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第四話 私は利用されていた

 お父様の私室の中から聞こえてくる、信じがたい言葉。でもこれは間違いない……ジュリアの声だ。


 でも、私の知っているジュリアはもっと大人しくて、人の悪口なんて絶対に言わない子だ。まさか、声がそっくりなだけの別人?


 ……そ、そうよね! きっとそうに違いないわ! そうだ、こっそりと確認すればいいだけじゃない! こっそり……そう、こっそりと……。


「あの馬鹿のおかげで、家の評判が少々落ちたのは腹立たしいが、それ以上に奴がジュリアの評判を上げるのに一役を買ったことと、ジェクソンを引き止める駒になっていたのは確かだ」

「そうね。それが無ければ、とっくに家を追い出していたでしょ?」

「当然だ。ワシにはお前のような美しい娘がいるから、それだけで十分だ」

「っ……!!」


 動揺しつつも、部屋の扉を少しだけ開けて中を確認すると、そこにいたのは確かにお父様とジュリアだった。


 一番驚いたのは、ジュリアの態度と表情だった。いつものあの子は、座るときは浅く座り、手を合わせてとてもお行儀よく座るし、表情もどこか儚げだ。


 でも今は……ソファに深々と座って足を組み、表情も今まで見たことが無いような……悪人そのものになっていた。


「なんにせよ、これでようやくジュリアに相応しい婚約者を手に入れられた」

「本当にやっとって感じね。幼い頃から、お父様に言われてこの性格を演じるのは、凄く大変だったよ」


 ジュリアが大袈裟に肩をすくめてみせると、お父様はすまないと短く答えてから、葉巻に火をつけた。


「ていうかさ、もっと幼い頃にあたしと婚約させられなかったの?」

「出来なくはなかった。しかし、お前は男性が少し怖い弱々しい少女だが、横暴な姉を慕う優しさも持っているというのを演出したくてな。幼い頃から、馬鹿な貴族連中にそう思われていた方が、これからの人生で、何かと立ち回りがしやすいだろう?」

「まあ、そうかもしれないけどさ」

「だからジェクソンには表向きはリーゼと婚約をさせ、将来的にはお前と婚約をするように、前々から話をしておいたのだ」


 ……お父様もジュリアも、ずっと私を利用していただけということ? 私が悪者を演じていたのは自分の意思だけど、それすらも上手く利用して、ジュリアだけを良いようにしようとしていたってこと?


 そっか……お父様は……ジュリアだけを愛して、私のことなんて一切愛していなかったのね。ジュリアも……悪者を演じていた私の何倍も悪女だったのね。


「ふふっ、お姉様が馬鹿なことをして、貴族達の注意を逸らしてくれたおかげで、あたしがおもちゃで遊んでても、気づかれなかったのは助かるけどね」

「お前、まだあれで遊んでいるのか? ほどほどにしておかないと、国に目を付けられかねんぞ」


 あれ……? あれってなに? 駄目だわ、ショックが大きすぎて、頭が全然働いていない……眩暈までしてきた。


「だって、楽しいんだから仕方ないよ。この前も新しいのを一体購入しちゃったし」

「やれやれ……これではお前の中の聖女の力が泣いているな」

「別にこんな力、お母様が勝手にあたしに継承しただけにすぎないもの。あたしよりも、自己犠牲の塊であるお姉様の方が適任だよ! あーあ、こんなどうでもいい力なんて、お姉様に全部上げちゃいたいなー」


 ジュリアは心底嫌そうな顔をしながら、自らの手をジッと見つめる。すると、ジュリアの手がほんのりと光り始めた。


 あの力は、亡くなったお母様が私達に残してくれた、大切なものだというのに……どうしてそんな酷いことを言えるの?


「しかし、お前も聖女として、国のためにその力を使わねばならん」

「面倒くさいなぁ。でも、これからも良い子ちゃんは演じないといけないわけだし、それも仕方なしか。そうだ、これからも全部お姉様がやってくれないかな? ほら、なんかいつもの様に悪ぶりながら、あたしの代わりに聖女の仕事をしてくれたでしょ?」


 ジュリアの言っていることには、心当たりがある。国からの使者が来て、私達が持つ力を必要とされた時に、ジュリアなんかでは役に立たないと悪ぶって、自分がやるから感謝しろと高笑いをしたことがある。


 もちろん本心でそんなことは言っていない。むしろ私の力は不完全だから、ジュリアの方が適任だと思っているくらいだ。


「そういえば、お姉様はこれからどうするの?」

「知らん。ワシはあいつのことには興味が無い。お前がいればそれでいい」

「さすがお父様!」


 二人はとても楽しそうに笑う光景を、私はただこっそりと見つめることしか出来なかった。


 私だってこの家の家族なのに、私にはあの輪に入る資格が無いだなんて……あまりにも酷すぎるわ。


 もう、ここにいるのは辛すぎる……早く自室に帰りましょう……。


「…………」


 まるで体が鉛になったかのような錯覚を覚えながら、一歩ずつ自室に向かって歩を進める。その途中で、何度も涙が流れそうになったけど、人前で涙を流してはいけないと思い、何とか耐えた。


「あ、おかえりなさいませリーゼお嬢――ど、どうかされましたか?」

「クラリス……私……わた、し……うっ……うわぁぁぁぁぁん!!」


 自室に帰ってくると、クラリスがいつものように笑顔で出迎えてくれた。それが何よりも嬉しくて、同時に溜まりに溜まった悲しみが爆発して……彼女の胸の中で、子供のように泣きじゃくった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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