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生きている理由

誘拐騒ぎの後の話です。

後日、私たちは秘密裏に王宮に呼ばれた。ペールン公爵も呼ばれたようで、慌てて学園までシマキ様を迎えにきたのだ。


私はその時、ペールン公爵の怒り狂った顔を見て、殺されることを覚悟した。

ペールン公爵は、シマキ様を馬車へ乗せると私にも乗るように命じてきた。恐ろしすぎて彼を見れずに俯くことしかできなかった。

私が座ると、重苦しい雰囲気を乗せたまま馬車は出発した。


「君には失望したよ。矢張り、夏休みの時点で君を殺すべきだった‥‥‥約束は覚えているね」


かつて感じたことのない威圧感に、体を震わせることしかできない。


「すみ、ませんっ」

「謝って済む問題でもない。この件が解決したら、約束通りに君を処理する」

「──ッ!」


無様にも泣いてしまった。

自分が悪いのに、価値のなくなった自分のせいなのに、私はまだこの世界で生きていたいと貪欲にも思っていた。

体を震わせて泣いている私の手を、そっと握ってくれた人がいた。

驚いてシマキ様の方を見ると、いつもみたいに安心させるような笑顔を浮かべている。その右頬がガーゼに覆われていて酷く痛々しかった。


「お父様、聞き捨てなりませんね。ダリアを殺す? ご冗談が過ぎますよ」

「冗談ではないよ。君の専属メイドになった時点で約束していたことだ」


珍しく苛ついたように返したペールン公爵に、シマキ様は目をすっと細めて睨みつける。


「なるほど、お父様はわたくしに死ねと仰る」

「そんなこと言ってないだろう!」

「ですが、ダリアを失えば、最早わたくしには生きている理由などありません。後を追うことになるでしょう」


その言葉にペールン公爵だけでなく、私も驚く。それこそ冗談だとしても笑えない。


「何を馬鹿なことを言っているんだい!?」

「本気です。わたくしが、そんな冗談を言わないことはお父様が一番わかっているはずでしょう? それで、どうなさいますか。ダリアを殺すのですか、殺さないのですか」


シマキ様の言葉には、ペールン公爵以上の威圧感があった。


「‥‥‥わかった、処理は見送ろう」


渋々と言った風に私を睨みつけながら、放った言葉は全く納得していなさそうだった。


「賢明なご判断、感謝いたします」


その時ガタンと馬車が止まり、王宮に着いたことを知る。

三人で馬車を降りると、そこにはコートラリ様が待っていた。私たち三人が挨拶をすると謁見室へ通される。

そこには、国王陛下と王妃殿下が座っていらっしゃった。そして、貴族と思われる男女が四人、深刻そうな顔をして佇んでいる。


「シマキ嬢。この度は大変だったようだな」

「お心遣い感謝いたします、陛下」

「うむ。此度の件、王太子とも関係があるかもしれんと此方で調べた結果、首謀者がわかった。今日呼んだのはそれを知らせるためだ。近衛兵、罪人を此処に」


近衛兵に拘束されて、連れてこられた人たちは全員見覚えのありすぎる顔だった。驚き、声も出せずにいる私と違って、シマキ様とペールン公爵は落ち着いていた。


「この通り、首謀者はリム・エルンマット、アビー・プラチナ、イビー・プラチナの三名だった」


陛下のその言葉に、深刻そうな顔をしていた貴族の四人が、顔を更に暗くさせた。その様子を見て、私は漸くこの四人が、エルンマット侯爵夫妻とプラチナ伯爵夫妻ということに気がついた。


「王太子、後の説明は任せる」


陛下は気だるそうにため息を吐くと、椅子に座り直した。陛下の声を受けて、コートラリ様が話を引き継ぐ。


「はい、陛下。では、事件の調査報告をしましょうか」


コートラリ様はにっこりと笑う。


「まず実行犯たちは、プロの暗殺集団の一味であることが発覚した。彼ら現場で間抜けにも気を失ってお縄にかかっていたからね。そのまま現行犯で捕まえることが出来た。

その彼らだけど、尋問したらすぐに口を割って依頼人は女とわかったんだ。そこからは簡単。その女の素性を調べた。

その結果エルンマット侯爵家に勤めるメイド、それも罪人リムの専属メイドであることが判明したというわけだ。そして、女の証言からリムが主犯であることがわかり、この度、逮捕という運びになったというわけだよ」

「エルンマット侯爵並びにプラチナ伯爵、申し開きはあるか?」


陛下の疲れたような声に、エルンマット侯爵は「ございません」と頭を下げて答えた。


「お父様っ!」


切り捨てられたことを察したリム様は、錯乱状態になり泣いている。そのリム様を近衛兵が、押さえつけた。


「陛下の御前で、勝手に発言しないように」


コートラリ様の一言で、リム様は漸く静かになった。それを見計らったように、プラチナ伯爵が落ち着いた声で発言する。


「恐れながら陛下、今の話だけ聞きますとアビーとイビーは関係がないように思いますが」

「王太子」

「アビーとイビーは、暗殺集団をリムに仲介した。そもそも、今回のこの作戦、話を持ちかけてきたのは二人だとリムが証言しているけど」

「ち、違いますぅ! あたしたちは関係ない」

「アビー! 貴方、裏切るつもりですの? この作戦なら、絶対成功するって言ったのは貴方でしょう!」


勝手に話出した二人に、コートラリ様がまた怒鳴る。それに怯えた娘たちと違って、プラチナ伯爵は未だに落ち着いていた。


「リムの発言だけでは、私たちの娘が関与していたという証拠にはならないでしょう」

「プラチナ伯爵、残念だけど二人は昔から、件の暗殺集団と関わりがあったようだ。何人も証言しているよ。中には実害を受けたものの、泣き寝入りするしかない人たちからの証言もあるけど、余罪として調べるかい?」


ここにきて初めて、プラチナ伯爵の顔に動揺が走った。以前から知っていて黙認していたのだろう。


「し、しかし、今回のシマキ様の誘拐と関わっていたという証拠にはなりません」


そう言った瞬間、隣にいたシマキ様がすっと手を挙げた。周りの目が一気にシマキ様に集まった。

少し長いのでわけました。続きはまた明日出します。

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