第二十一話 愛する心
「ヴレーデ国が……どういうことなんですか!?」
「私も詳しくは……つい先日、突然国の中心から国を覆う規模の瘴気が発生したと聞きました。公には発表されていないので、詳しくは国王陛下にお聞きになるとよろしいかと」
「そう、ですか……わかりました」
突然聞かされた故郷の危険は、私の心に大きな衝撃を与えていた。そのせいで、さっきから胸がバクバクし、体も震え、息もとても荒れている。
「あなた方は、ご存じなかったのですか?」
「ええ。我々は最近まで領土の瘴気問題を解決しようと奮闘し、解決は出来たものの、長い休息が必要になってしまったので、そのような情報を仕入れる余裕もなかったのです」
「なんと、それは大変でしたなぁ……解決できたのなら何よりです。しかし、情報統制は敷かれているようなので、一部の情報通しか知り得ない情報だそうですよ。私に教えてくれた知人も、かなりの情報通だったので、こうして知ることができましたが」
瘴気でってことは……きっと取り残されてしまった人達は、動けなくなって瘴気の中で苦しんでいるに違いない。それに……お父様やジュリア、あと元婚約者のジェクソン様も心配だわ。
私に酷いことをした人達の心配なんてと思われるかもしれないけど、家族や元婚約者の心配をするのは、普通のことだと思うの。
「アルベール様、少々お話したいことがあるのですが」
「わかりました。申し訳ないですが、我々はこれで」
「うむ。機会があれば、茶でも一緒にしましょう」
「楽しみにしております。では」
私はアルベール様とクラリスと一緒に会場の隅っこに行き、ヒソヒソと話し始めた。
「アルベール様。すぐに国王陛下に謁見をする方法ってないのでしょうか?」
「それは難しいですね。なにせこれから陛下が開催したパーティーが始まるのです。主役がいなかったら話にならないでしょう?」
それはそうだけど……でも、一秒でも早く行動がしたくて、居ても立っても居られないわ。
「……よし、俺に考えがありますので、少々席を外します」
「挨拶回りは良いのですか?」
「ええ。愛しのあなたのためなら仕方なしです!」
「そ、そういうことは言わなくても良いですから!」
そう言うと、アルベール様は何処かに向かって足早に去っていった。
アルベール様がいなくなっただけで、不安感に押しつぶされそうだわ。この瞬間にも、家族や罪のない民達が苦しんでるかもしれないと思うと……!
「…………」
「リーゼお嬢様、お気を確かに。きっと皆様は無事ですよ」
「そ、そうね……」
クラリスに力なく返事をした私は、アルベール様が戻ってくるまでの間、私は誰かと話したり、踊ったりするわけでもなく、クラリスと一緒に会場の隅っこで、邪魔にならないようにしていた。
「……どうして瘴気が出たのかしら」
「それはわかりません。それよりも、ジュリアお嬢様がいらっしゃいますし、他にもヴレーデ国には聖女はいらっしゃるんですよね?」
「ええ。確かヴレーデ国には、聖女は全部で四人いるはずよ。今は一人減っているけど」
「それなら、早急に対処はする……と言いたいですが」
「出来てれば、もう治まったとか、治まり始めてるとか言うわよね」
もしかしたら……聖女であるジュリアや他の方に、何か問題が起こったのかもしれない。もしそうなら、今も事態が収束していないのも理解できる。
「クラリス。私……ヴレーデ国に戻りたい」
「瘴気をどうにかすると?」
「ええ。私は落ちこぼれで欠陥だらけだけど、力を持つ者として、故郷の民と大地を救いたい」
「規模が不明な以上、迂闊に動くのは危険かと。今はサラム国の国王陛下にお話を聞くのが最優先事項です」
「…………」
クラリスが言いたいことはわかってるし、それが正しいことなのも、頭ではわかっている。わかってるけど……焦る気持ちが止められない。
「戻りました。国王陛下にお話をして、パーティーが終わったらすぐに謁見してもらえるように手筈を整えました」
