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滅人の彗星  作者: 天城らむと
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混沌は迷宮にて、立ち上がる

 どうもお久しぶりです。

 文字数二千文字から三千文字を目指して打っていたら、こんなに時間がかかってしまいました。やっぱり亀更新になってしまいましたが、どうぞお楽しみ下さい。

 魔界の瘴気と黒水はアルマクの南方の辺境の海域を占めている。


 そして悪魔たちが棲む魔界を構成する大陸は五つ。


 魔界の北方にあり、人の世界と接し、草木が生い茂る「カヴェンザーダ」。


 カヴェンザーダ大陸の南南西に位置する、数百年の周期で浮き沈みを繰り返し、この時代では群島に見える「モムヴィオエン」。


 他の大陸から離れた外洋に位置し、多くの島々に囲まれた焦熱の大陸「ギル」。


 大陸全体が乾燥し、特に中部から東部にかけて砂漠に覆われる「ドゥクテ」。


 そして北をモムヴィオエン大陸、東をドゥクテ大陸と接し、西北方から南方の海岸全体をイェガトラ山脈が走る魔界最大の大陸「ブベナ」。


 そのブベナ大陸の南西地域、ドゥクテ大陸とブベナ大陸を隔てるカムベーラ山脈と、イェガトラ山脈に挟まれた荒野に一つの影がある。


 それは一見すると一つの墳墓、あるいは神殿群にも見える。だが、近付いていくと、それは都市―城下町だと分かる。同心円状にそそり立つ三重の壁、城壁をくりぬいたような内側にいくほど数が減る城門、家屋と家屋との間を縫うように複雑に走る道路、城壁の中心にそそり立つ複数の塔が組み合わさったような宮城。その全てが魔界を覆う無限の闇の中で青緑色に怪しく輝いている。


 その都市は名を「ディクンデーテス」。


 悪魔は基本的に狩猟・遊牧生活を営む者が多く、そのために決まった住処を持たない。しかし、ディクンデーテスは定住生活を営む悪魔の、数少ない居場所だ。


 人魔終末戦が起こる遥か昔、多くの種族が支配者を旗頭に立てて殺し合っていた時代、ディクンデーテスはドゥクテ大陸に棲む異種族との戦争における要塞の一つとして建てられた。戦争が進んで人が攻勢となれば、鉱山と鍛冶の街として、人の時代が訪れてからはドゥクテ大陸とブベナ大陸を繋ぐ宿場町として発展した。


 人同士の大戦の中でも、大型兵器の使用が難しい点、元々中立を保っていた点等から戦闘に巻き込まれた事が一度たりともなく、その結果、あまり大きな被害を受けずにかの大戦を乗り切った。


 しかし、暗闇の支配者の力を持った蟲や草花が世界に広まっていく中、起点となった洞窟に近かったディクンデーテスは真っ先に影響を受けた。


 始めに外郭都市の裏路地に赤黒い色の翅を持つ蠅が飛び交い、硬く尖った毛の鼠が徘徊し、黒ずんだ色の苔と三つの青黒い斑が笠についた茸が生えた。それを食した犬猫や鳥達が赤黒い目を持って生まれ、純黒の蔦が家屋に絡み付いた。


 住んでいた長身人ながみびと達は何かがおかしい事に気付き、赤黒い目の鳥獣を駆逐し、苔や茸、蔦を焼き払った。


 しかしくだんの洞窟に近いディクンデーテスは空気や水までも暗闇の支配者の力の影響を強く受けていた。


やがて、長身人までもが普段通り生活していたと思ったら、激痛に襲われながら、黒い靄に包まれ、挙句の果てに






























肉塊を無理矢理尖らせたような角と漆黒の鳥の翼を生やし、肌は煤が付いたような黒色に変じ、血のような色の、瞳が見えにくい六つの眼を開くようになった。


 生ある者を僅かな時間で悪魔へと変える現象―魔道化がディクンデーテスのそこかしこで次々と起こった。


そして三年も経たずして、ディクンデーテスは悪魔の巣窟へと成り果てた。


 それからというもの、ディクンデーテスの様子は激変した。元からあった入り組んだ道路と水道に沿って計画的に家屋が建てられ、樹木が植えられた。坑道を埋め、あるいは掘り進め、果てに地下街が作られた。市庁舎と外周壁を含む全ての建造物は完全に壊された後、建て直された。特に市庁舎は複数の塔が組み合わさったような宮城へと変貌した。


 青黴石あおかびいし、という鉱石がある。文字通り、青黴のような鈍い青緑色を持つ魔界の岩石の一種で一つ一つが大きい塊のまま切り出すと、魔界の瘴気を多く吸収し、より強い力を孕んだ瘴気を放出するようになる。


