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第二話 婚約破棄

 え、婚約破棄……? 婚約破棄自体は、さほど珍しいものではないが、まさか自分がされる立場になるなんて、思ってもなかった。


 少々どころか、とても動揺してしまっているが、なんとかいつものように振る舞わなくては。


「ほーっほっほっほっほっ!! 私に相談もなく婚約破棄をするだなんて、愚かにもほどがあるのでなくて? 少しはその無い頭を振り絞って、今の発言を振り返ってみてはいかがかしら?」

「愚かなのは君の方だ。誰彼構わず横暴な態度を取っていたせいで、ジュリア様や、君のお父様がどれだけ苦労したか」


 仰りたいことはよくわかる。事情を何も知らない人から見れば、私のしていることは悪いことだもの。でも、この件はお父様も認知していることなのよ?


「私も、いつか変わると信じていた。だが、全く改善が見られない。もう愛想が尽きた」

「私達に、尽きるほどの愛想があったと思ってるなんてお笑い種ね。そもそも、婚約破棄なんてお父様が許さないですわ」

「すでにワシが許可した」

「え、お父様?」


 私達のお父様であるヴァリート・ラトゥールが、顎に蓄えた髭を触りながら答える。


 てっきりこの話は、ジェクソン様が勝手に進めていることだと思っていた。だから、お父様が許可を出していたことに、驚きを隠せない。


「代わりに、私は彼女と婚約を結ぶことにした。これも君のお父上から了承済みだ」

「ジュリアとジェクソン様が?」

「お姉様、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうではあるが、少しだけ幸せそうに、ジェクソン様の服の裾を掴むジュリア。


 いや……これは捉えようによっては、最高の展開じゃないかしら?


 私の願っているものは、あくまでジュリアの幸せであり、私はそれを達成するために動いていた。だから、別に結婚とか興味が無い。


 そんな私が結婚するよりも、ジュリアが結婚をして幸せになる方が、絶対に良いはずだわ。


 そうなると、もうジュリアには守ってくれる相手がいるんだから、私が悪ぶる必要も無くなるのね。とりあえず、突然変わったら怪しまれるから、今日はこのままでいましょう。


「ふん、あなたのそのつまらない顔も見飽きていたし、ちょうど良かったですわ。その婚約破棄は、喜んでお受けいたします。今後は私ではなく、妹と末永くお幸せに」

「あ、ああ」

「お姉様! お待ちくださいませ!」


 ジュリアは、呆気に取られるジェクソン様の隣をするりと抜けると、私の手を掴んだ。


「あ、あの……本当に良いんですか? あんな素敵な人をわたくしにだなんて」

「鬱陶しいわね。良いって言ってんでしょ。これ以上言わせたら怒るわよ」

「ご、ごめんなさい……」

「本当に辛気臭くて、見てるとイライラするわ。私はね、好きでもない相手と別れられて清々してんのよ!」


 先にそれだけを言ってから、私は大きく息を吸い込んで、高笑いをし始める。


「おーっほっほっ!独り身になれたおかげで、今まで以上に好きに出来るようになるわね! これまではだいぶ自重していたけど、それも必要なくなる……ふふっ、楽しみね!」


 不穏なことを言ったせいで、周りの貴族達から私を蔑むような目や、悪口が聞こえてくるけど、ジュリアの幸せを思えばどうってことはない。


 ……でも、あまりここに長居しても良いことは無さそうね。今日は私の誕生日のパーティーだけど、欠席させてもらおう。


「お姉様、どこに行かれるのですか!?」

「私を捨てた男の顔なんて、これ以上見たくないから、失礼させてもらうのよ。それじゃあ」


 背筋を伸ばして会場を後にした私は、さっきリスと会った所に戻ってくると、何もせずにボーっとし始める。


 正直に言うと、ジェクソン様に好かれていないのはわかっていたし、婚約破棄をされても仕方がないことをしていたのはわかる。けど、相談も無しに婚約破棄をされるとは思ってもなかったし、お父様がそれを許可するのも想定外だった。


 ジュリアが幸せになってくれるなら、私としてはそれで良いだけどね。ジェクソン様はとても聡明で、お優しい方だから、きっとジュリアを幸せにしてくれるでしょうし。


 とはいえ、なにもあんな大勢の方々がいらっしゃる場でしなくても良いんじゃないかしら? 正直、あんな大勢の前で恥をかかされたショックは大きい。


「はぁ、はぁ……あっ、リーゼお嬢様!」

「クラリス。そんなに息を切らせてどうしたの?」

「リーゼお嬢様を急いで探しておりましたので。その、ご気分は……」

「ええ、大丈夫。心配してくれてありがとう」


 私の元に、さっきの侍女のクラリスがやってきた。眉尻を下げて私を心配するクラリスの声は、とても落ち込んでいるように聞こえる。


「あれで本当に良かったんですか? あれではリーゼお嬢様の優しさを、全て台無しにしているではありませんか!」

「元々そういう感じだったじゃないの。これであの子が幸せになるのなら、私は姉としてこれ以上の幸せはないわ」


 クラリスにこれ以上心配をかけないように、笑みを浮かべてみせる。


 クラリスは私のことを大切にしてくれる。でも、少々過保護な面があるのが玉にきずだ。私が自ら悪者になるように立ち振る舞うことを話した時も、猛反対されたのを、今でも鮮明に覚えている。


「今日は疲れたから、部屋に戻って休むわ」

「会場にお戻りにならなくても良いのですか? 今日はリーゼお嬢様のお誕生日を祝したパーティーなのですよ?」

「あんなことになった状態で戻っても、良い顔はされないでしょう。きっとお父様が何とかしてくれるわ。それとも、クラリスは私にあの場に戻ってほしいの?」

「いえ、そんなことは微塵も思っておりません。ですが、ラトゥール家に仕える身として、建前でも聞いておかないといけません」


 もう、変な所で律義なんだから。ここには私達しかいないのだから、わざわざそんなことを聞かなくても構わないのに。


「それもそうね。さてと、一緒に戻ってお茶でもしない?」

「かしこまりました。先日、リーゼお嬢様がお好きな茶葉を入手したので、それをご準備いたします」

「まあ、それは楽しみね。のんびりと星を眺めながらいただこうかしら」


 クラリスと一緒に私の部屋に行こうとしましたが、その足はすぐに止められることになる。


 なぜなら、私達の行く手を阻むかのように、一人の男性が立っていたから――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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