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村の南にある森、ここは村の人間なら誰もが知る裏口だ。村の集会所の裏手の茂みに出てくる。
村の集会所にみんなは閉じ込められている。しかし、その周りで悪党どもが酒盛りをしているせいで侵入は難しそうだ。
裏手からこっそり侵入しよう。と、思っているとおじさんが僕に言う。
「小僧、お前足に自信はあるか?」
「へ?」
「おーい! ここにガキがいるぞ!」
悪党が一斉にこっちを向く。
「ええ! ちょっと! おじさん!」
「できる限り逃げ回れ、じゃあな」
颯爽といなくなるおじさん。そして後ろからの声。
「ガキがいるぞ! 捕まえろ!」
「まてガキが!」
あの人! さっきの「死ぬなよ」はなんだったんだ! 文句を言う間もなく僕は敵から逃げる。
至る所にいる敵を出会い頭にかわしては走り回る。屋根を飛び、家の間を通り抜け、子供の頃以来に村中を走り回る。
しかし、やっぱり囲まれて追い込まれてしまった。ここは中央の広場。集会所までは遠くなってしまった……。
僕は持ってきた長剣を構える。
周りには囲むようにやつらが集まってきた。
「ようやく追い詰めたか……。おいガキ、お前の爺さんが残した武器をすぐに出せ」
「お前らなんかに渡すもんか!」
「ガキが調子に乗るなよ? これから渡したくなるまで痛ぶってやるからなっ! へへ」
「お父さんの剣はみんなを守る剣だ! お前らみたいな悪党には渡せない!」
「守る剣だとよ。おめでたいやつだ!」
やつらが一斉に笑いだす。
「僕はこの剣で村を守る! てやっ!」
近くのやつを切り付ける。僕の切先は手首を切り裂いた。
「いてぇ!! こいつ! やりやがったな!」
「僕の剣は世界中の人を救う剣だっ!」
「このクソガキ!」
1人が襲いかかってきた。いける、この剣なら……。
「ああっ!」
使い慣れない長剣で受けたせいで、剣を落としてしまった。
「ガキぃ! 覚悟しな……」
やつらはニヤつきながら囲い込んでくる。本当にこれまでか……。
突然奥から声がした。
「なかなかいい剣筋だ。小僧」
——おじさん!
「剣は凶器、剣術は殺人術、これは紛れもない事実だ。だが小僧、お前のその言葉、それもまた剣士の理だ」
おじさんはやつらを薙ぎ倒しながら歩いてくる。
「こいつ、何者だ!」
「敵に決まってんだろ馬鹿。お前ら、このまま村から出ればよし、さもなくば……全員斬る」
「な、何言ってんだこいつ! 囲んでやっちまえ!」
「待て」
人混みが割れて、大柄な男が出てきた。酒の瓶を舐めながら、上機嫌だ。あいつが親玉に違いない。
「お前、多少はやるようだ。強え奴は好きだぜ?」
親玉は酒の瓶を乱暴に放り投げ言った。
「どうだ? シシオ軍団の仲間にならねぇか?」
おじさんは気にも留めない。
「おいそこのデカいの。出ていくのか行かねえのか、……答えろ」
「そりゃ残念だぜ……、野郎ども!」
「やっちまえぇ!」
一斉に襲いかかる敵に、おじさんは素早く身を躱してから剣を振り下ろす。
「はぁっ!」
そして、一撃で3人を斬った! あの人、やっぱり剣の達人だ!
取り囲まれては周りの人間を切り裂く。敵はいつまでも囲い込めないでいるようだ。
「くそっ! こうなりゃ集会所の奴らも全員呼べ! 人質も連れてこい!」
「へい!」
手下の1人がドラを鳴らす。しまった、仲間に合図を送っているんだ!
……しかし誰も来ない。やつらがざわめいていると、おじさんが涼しげに言った。
「奴らなら全員死んだぜ、残っているのはお前らだけだ」
そうか! おじさんは僕を囮にしている間に……。
「くそ!」
親玉が怒鳴りながら大きな斧を取り出して腕に取り付けた。
「ならばこの俺殺人斧のパラシュ様が直々に! 粉々にしてやる!」
なんだあの斧! 大きい! とても人間が扱える代物じゃない!
「オレの斧は右手と一体化している! ただの斧だと思うなよ!」
そういうと斧男は、斧をすごい速さで振り回した。
「避けれるか! 体の回転を利用したおれの技!」
——斧乱地獄っ!
速い! あんな速さの斧の連撃! 避けられるはずがない!
……しかし、迫ってきた斧は空を切り続けた。おじさんが避けたんだ。
いや、突然”消えた”ように見えた。
——飛天御剣流 龍槌閃
おじさんが着地した時に初めて、空中に跳んでいたことがわかった。恐ろしく素早く、そして“静か”な着地だった。
「な、なんだ? なんとも……」
その時、鉄の斧が地面に落ちた。まるで剥がれ落ちるようにきれいに。
「お、オレの手が……が、が、が、があ! がはぁ……」
真っ二つ。斧で丸太を割るように、体が真っ二つになりながら、斧男は息絶えた。
「ま、魔法使いだっ! 逃げろ!」
それを見た周りの手下は、我先に逃げ出していき、まもなく、村から悪党は1人もいなくなった。
「ふん、殺し合いの最中にぺちゃくちゃ喋るやつは長生きしねえんだよ。 ……チッ、剣が曲がっちまった。すまんな小僧」
「ううん……、それよりもおじさん、大丈夫?」
「おじさんはよせ。まずは村の者たちを助けるのが先だ」