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【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~  作者: ゆうき


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第三十三話 告白

 翌日、私は安心と最近の疲れの影響で、お昼まで熟睡してしまった。クラリスに起こされていなかったら、きっとまだ眠っていただろう。


「あーもう、こんなに寝坊してしまうなんて!」

「リーゼお嬢様、髪が跳ねておりますよ」

「え、どこ!?」

「焦る気持ちはわかりますが、落ち付いてください。ここにお座りになってください」


 呆れながら笑うクラリスに髪を直してもらった私は、急いで部屋を飛び出した。


 行き先は……アルベール様のところだ。昨日、やっと目を覚ましてくれたけど、容体が変化している可能性も捨てきれないから、早く確認をしたい。あと、純粋にアルベール様にお会いしたい。


「アルベール様!!」


 ノックもせずに部屋の中に飛び込むと、アルベール様はベッド用のテーブルを使い、書き物をしていた。


「おや、俺の女神様じゃありませんか。今日は随分と情熱的な登場ですね」

「じょ、情熱的って……」


 アルベール様は、ベッド用のテーブルを退かしてから、いつもの様に微笑みを向けてくれた。


 うぅ、女神とか情熱的とか……いつも通りで安心したというべきか、相変わらず恥ずかしいというべきか……感情がぐちゃぐちゃになっているわ。


「その、具合はどうですか?」

「おかげさまで、すこぶる好調ですよ。リーゼ嬢は、あの後は大丈夫でしたか?」

「はい。私もクラリスも、何とか無事に過ごせておりますわ」

「そうですか。あなたが無事で、本当に良かった。自分のせいでまた大切な人を失うのは御免ですからね」

「また……?」


 アルベール様の口ぶりは、まるで過去に誰かを守れなかったのを示唆するようだった。


 それが気になってて、ついポロッと口に出したら……とても複雑そうな表情になってしまった。


「あ、ああ、あの! 私ってば、無神経なことを聞いてしまいましたわ! 今のは忘れてくださいませ!」

「いえ、いつかは話さないとと思っていたので、丁度良かったです。リーゼ嬢は覚えていますか? 俺があなたに励ましてもらった日のことを」


 励ましてもらった日のこと? 勿論覚えているわ。あの時のアルベール様は、本当に悲しそうで、今にも消えてしまいそうだったもの。印象に残らない方が不思議だわ。


「勿論覚えておりますわ」

「何を言ってくれたかは覚えてますか?」


 ……なんだったかしら……幼かった頃の話だから、アルベール様を励ましたことしか覚えていない。


「あなたはこう言いました。あなたにそこまで悲しんでもらえるなんて、その方は本当に幸せだったと思いますわ。だから、その方のために前を向いてあげてください。そうすれば、きっとその方は喜んでくださるわ……とね」

「……確か、そのようなことを言いました。でも、一字一句覚えているなんて……」

「それくらい、俺にとって大切な言葉ですからね。実はあの日、俺が失った人物と言うのは、俺の弟です。そして……弟は俺が殺してしまった。だから、あの時は落ち込んでいたのです」

「えっ? 何を仰って……?」


 アルベール様の言葉の意味がちゃんと理解出来なかった私は、何とも間抜けな返事を返してしまった。


 あの優しいアルベール様が、人殺しをするなんて信じられない。きっと何かの間違いよね?


「実は幼い頃の俺は、とても厳格で面白みのない性格でした。サヴァイア家の長男として、将来は家長となり、領地と領民を守らないといけないと思ってました」


 今のアルベール様は、真面目ではあるけど、社交界でそのような側面を見たことは無いし、私に対しては少々やり過ぎなくらいの愛情を注いでくれている。


 だから、アルベール様の仰る幼い頃の性格は、あまりピンと来なかった。


「俺の弟も、俺と同じ意志を持っておりました。だから俺は、弟に強く育ってほしくて、厳しく接していました。それこそ、家長の仕事で忙しかった、父の代わりを務めるように。毎日剣の稽古をし、勉強を教え、社交界に出ても恥ずかしくない振る舞いを叩きました。弟も、それを望んで……毎日ついてきてくれました」