 ディクンデーテスの市庁舎、と言うよりディクンデーテスの建造物のほぼ全ては元々付近の山々や荒野から採れる粘土を焼いた焼き煉瓦れんがを使って建てられていた。故に、都市全体が赤茶けた色をしていた。しかし、煉瓦は悪魔にとっては作りやすいだけであまり価値がないものだった。ディクンデーテスが悪魔の巣窟に変わってしばらく経った頃に、煉瓦作りの建造物は、切り出してから建築に使うまでの時間がかかっても、悪魔に強い力を与える青黴石で建てられた建造物に取って代わられた。


 それからというもの、「魔帝のはたけ」として目的を問わず、多くの悪魔が住み、また出入りした。


 しかし、人魔終末戦で多くの悪魔が死んでからというもの、ここに住む悪魔は大きく減った。次期魔帝候補の全員が光明の支配者の生み出した光に呑み込まれ、骨片の一つも残さず、消滅。魔界最強と謳われた剣戟隊をはじめ、魔軍全体の部隊の多くも全滅。


 代々の魔帝が住んだ宮城も住む者がいない憐れな城となっていた。


 先刻までは、と付くが―































「―各々の作業が終わったら、此処に戻ってこい。私は宮城の地上部に必ず居る」


 ディクンデーテス宮城の城門前の広場で五人の悪魔―天魔が話し合っていた。


 天魔は暗闇の支配者の力で天の住民が悪魔となった存在である。形状の個体差が大きい捻じれた六本の角、二つで一組の繋がった血のような色の眼、尖った耳、耳元まで裂けた口、その口から生える二重の歯と長く鋭い舌、六本の指、四枚の翼、先端が骨塊となった尾を持つ。そして全ての悪魔の中でも特別、武器を使った戦闘で名を残した者が多い。


 厳密には、一人の男が残る四人に指示を出している、と言うべきだろう。


 男は五人の中でも一際大きな身体を隠す黒ずんだ紅の鎧、大蛇の彫刻が刻まれた小手と長靴、黒地に深紅の炎を象った外套を身にまとい、炎を象った大剣を背負い、色違いの二振りの長剣―男にしてみれば短いかもしれない―を腰に差していた。


「―これ以上、私からは話す事はない。各々の持ち場は分かったな?」


「はっ、復唱します。私が倉庫街に入り、損傷具合と中身を調べる」


 物静かな雰囲気を漂わせる、老年の男が答える。


「私は居住区の整備」


 氷柱のように冷たい雰囲気の女が端的に言い放つ。


「工房全般は私が回るのね!」


 幼い雰囲気を纏った女が快活に答える。


「で我輩が外郭都市、城壁、及び監視塔を調べると」


 そして朗らかな笑みを浮かべた男が大きな声で答えた。


「そうだ。接敵した時は間違ってもその場で攻撃しようとするな。必ず私の所まで来い。策を弄する事を忘れるな」


「「「「御意」」」」


「クル―『混沌』様、では行って参ります!」


「こら、余計な事を話すんじゃない。ほら、行くよ」


 その一声の後、四つの影がディクンデーテスのどこかへと走り去った。


「まずは子供部屋に向かうか」


 そうして残った天魔―『混沌』はおもむろに振り返り、城門へと歩み寄った。


 たかが百年、されど百年。しかし、この城にとっては永い百年だったようだ。その碧い壁は雨風に晒され、彼方此方あちこちが欠け、丸みを帯び、色もくすんでいる。張り付いた苔と蔦は数知れず。そこかしこに走るひびは遂には大穴を開けていたらしい。それも大柄な混沌が屈む事なく通れる程、大きな穴だ。


 城門の左方、然程離れていないその穴の中へと、混沌は消えていった。































「……」


 ディクンデーテスの宮城、その窓口たる玄関広場は荒れていた。明らかに何かが入り込んで住み着いたような荒れ方だった。しかも屋根が盛大に崩れ、屋根だった物が山を作っている。絨毯や垂幕はやはりと言うべきか、破れている。犯人は十中八九空を飛べる獣だ。


「此処に住む魔が増えたら、修繕をさせるか」


 そう呟きながら、混沌は本来の出入り口たる城門から延びる絨毯の上を歩き、左右に分かれる階段の右の方を登っていった。


 続く廊下には多くの閉じた扉があった。しかし、混沌にはどの扉の向こうにかつて、どんな景色が広がっていたか、知っている。


 そのまま混沌は廊下を進み、渡り廊下も進んで最初に入った館から数えて二つ目の塔に足を踏み入れた。その彼に視界に一つの扉が入る。混沌は迷いなく、その扉を開き、中に足を踏み入れる


 その部屋もまた荒れていた。八つの寝台だけが形を留め、それ以外の、例えば机や書棚は最早ただの木片に変わり果てていた。


「随分と待たせてしまったな…。私が必ず…必ず……全てを終わらせる」


 彼の憎悪に満ち満ちた呟きが静寂に消えていった。


 魔刃の団長たる彼の、闘争が始まった。

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