「ありがとうございます、アルベール様……」
「リーゼ嬢、不安に思う気持ちはわかりますが、今の我々に出来ることは、これからのために英気を養うことです。思いつめて体を壊したら、出来ることも出来なくなってしまいます」
「そうかもしれませんが……」
「ほら、もうパーティーが始まります! 気分転換に、一緒に踊りましょう!」
「は、はい」
私を元気付けるために、いつも以上に明るく振舞うアルベール様に小さく返事をした私は、パーティーが始まって思い思いに踊り始める貴族に混ざって踊り始めた。
これでも一応貴族の娘として、一通り踊ることは出来る。だから、初めて一緒に踊るアルベール様とも、しっかり足並みが合わせられた。
「アルベール様。本当に色々とありがとうございます」
「お礼を言われるようなことはしてませんよ? 俺は当然のことをしただけですから」
アルベール様と密着して、優雅に踊りながらお礼を伝えると、とても優しい微笑みを返してくれた。
私は……この笑顔が大好きだ。幼い頃から私に会うたびに、ずっと向けてくれた、この笑顔が。大人になった今でも、子供のように眩しいこの笑顔が。
この胸の高鳴り……やっぱり、私はいつの間にかアルベール様のことを、心から愛してしまったようだ。だから、一緒に住むためだけの婚約では、満足できなくなっている。
「本当に……アルベール様はお優しい方ですね。私、そんなあなたが……」
「……リーゼ嬢?」
「…………」
……駄目ね。今の私の心は、アルベール様への愛情の他にも、故郷や家族への不安、そして焦りが渦巻いている。こんな状態で愛の告白をしては、アルベール様に失礼だろう。
「いえ、この先は全てが終わった後に言わせてください。こんな不安定な心の私に、この言葉を伝える資格はありません」
「リーゼ嬢がそう思うのなら、俺はいつまでも待っていますよ」
「ありがとうございます」
アルベール様は、私の煮え切らない考えにも、文句一つ言わずに笑ってくれた。そんなことをされたら、益々アルベール様の虜になってしまう。
――その後、ダンスが終わった後も滞りなくパーティーは進行していき、無事に終わりを迎えた。最初の挨拶のようなゴタゴタも起こらず、ホッと一安心……とはならなかった。
この後、私は国王陛下に謁見をする。そこで、自分が聖女だということと、故郷の状況を聞く予定なのだけど……国王陛下は、私の話を聞いてくださるだろうか? この間にも、故郷は更に酷いことになっているのではないか?
……そう考えると、安心なんてしている余裕なんて、微塵もない。
「リーゼ嬢、これを飲んで少し落ち着いてください」
「アルベール様……ありがとうございます」
私は、アルベール様が持ってきてくださったお水を受け取ると、一気にそれを飲みほした。
「……少しだけ落ち着きました」
「それはよかった」
「ごめんなさい……せっかく一緒に踊ってくださったのに、全然集中出来なくて。それに、途中で変なことまで言ってしまいました」
「大丈夫ですよ。お気になさらず」
「…………」
「……では、落ち着いたらまた一緒に踊ってくれますか?」
「はい、よろこんで」
私の手を取ってお誘いをしてくれたアルベール様の優しさが、私にはとても暖かくて嬉しかった。
私って、本当に駄目な女だわ。こんなに優しくて素敵な殿方に、心配ばかりかけて……もっと心身共に強くなりたい。
いえ、違うわね。なりたいんじゃなくて、ならないと。そのためにも、もっと心を強く持って……そして、大切な故郷を守らないと。
「お待たせしました。国王陛下がお待ちですので、謁見の間にお越しください」
「はい、わかりました」
迎えに来てくれた近衛兵の方に連れられて、私達は謁見の間へと案内された。すると、とても威厳のあるご年配の男性と、鎧を着こんだ一人の女性が、私達を出迎えた――
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