 話しているうちに、かけ布団の上に置かれた手に、酷く力が入っているのが目に入った。その握り拳には、アルベール様の辛い感情が現れているように感じた私は、握り拳に自分の手を重ねた。


「しかし、俺のしていたことは、弟には負担が大きすぎた。結果として……弟は体を壊した。多くの医者に診てもらったが、弟を助けることが出来なかった」

「そんな……」


 そうか、だからアルベール様は自分を人殺しと仰ったんだ。でも、それはあくまで結果論で……アルベール様は、弟様のために頑張っていただけだ。


 でも、結果的には弟様はこの世を去ってしまった。良かれと思って頑張っていたのに、悪い結果になってしまっただなんて……自分の話を聞いているかのようだ。


「俺のせいで、弟は死んだ。そう自分を責めていたのが、あの時の俺です。そしてあなたに励まされ……前を向けるようになった俺は、あなたに恋をし、二度と大切な人を失わないと誓ったのです」

「だから、社交界でお会いするたびに、私に声を?」

「その通りです。最初は愛するあなたと、少しでもお話をしたくて声をかけてました。ですが、日を追う毎に孤独になり、振る舞いも悪くなるあなたを助けたくて……守りたくて、ずっと声をかけていました。なので、頼ってきてくれた時は本当に嬉しかったですし、事情を聞いて納得しました」


 アルベール様に、そんな事情があったのも、私がアルベール様の助けになっていたのも知らなかった。私みたいな人間でも……誰かの助けになれるのね。


「私、いつもしてもらってばかりと思ってたのですが……知らないうちに、あなたの力になれていたのですね」

「何を言ってるんですか。昨日だって、俺のために情熱的な言葉を伝えてくれたじゃありませんか」


 ちょ、ちょっと待って! あんな恥ずかしい言葉を聞いてたの!? そもそもあの時は、アルベール様の意識は戻ってなかったわよね!?


「な、なんでご存じなんですか!?」

「おや、やはりあれは夢じゃなかったのですね。ずっと俺は、真っ暗な闇の中にいたのですが、あなたの声が聞こえて来て……その声に導かれて、目を覚ましたんですよ」


 な、なるほど。結果的に、あの告白のような言葉は、アルベール様を助けることが出来たのね。伝えて良かった……のかしら? 聞かれていないのを前提にしてたから、恥ずかしくて仕方がない。


「じゃ、じゃあ……その後にしたことも、ご存じなのですか?」

「……? なにか俺にしたんですか?」

「な、何もしておりませんわ! つい気分が高揚して、唇を奪ったなんて事実もございません!」


 あまりにも焦り過ぎて、余計なことを口走ってしまった……そう気づいて口を抑えた時には、すでに遅かった。


 ど、どうしましょう……これでは寝込みを襲うような、はしたない女だと思われてしまう。


「はっ……い、今のはほんの冗談で……だ、騙されたあなたはなんとも滑稽ですわね! ああいい気味ですこと! おーっほっほっほっ!」

「……ええ、確かに騙されましたね」


 誤魔化すために悪者を演じてみたけど、全くうまくいっている気配はない。それどころか、私はとても真剣な表情のアルベール様に、両肩を掴まれて逃げられなくなった。


「あ、アルベール様……」

「その冗談を、俺は真実にしたい。俺はあなたを本気で愛している。元々はこの家に住む口実として婚約を結んでいましたが、そんなのでは満足できません。俺と本当の婚約を結んでください」

「……はい。私もあなたを愛しています。不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」


 てっきり怒られるか、嫌われてしまうのかと思って身構えていたけど、アルベール様の口から出た言葉は、ストレートな愛の告白だった。


 それが私はとても嬉しくて……涙を流しながら首を縦に振ると、今度はアルベール様によって、再びキスをした。


 二度目のキスは、悲しみに溢れていた最初のキスとは全然違い、沢山の暖かさに包まれていた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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