その70
お話の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
「ねえ、どしたの?」
階段を降りながら、坂口さんがヤマシタさんに声をかけた。
「あ…うん…。」
ヤマシタさんは力なくそう言うと、俯いてしまった。
「なんかあった?」
坂口さんがヤマシタさんの隣に座った。
僕は2人よりも後ろの、少し上の方に座った。
河川敷のグラウンドで、ちびっこ達が野球の練習をしている。
ちょっと離れた場所では、やっぱりちびっこ達がダンボールをソリにして、土手の急斜面を何度も何度も滑り降りて遊んでいる。
楽しそうだ。
不意に顔を上げたヤマシタさんは、カバンからティッシュを出すと、ふーんと盛大に鼻をかんだ。
「…あ、ごめんなさい…。」
「…いいよ、そんなの…で?どしたの?まゆりん…なんで泣いてんの?」
「あ…うん…」
ヤマシタさんは涙を流しながら、ゆっくりと静かに話し始めた。
「ハル君、2年の女子に告白されたって聞いたから…。」
あ〜…それで…
「あ〜、あたしも聞いた、聞いた、その話、でも、もう関係ないじゃん!まゆりん、ヤマシタ君のこと、自分でフったんでしょ?」
「…そうだけど…」
「だったら、関係ないじゃん!」と坂口さん。
いや、いや、いや、いや、坂口さん!そうじゃないでしょ〜!
そうだけど、そうじゃないんだって!
ヤキモキしながら、僕は2人の後ろでじっと話の続きを聞いた。
「ハル君、その子と付き合うのかなあ?って…。」
「あ〜、どうだろう?付き合うのかなあ?相手の子、1コ下でしょ?どうかなあ?…でも、まあ、別に付き合ったってどうでもいいじゃん!そんなの。だってさ、まゆりんと別れたんだからさ…。」
「…そう…だけど…。」
「だって、話によると、別れの原因って、ヤマシタ君の浮気なんでしょ?だったら…。」
いやいやいや、だから、坂口さん、坂口さんよ!
それは誤解だって!
男ヤマシタが浮気なんかする訳ないに決まってるでしょうが!
それは女子のヤマシタさんの勘違い!妄想!勝手な嫉妬だって!
男ヤマシタは、女子のヤマシタさんだけなの!
女子のヤマシタさんのことしか好きじゃないんだって!
好きだから、好きな人の思う通りにしただけであって、嫌いになった訳じゃないんだってば!
僕は2人の会話に割って入りたかった。
口を挟みたかった。
けれども、じっと我慢した。
その方がいいと思ったから。
「あ、そうそう、教室で、鮎川に告られてたじゃん!今度、そっちと付き合ってみたら?」
いや、だから、坂口さんよ!
なんで、そんなにデリカシーがない訳?
ヤマシタさんの気持ち、わかるじゃろが!
自分でフッてしまったけれど、それは間違いだったって。
別れた今でも、いや、別れる前よりもずっと今の方が好きだって、やっとヤマシタさん、気づいたんじゃないよ〜!
なのに、なんで、違うやつと付き合ったらとか言うかねえ。
僕は、もう2人の会話に割って入ろうかと思った。
するとその瞬間、「あたし、やっぱりハル君じゃなきゃダメなの!ハル君が、ハル君が好き!好きで好きで好きで好きなんだもん!」と、ヤマシタさんの心が爆発した。
「…ん〜…やっぱ、そうでしょ?そうだとわかってたんだ、あたし。」
嘘だ〜!坂口さん、それ、今、急に思いついただけでしょ?
じゃあ、なんでさっきからずっと、ヤマシタさんの心をグサグサ傷つける様なこと、言ったのさ!
「うん、そうみたい。あたし、別れてからハル君のこと、ずっとずっと気になっちゃってしょうがなかった。だけど、言えない。自分の気持ちなんて、今更言える訳ない。だって、ハル君のことすんごく傷つけちゃったんだもん。自分からフったんだもん。今更、謝ったってダメだよね。もう、遅いよね。だって、ハル君、もう2年の女子に告白されたんだものね。もうダメだよね。元に戻りたいなんて、勝手だよね。勝手すぎだもん。あたし、サイテー!サイテーなバカ女だ。」
泣いているヤマシタさん。
「や、確かにまゆりん、サイテーだし、バカ女だけども…。」
えーっ!さ、坂口さん、なんてことを!
「そうでしょ。」とヤマシタさん。
「サイテーでバカ女だけどさ、今言った気持ち、そのままヤマシタ君に思い切ってぶつけてみたら?電話とか、手紙とか、メールじゃなく、ちゃんとヤマシタ君に会って、まゆりんの今の気持ち、ぶつけてちゃんと謝ってみたら?」
そうそう、僕もその方がいいと思う。
「もしかしたら…もしかしたらだけど…ヤマシタ君、許してくれるかもよ。」
「そうかな?」と涙目のヤマシタさん。
「そうだよ!」と、やっと僕も言えたのだった。
最後まで読んでいただき、本当に本当にありがとうございました。
お話はまだまだ続きますので、引き続き読んで頂けたら、嬉しいです。
どうぞ宜しくお願い致します。




