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「まてぇ!ガキ!」
殺される! 止まったら殺される! 僕は足がちぎれんばかりに走る。
森だ。森の中に紛れて逃げよう! 僕は子どもの頃から慣れ親しんだ遊び場に飛び込んで、呼吸が乱れる口を無理やりふさいで木の奥に隠れた。
「おい! どこだガキ! 今出てきたら脱獄の件は許してやる!」
息を整える。あいつらは僕を見失ったようだ。よし、このまま水辺に逃げて、“あの場所”まで走っていけば。
そう思った矢先、遠くに何か落ちているのが見えた。あれは人か? 近づいてみる。
……変な格好の大男が倒れていた。
この人は誰だ? あいつらの仲間か? でも不思議とそんな感じはしない。僕は恐る恐る声をかける。
「ねえ、おじさん。大丈夫?」
……寝ている? 死んではいないみたいだけど。
こうしている場合じゃない。僕は持っていた水筒を置いてその場を離れようとした。
「おい!ガキがいたぞ!」
回り込まれた!
前からあいつらが近づいてくる。見つかった!
僕は背中に隠している短剣に手をかけて、注意深く奴らを見る。
「ああ!? 誰だお前は!」
やつらが僕に向かって叫ぶ。いや、僕の後ろだ。僕は振り返った。
「小僧、水をくれたな。恩に着るぞ」
先ほどの大男が水筒を片手に地べたに座っていた。
「誰だてめえ! ガキの仲間か!」
ゆっくりと立ち上がる大男。……大きい。実際に立っていると、もっと大きく感じる。
「これから死ぬ奴に名乗っても意味ねぇよ」
その大男は、瞬きする間もなく、奴らを切り伏せた。
信じられない……。何が起こったんだ。剣も持ってなかったはず……。
「おい、借りたぞ」
男は僕の短剣をもっていた。って、この人、いつの間に!?
大男はまたどっかりと座ると、胸のあたりをさすりながら、僕に問いかける。
「小僧、お前名前は?」
「僕はロシュ、ラタラ村のロシュだ」
「この辺の者か?」
「うん……、そうだけど。おじさんは魔法使い?」
「魔法は使わないが、剣は少々やる。お前は南蛮人のようだが、日ノ本の言葉が話せるのか」
「ヒノモト? 何それ?」
「妙だな……。いや、なんでもない。それよりもこの辺に村はないか? 腹ごしらえがしたい」
「村はあるけど……。危険で入れないよ。あいつらが来てから」
「あいつら……?」
何ヶ月か前のことだ。シシオ軍団と名乗る盗賊が突然村を襲ってきた。
奴らは僕たちの村を根城にして、もう一週間、僕は命からがら逃げ出してきた。
「そうか、賊が村に」
「うん……」
おじさんは気がついたようにキョロキョロと周りを見渡す。
「そういえばこの辺に刀がおちてなかったか?」
「カタナ? それ何?」
聞いたことがないものだ、楽器か何かだろうか? おじさんは思案顔で言った。
「……そうか、知らないなら良い。小僧、村の場所を教えてくれ」
「だめだよ! 殺されちゃうかもしれないのに」
「俺なら大丈夫だ。お前もここから早く逃げろ」
「僕は行く! 僕はもう16の男だ! みんなを守らなきゃ」
僕には夢がある。こんなところで終われないんだ。
「ならばシシオ軍団とやらとはどう戦う?」
「抜け道からこっそり助けに行くんだ! 武器もある!」
「武器……?」
僕はおじさんを連れて”あの場所”へ行く。
村の外れ、山道を少し歩いて登っていくと、程なくして小屋に着く。
お父さんの仕事場だ。
「ここは……。鍛冶場か」
「そうだよ、うちは代々鍛冶職人なんだ! ……ほらここ」
僕は荒らされている鍛冶場の床下の箱を取り出す。奴らもここは見つけられなかったみたいだ。
短剣が3振り、長剣が1つ、両手剣が二つ。これだけあれば十分だろう。
「貸してみろ、……ほう、これはなかなかのものだ」
両手剣を軽々と片手で持つ。この人は本当に何者なのだろうか
「あいつらが来て、武器を没収するって言うから、急いで隠したんだ。その時抵抗したお父さんは連れてかれた……」
「それで、助けに行くってわけか」
「僕は……、父さんと母さんたちを助けたい!」
「ふん、お前みたいなやつは久しぶりだな」
「え?」
「小僧、村まで案内しろ」
「うん!」
「その代わり、絶対に死ぬなよ」
おじさんの目を見てると本当に死ぬかもしれないと言う恐怖と、この人が一緒なら大丈夫と言う安堵が同時に襲ってきて、妙な感じだ。
でも、みんなを助けなきゃ!