れの祭りが開かれた。村の人は勇者、勇者とおじさんを囃し立てた。

 村のお姉さん達が全員、おじさんに殺到して収集がつかなくなったため、早めにお開きとなったけどね。





——



 翌日、朝早くおじさんは発つという。


 お父さんと僕は見送りに村外れまで来ていた。


 おじさんは名残りがないようで、あっさりと別れの挨拶を交わした。


「小僧、元気でな」


 おじさんはそう言っただけで立ち去ろうとする。


 やっぱり伝えよう。 このまま夢を諦められない!


「おじさん! 僕を一緒に連れてってくれ! 俺に剣を教えてくれ!」


 僕は精一杯の声で叫んだ。


「だめだ。俺はもう弟子は取らない」


「デシ? ああ、弟子って教え子のことでしょ! それだ! 弟子にしてよ! 僕はこの村だけじゃない、大勢の困ってる人を助けたいんだ! お願いだよ!」


「ふん、誰かさんみたいなことを言いやがる……」


「お願いだ! いや、お願いします!」


「ふむ……」


「いいだろう小僧。……俺に一撃打ち込んでみろ」


 それだけ言うと、おじさんはカタナを抜いた。


 剣を抜いた“本物の剣士”と相対した時。僕は戦慄(せんりつ)した。体が震えて動けなくなっている。


「どうした? やはり止めるか?」


 気力を振り絞って短剣をなんとか抜く。それを見たおじさんは小さな声で、しかし、しっかりと言った。


「……来い」


 覚悟は決めた。もしかしたら斬られるかもしれない。


 ——それでも、僕はいかなくちゃ!


 「てやぁ!!」


 全身全霊(ぜんしんぜんれい)をかけた一撃。とどけ!



——ガキィン!



 おじさんは僕の一撃を避けずに剣で受けた。手に痺れが残る。そのままいなされ、僕は後ろに跳ね飛ばされる。


 尻餅をついたまま、おじさんの顔を見ると、厳しい表情だった。


「ふん、……話にならんな」


 やっぱりダメか……。でも、今の一撃で、何かを掴んだ気がする。これからもっと剣術を練習して、いつか……。


「何をしている小僧、いくぞ」


「え?」


「弟子にはしない。だが、勝手についてくるぐらいなら許してやる。その代わり、どうなっても知らんぞ」


 やった。許しが出た! 僕は思わずお父さんの方を振り返った。


「……ロシュ、良かったな。お前の道はお前で決めろ。ほら、これはお祝いだ」


 お父さんは、カタナを出す。これ、父さんが作ったやつだ。


「本当は鍛治屋を継いでほしかったが、お前は村一番の剣の使い手、どこまでできるか試してこい!」


 お父さんはおじさんに向き直ると、姿勢を正して言った。


「……あの、この子をお願いします。ええと……そういえば、お名前は?」


 確かに! いまさらながらにおじさんの名前を聞いていないことに気がついた。


 おじさんは少し困ったように顎に手を当てた。名前を思い出せないのかな。


「ん? ……ああ、俺か? 俺は……そうだな……」


 そして、ニヤリと笑うとこう言った。


「比古清十郎、……流浪の剣客だ」

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