自作自演
昨日の続きです。
ルイカの言葉に、一瞬頭が真っ白になってしまった。
「ダリア、大丈夫?」
何も話さない私に、ルイカは心配そうな顔をして首を傾げる。
「‥‥‥それは、それはつまり、シマキ様の自作自演って言いたいの」
「そう。敵の気配を感じなかったのも、最初はシマキ様しか部屋に、いなかったから。多分、貴方を襲ったのは、シマキ様、本人。その後で、敵役を部屋に引き入れたんだと思う。シマキ様なら、貴方の隙を、付ける」
「そんなことない! だって、そうでしょう。それこそ、動機がないもの。そんな、意味のないこと、シマキ様がやるはずない!」
「動機は、貴方、でしょう」
ルイカの声は、小さな部屋にいやに響いた。
「わ、私?」
「そう、貴方に不安を与えて、精神的に依存、させるため。いまみたいに、ね」
「依存‥‥‥?」
「貴方は、いま、明らかにおかしい。シマキ様から、離れたくなくて、周りの目なんて、気にすることなく、常にくっついている。シマキ様の真の目的は、貴方を離れさせない、ことなんじゃないの?」
「そ、そんなはずない。そんなはずないよ! だって、シマキ様は離れたがらない私を突き放すような態度をとったんだよ。もし、ルイカの言う通りだとしたら、私のことを受け入れるはずでしょう」
「あからさまに? そんなことしたら、貴方に真の目的を、勘づかれる、かもしれない。シマキ様は、とても頭が良くて、冷静で、怖い人。そんな、失敗はしない」
そんな風に言われても、私はどうしたって信じられなかった。だって、シマキ様はとても親切にしてくれた。誘拐された後だって、私のことを捨てることなく、面倒を見てくれている。
「それに、今回の事件、決め手はシマキ様の証言だったと聞いた。確たる証拠は、出てない」
確かに物的証拠については、誰も明言しなかった。
「で、でも、リムは? そうだよ! リムは陛下の御前で、罪を認める様な発言をした。それはどう説明するの?」
リムは陛下の前で、確かにシマキ様ではなく私を誘拐しようとしたと言っていた。あんな発言、シマキ様の自作自演なら言わないはずだ。
「‥‥‥魅了の力。これも、あくまで私の予想だけど、あれには、力の影響を受けやすい人と、そうでない人が、いるんじゃない」
「それが何だって言うの?」
「影響を受けにくい人は、少し好感を覚える程度。でも、受けやすい人は、崇拝の様な感情に、なる。そんな人が、シマキ様に、お願いされたら、洗脳されたように、願いを叶えたく、なってしまうのかも、しれない。それが、例え、死ねという願い、でも」
崇拝という言葉に、私はある人物を思い出す。ラールックさん、彼女は正にシマキ様を崇拝していた。そんな彼女が、シマキ様に死んでと頼まれたらどうするのか‥‥‥答えは簡単に想像できた。
私のまだ冷静な部分が、あり得る話かもしれないと囁いていた。
俯く私のことをルイカは、気にしないように話を続けた。
「もし、私の予想が、合ってるとしたら、シマキ様は貴方に、相当、執着している。そして、私は、貴方に対して、ここまでの執着心を持つ人を、ひとりだけ知っている」
「何を、言ってるの?」
私の問いかけに、ルイカは唇を噛み締めた。その体は、少しだけ震えている。目線がキョロキョロと迷うように揺れていたが、軈て決心したように真っ直ぐと此方を見た。
「‥‥‥ストーカー男」
ドクンと心臓が飛び跳ねて、呼吸が荒くなっる。前世で私を殺した男。もう二度と思い出したくないその名前を、ルイカは不意に口にしたのだ。
疑惑のシマキ。
 




